第71話 アバッテ王国に到着して。
使い魔を解除して席で待っていると、アキオが戻って来て席に座り深い溜息を吐く。
「はぁ~……キジ丸、ハンゾウに礼を言っといてくれ、お陰で被害を出さずに済んだ」
「オッケー」
「無事に済んで良かったな」
「アバッテに入る前に何かあれば、面倒事になってたぞ」
ここでもし乗客に被害が出ていれば、アキオとシュートはアバッテに入る事は出来なかったそうだ。
後処理をしなければならなかったからな。
とにかく、これでアバッテに入れる。
それから暫くして列車が出発し、20分程してアバッテ王国、中央駅に到着した。
中央駅までに幾つかの駅はあったが、中央駅が目的地だったので無視。
他の乗客が荷物を持って席を立ち、通路に出てゾロゾロと列車を降りて行くので空くまで席で待機し、数分程して俺達も席を立つ。
俺は身体を解すために伸びをして首をコキっと鳴らす。
「良いシートだけど、長い事座ってるのはやっぱ疲れるな」
「ああホテルでビール飲みてぇ」
「アジトにはいつ行くんだ?」
するとアキオが答える。
「この後昼飯を食ったら」
「了解」
「じゃあ、そこで飲むか」
「仕事前に飲む気かよ」
「一杯飲むくらいじゃジュースと変わらん」
まあ、毒耐性があるならそうだろうが、将軍がそれで良いのか?
なんて思いながら他の乗客に続いて列車を降り、広いホームに出て見回すとカリムス王国とは違った雰囲気の駅構内に、ちょっと感動。
何本もの線路と列車が並んでいるのは同じだが、建物のデザインがレトロとファンタジーが混ざったような感じで結構良い。
カリムス王国は近未来的だがアバッテ王国は、懐かしい雰囲気が残ってる。
「良いなこの感じ」
「カリムス王国の綺麗な感じも良いが、こういうのも悪く無いよな?」
「ほらさっさと行くぞ」
アキオが歩き出したので後を付いて行きながら、キョロキョロと周囲を観察して付いて行く。
エレベーターに乗って1階へ行き、大勢の人が行き交う広いロビーの中を進み、正面扉から外に出るとそこには、何とも不思議な光景が広がっていた。
「おぉ~」
「いつ見ても不思議な感じだ」
「ほらこっちだ」
アキオはロータリーに停まってる黄色いタクシーの所へ行き、運転手と何か話している。
のんびり後を追いながら景色を楽しむ俺。
アバッテ王国は、高いビルはあるが地球の現代と殆ど変わらない感じで、その中には中世風の建物も残っているのだ。
地球の海外って感じだな。
運転手と話していたアキオが振り向き。
「よし、このタクシーでホテルに向かう」
「何を話してたんだ?」
「おすすめの飯屋を聞いてた」
タクシーの運ちゃんは、あっちこっち行ってるからね。
いろんな店の情報は持ってるだろうな。
その後、タクシーに乗り15分程してホテルに到着。
大きな通り沿いにあり、石造りの8階建てで古い建物みたいだが装飾があって高級感が凄い。
話を聞くと実際このホテルは、かなり歴史があるそうで著名人が利用する高級ホテルらしい。
アキオは数年前、警察としてアバッテによく来ていたらしく、その時毎回このホテルに泊まっていたそうだ。
中は赤い絨毯が敷かれ、天井には豪華なシャンデリア。
まさに高級ホテル。
入って正面の受付でチェックインし、エレベーターで最上階の部屋へ向かう。
「リゾート地にありそうなホテルだな」
「ちなみにこのホテル、カリムス王国にもあるぞ」
「マジか」
どうやらアキオは、このホテルのファンらしい。
なんて話をしながら最上階のスイートルームに入り、ソファに座って一旦休憩。
地球でもこんなホテル泊まった事は無いよ。
3人でソファに座って落ち着くと、アキオが口を開く。
「さて、この後飯を食ってアジトに行くが……俺とシュートは外で待機する」
「俺だけで行って良いのか?」
「あの女の話しだと、キジ丸というかハンゾウしか入れないらしい」
「どういう事?」
「あいつらのアジトは、忍者しか入れないんだとさ」
「じゃあ、俺も無理じゃね?」
「いや、ハンゾウと一緒なら入れると言ってた」
「ならお前らも一緒で良いんじゃ?」
するとアキオが首を横に振り答える。
「お前がハンゾウの主で、最強と呼ばれるプレイヤーだから入れるんだ」
「……もしかしてアジトに入るまでに、いろんな仕掛けがあるとか?」
「詳しくは言わなかったが、とにかく忍者しか入れないんだとよ」
「ん? じゃあ、お前らが来る必要無かったんじゃね?」
「いや、試練を超えれば、付き添いの俺達も入れるようになってる」
そこでシュートが話しに入って来る。
「キジ丸とハンゾウなら余裕だろ?」
「いや、見た事無いのに何とも言えないだろ」
「どんな試練なんだろうな?」
忍者しか入れないって事は、壁や天井に張り付いてしか入れない入り口とか、遁術を使って入るとか?
それか影に潜って入る?
ゲームだと影渡りは影忍にならないと出来かったけど、現実になったこの世界だと教えれば、誰でも出来そうだが……。
「じゃあ、先に飯でも食いに行くか」
アキオがそう言って席を立つので後に続き俺達も立ち、部屋を出てエレベーターで1階に降りるとホテルの受付でタクシーを呼んでもらい。
数分でやって来たタクシーに乗るとアキオが運転手に『ハリー食堂へ向かってくれ』と言い、タクシーが発車。
助手席に座っているアキオに後ろから、ハリー食堂ってのが美味い店なのか聞くと「行けば分かる」としか言わず。
仕方なくシュートと俺は黙って乗っていた。
数分後、ハリー食堂という看板を掲げた食堂の前に到着し、アキオが支払いを済ませ降りて店を確認するが特に変わった様子は無く、白い壁に木製の扉でオシャレな雰囲気のある店だ。
アキオが扉を開けるとチリンチリンと鈴が鳴り、中はテーブル席とカウンター席がある普通の食堂って感じだった。
左右にテーブル席、正面奥にカウンター席。
イスもテーブルも全て木製で、落ち着く感じだな。
飯時だからか結構客も入ってる。
アキオが奥のカウンター席へ向かい、座ったので挟むように左に俺、右にシュートが座り、カウンターの上にあるメニューを手に取って何にしようか考えているとアキオがカウンター内に居る店員に向かって言う。
「戦士の肉は入ってるかい?」
「……丁度良いのが入ってますが、どれ程にします?」
「2人前、残りはお持ち帰りで、それからデザートも付けてくれ」
「畏まりました。少々お待ちを」
そう言って奥に引っ込む店員。
今のやり取り……。
「合言葉か?」
頷くアキオ。
まさか……。
「ここが?」
またも頷くアキオ。
まさかここが、エインヘリヤルのアジトとはねぇ。
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