第79話 ヴァルハラの思い。

クレナイの話を聞いて分かったのは、ヴァルハラが魔物の脅威に晒されている事、古代都市を停止して南方の国に攻められるのを危惧している事、エインヘリヤルがそれを阻止しながらも国盗りを目論んでいた事だ。


国盗りは、ウルが企てた事でそれに賛同している幹部も数人居るらしい。

魔糸でグルグル巻きにされて気絶しているオーズもその1人で、ヴァルハラを裏切ってる。


それらの話を聞いてふと、カリムス王国の事はヴァルハラに伝えていないのか聞くと。


「部下が報告してるが?」

「どんな報告をしてんだろうな? レイン、カリムス王国の女王は元プレイヤーで侵略なんてまったく考えてないと思うがそれでも、高炉停止を阻止しようとする理由はなんだ?」


そう聞くとクレナイは、少し間を空けて答える。


「……この星が消滅するらしい」

「あぁ、それは俺も知ってる」

「そうか、ならそれが理由だ」

「でも停止方法が見つかれば停止させても問題無いだろ?」

「そんな方法があるのか?」

「現在模索中」

「なるほど……ヴァルハラでもその方法は探ってるらしいが、まったく手がかりが掴めないそうだ」


別次元のエネルギーを分離して暴走を止める。

そう簡単に方法が見つかれば、既に停止してるよな。

とりあえず俺は、ヒヨに会う。

大賢者であるヒヨなら、何か方法を見つけられるかもしれない。

まあ、俺も研究は続けるけど。


「あっ、次元エネルギーを使えるようにする方法は知ってるか?」

「あぁ、あれはウルがやってた事だから詳しくは知らねぇ」


やっぱりユニークスキルで使えるようにしてたのかな?

うむ、殺す前に聞いとけばよかった。

あいつの死霊も見当たらないし、死んだら地球に戻るのかも?

死霊になって戻っても意味無いけどね。



一通り聞いたかなと思うとシュートが問い掛ける。


「さっき古代都市を超えたみたいな事を言ってたが、抜け道があるのか?」


聞かれたクレナイは俺を見て言って良いのかと目で聞いて来たので、俺が代わりに答えた。


「クレナイは、ハンターでハンゾウみたいに影に潜れるし、影の中を移動出来るんだ。だから古代都市を超えられるって事だ」


そこでアキオが首を傾げ。


「ん? キジ丸も出来るのか? さっきクレナイ? が言ってたよな?」

「あぁ……俺は、転移が使えるからね」

「マジかよ」

「侍で転移を使えるとは知らなかった」

「ゲームの時、スキルオーブで取得したんだ」

「良いな。俺も欲しい」

「俺は短距離の転移なら出来るぜ?」


シュートは魔法剣士の上位職だ。

使えても不思議ではない。

しかしクレナイが。


「いや、短距離なら止めといた方が良い。どのみちスキラスに囲まれて終わりだ」

「やっぱ長距離転移を習得すればよかったか」

「ん? 選べんの?」

「ああ、戦闘に使えると思って短距離を選んだんだが、今となっちゃ長距離を選べば良かったと後悔してる」


詳しく聞くと短距離転移は、半径50メートル以内ならどこでも転移可能だが、魔力の消費量が多く、連続で使ってるとすぐMPが無くなるらしい。

なので戦闘ではほぼ使わないそうだ。

勿体ない。



そんな話をしてるとオーズ達が目を覚ます気配がしたので、魔力で体内に印を書き不動金剛術を発動し、黒ずくめとオーズを動けなくして話す事も出来ないようにした。

余計な事を言われたらマズいからな。


「よし、話しは大体分かった。シュートとアキオももう良いか?」

「いやいや、こいつらを放置は出来ないだろ」


と、アキオが言うので俺は。


「トップならもう始末したぞ? クレナイは、依頼でこの組織に潜入してただけだし、後の事はクレナイに任せよう」


するとシュートが口を開く。


「依頼? 誰の依頼だ?」

「依頼主を言う訳ないだろ」


当たり前の事をクレナイに言われ「確かに」と納得するシュート。

その後、何とかシュートとアキオを説得し、ハンゾウを使って先に2人を上の店に戻す。


そして俺とクレナイ、黒ずくめとオーズだけになったので不動金剛術を解き、クレナイに告げる。


「さて、こいつらは始末しといてくれ」

「弟子たちもか? オーズだけで良いだろ?」

「お、おい!? サーガ!? 俺はウルとは関係ねぇぞ!?」

「ウルが国盗りを明言した時、既に知ってただろ? それでもあいつに加担したって事は……そういう事だ」

「それに、俺の正体を知ってる奴は始末する」

「それは俺が教えたんだがな」

「やっぱりお前か」

「信用を得るために利用させてもらった」

「まあ、良いけどね」


そう言うとホッとするオーズ。

そこでクレナイが言う。


「オーズは始末しても問題無い」

「なっ!? おいサーガ、俺達仲間だろ!?」

「依頼で入っただけだが?」


すると苦虫を噛み潰したような表情をするオーズ。

ここで始末するのが手っ取り早いが……仕方ない、チャンスをやろう。


「よし、じゃあオーズ。今後俺の正体をバラさないと誓うなら、見逃してやろう」

「誓う! 絶対誰にも言わない!! 約束する!!」


俺はその言葉を聞いてニヤっと笑みを浮かべる。


「今の言葉忘れるなよ? 守らないとその場でお前は死ぬ事になるぞ?」

「へっ? どういう……」


キョトンとしているオーズに右手を向け、掌から小さな光の球をスッと出し、オーズの胸の中に沁み込むように入って消えた。

オーズはグルグル巻きの状態で球が入った辺りを見た後、俺を見て何をしたのか聞くので笑いながら答える。


「お前に縛りを付けた」

「縛り?」

「本来縛りは訓練に使うんだが、こういう使い方も出来る……お前が俺の正体を誰かに言った瞬間、お前の心臓が潰れるようになってるから、つい口を滑らせるとその場で死ぬ事になるから気を付けろ」

「っ!?」

「そんな事も出来るのかよ」


これはゲームの時から考えていた使い方だ。

まあゲームでは、忍びの誓というシステムがあったので使う事が無かったんだけどな。

ん?

忍びの誓なら今も出来るかも?

まあ、こっちの方が確実だし良いか。


「試しに誰かに話しても良いぞ? 命を懸ける事になるけど」


そう言うが茫然としたままのオーズ。

試したい気もあるんだろうが、実際やれば死ぬ事になる。

つい話の流れで言ってしまっても死ぬのだ。


「そうだな……50年。50年言わずに居たら解除してやる」

「50年……その前に寿命で死ぬな」

「そりゃそうだ」


へこむオーズと笑ってるクレナイ。


「不老じゃないの?」

「いや、ウルが死んで契約は消えたから既に不老じゃない」

「あぁ……ん? いつから不老になった?」

「俺は約30年前だな」

「それまでは普通に歳取ってたんだろ? あんま変わってねえな」

「変装術は良いぞ」


なるほど、若作りか。

うむ……不老ねぇ。


時空属性のある俺は、それだけで不老だが……出来るかも?

俺は目の前に居る奴らを見てニヤっと笑みを深める。


丁度良い実験体が居るじゃん。

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