第72話 アジトへ。

まさかのエインヘリヤルのアジトが食堂だったとはね。

しかし、飯を食いに来たつもりだったのに。

シュートを見ると知っていたようで、特に気にした様子は無い。


まあ、シュートも女から聞いてるだろうから分かるが、なぜ前もって言わないんだよと思う。


「このまま試練に入るのか? 飯を食いたいんだけど?」

「あぁ、さっきのは、取り次いでもらうための合言葉だ。飯は普通に食う。しかもここは美味いらしいぞ」

「タクシーの運ちゃんに聞いたんじゃねぇの?」

「ここの事を聞いたら、美味い店だって教えてくれたよ」


なるほどねぇ……まあ良いか、飯が食えるならそれで。

なんて思っていると奥から店員が出て来た。


「いらっしゃい、注文は何にします?」

「俺はこれで」

「じゃあ、俺はこれ」


アキオとシュートが普通に注文してるので、俺もすき焼き定食とビールを注文。

そこで店員が。


「じゃあお客さん、奥へどうぞ」

「ん? 俺だけ? 飯は?」

「奥で出します」


アキオとシュートを見ると何も言わず、ただ頷くだけなので席を立ち、カウンター内に入ると奥へ案内される。

カウンターの奥に暖簾のれんが掛かっており、そこを潜ると厨房で何人もの人が働いていた。


それらを無視して奥へ行くと、業務用のエレベーターがあり、それに乗って地下へ向かう。

20秒程してエレベーターが止まると扉が開き、薄暗い通路が伸びている。

天井に明かりは無く、足元の両サイドに、等間隔に明かりが点いてるだけ。


降りると店員が。


「では、奥へお進みください」

「ここからは1人でって事かな?」

「2人とお聞きしておりますが?」


あぁ、ハンゾウの事か。


「確かに、もう一人居るね……ただ進めば良いの?」


店員は笑顔で頷く。

さて、何が待ってるのか楽しみだねぇ。



俺は魔力感知、空間感知、気配察知を発動させながら扉も窓も無い幅約3メートルの通路を歩いて行く。


10メートル程歩くとすぐ行き止まりになり、周囲に扉も何も無いが空間感知ですでに把握している。

正面の壁の下には、1センチ程の隙間があり、約10メートル程分厚い壁が続いてる事に。


さっそく影に潜らないと進めないような造りだ。


「ハンゾウ」


ハンゾウを呼ぶと、ハンゾウがやったかのように見せかけ自分で影に潜って影の中を進み、壁が終わると影から出てまた10メートル程の通路を歩いて行くと、突き当りに絵が描かれていた。


黒い人型が、焚火の前で座っている絵。

その上に、黒い人型が剣のような物を持って2体向き合っている。

そして次は、黒い人型が白い人型の背後から短剣か何かで首を掻っ切ってる絵。

4つめは、黒い人型が大きな魔物と戦っている絵だ。


それらの絵が描かれた一番上には、白い人型が描かれており、その頭上に『?』が描かれているだけで他には何も無い。


「……なぞなぞ?」


この?の意味を答えないといけないのか?

焚火……戦闘……暗殺……大きな魔物…………あぁ、なるほど。


「影忍?」


すると壁がガコっと音がしてズレると、横へスライドして通路が現れた。

今の絵は、下から順に下忍、中忍、上忍、忍び頭ときて最後は、影忍を表してる。

全てクラスアップクエストの内容だ。


現れた通路は、5メートル程で正面には両開きの扉がある。

これで終わりかな?

簡単な試練だねぇ。


なんて思いながら扉を押して開けるとそこは、床も壁も天井も石で作られている空間で天井まで約20メートル程あり、幅は約40メートル。

奥行きは約100メートルある広い空間だ。


天井にはアーチ状の装飾が施され、ボロボロになってるが何か絵が描かれていたような跡がある。

空間全体の形は体育館に似てるな。

周囲の2階部分には手すりがあって通路があり、その壁には等間隔に窓のような窪みがある。

地下だから外は見えないだろうけど。


天井に小さな灯りが幾つか付いており、それなりに見やすい。

暗視があるので暗くても見えるけどね。


それよりも、人が多いな。

あっちこっちに隠れてやがる。

ここで襲うつもりか?


魔力感知には魔力の反応があり、気配察知には殺気がビシビシ伝わって来る。

隠れる気がまったく無いのでは?


しかし、動きが無いので警戒しながら歩いて行くと、前方10メートル程の床から3人が姿を現したので立ち止まり、周囲の者が動かないか警戒。


出てきたのは、真ん中に青白い髪の男で服装は、白シャツに白いズボンと白い靴を履いたラフな格好だ。


左には、短髪の金髪で薄暗い中グラサンを掛けており、Tシャツにジーンズでサンダルを履いた男。


そして右側には、長い茶髪の可愛らしい女の子。

服装は、ゴスロリっぽい格好だ。

どこかで見たような?


「……あっ、食堂で会計してた子だ」


ミツキとキミカと食堂に入って時、丁度会計していた子だね。

あの時は、驚いた表情をしてたけど、俺の事を知ってるから驚いたのかも?


すると金髪が口を開く。


「よく来たな。最強のキジ丸さん。で? 何の用だ?」


そこで青白い髪の男が口を開く。


「それよりキジ丸、僕と契約しないか?」

「契約? 俺は話をしてほしいと言われてここに来たんだが? なのでそんな怪しい勧誘はお断りだ」

「まあ話は最後まで聞け……まずは自己紹介をしようか、僕はエインヘリヤルのナンバー1をしてる『ウル』だよ」


そして金髪が続けて言う。


「同じくナンバー3の『オーズ』だ」


最後に女が自己紹介をする。


「私は……ナンバー2の『サーガ』」


変わった名前だな。

まあ、本名じゃないだろうけど。


「あっ、ちなみに全員本名じゃないからね? これはコードネームみたいなものだよ」


と、ウルが言う。

俺の心を読んでるのか?


「じゃないとこんな名前付けねぇだろ」

「そうかな? 僕は良いと思うけど?」

「北欧神話の男神と女神の名前を付けるのは、厨二臭いぞ?」

「それが良いんじゃないか」


なるほど、北欧神話の神の名前か。


「とりあえず話を進めてもらって良いか?」

「あ、ごめんごめん……それで僕と契約って話しだったけど、特典はなんと不老になれる! どうかな?」


不老って、俺は既に不老なんだけど?

えっ、もしかして他の奴らはそれに釣られてメンバーになってるのか?

まあ、どっちにしろそんな話はお断りだな。


「断る」

「……本当に? 不老だよ?」

「不老になる代わりにお前に従えって事だろ? 断固拒否する」

「はあ~、素直に受け入れてくれてたら良かったのに……これを見てもう一度答えてくれるかな?」

「キジ丸!」

「大丈夫かキジ丸!?」


声がした方に目を向けると2階の通路に、シュートとアキオの姿が。

ロープで縛られ、黒ずくめに連れられている。

左の通路にシュート、右の通路にアキオだ。


うむ……これはもしや脅しというやつか?

…………面白い。

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