第70話 カリムス王国最後の駅で。

賞金首の男は、35歳無職。

名前は『シャール』でなぜ指名手配されてるのか?

それは、付き合っていた女とその家族全員を殺し、隣に住んでいた男も殺して逃亡。


当初警察は、すぐ捕まえられると思っていたが足取りがまったく辿れなくなり、逃げられたとの事。

隠れるのが上手いのかな?

魔法がある世界で逃げ切ってるとはね。


「あっ」

「動いたか?」

「いや、さっきの駅で弁当買えば良かったなって」

「紛らわしい」


シュートにジト目を向けられる。

そこでアキオが話しに入って来た。


「昼までには着くから、あっちで食おうぜ」

「その前にあいつが降りたらどうする?」

「捕まえて現地の警察に引き渡し、すぐ出発だ」


地下都市にも警察が居るんだ。

どこの国になるのか聞くと、次の駅まではカリムス王国の領土になるらしい。

広いね。



その後、雑談をしながら使い魔で監視を続け、カリムス王国最後の駅に到着するが男は、席を立とうとしない。


「どうだ?」

「まだ降りないみたいだな」

「このままカリムス王国を出るつもりか」

「ちなみにアバッテ王国に入ると何かマズい事でも?」

「いや? 特に何も無かったはず。な?」


シュートがアキオに聞くと頷く。


「あっちで捕らえれば、あっちの警察に引き渡すだけだ」


手柄の取り合いは無いのか。

まあ、犯罪者からしたらどこで捕まっても同じだよね。

なんて思ってると、シャールに近付く者が現れる。


「待て、誰か来た」

「どんな奴だ?」

「金髪で青い上着に袖を捲ってるガタイの良い男。動きからしてそれなりに出来そうな奴だ」


俺が使い魔の視覚と聴覚で男を観察しているとシャールに近付き、周囲の乗客が席に着いて落ち着いたところでシャールの肩に手を乗せ話しかけた。


『よう。今から一緒に降りてもらおうか?』

『何の用だね?』


シャールは落ち着いた様子。


『良いから一緒に降りろ』

『これから仕事でアバッテ王国へ向かうので、拒否させてもらう』

『良いんだなそれで?』

『何か用があるならここで話したまえ』

『そうか……お前、シャールだな? 賞金首が優雅に列車に乗って旅とはな。俺はハンターだ。ほら、分かったらさっさと立て』


男の言葉を聞いていた周囲の乗客は、指名手配犯が乗っている事に気付き、距離を空けようとする。


『私が賞金首? はて? 何かの間違いではないか? 私の名前は、ベスラだぞ?』

『その目の上の傷、そしてその顔、手配書よりはスッキリしてるが、間違い無くシャールだ。ほら立てそれとも力づくで捕えるか? 怪我するかもしれないぜ?』


そう言って笑うハンター。



観察してるとアキオが座ったまま後ろを見て呟く。


「あの馬鹿、乗客が居るのに何やってんだ?」

「どうしてもこの駅で捕えたいようだな」

「なぜ?」


するとアキオが答える。


「たぶん税金だ。アバッテ王国は税金が高いからカリムス王国内で捕えたいんだろ。そうすれば賞金が多く貰えるからな」


なるほど、それで乗客が居るのに声を掛けたのか。

馬鹿だねぇ。


アキオにどうするのか聞くと周囲に被害が出ないよう、迅速に捕らえたいとの事。

出来るのか尋ねると難しいと言うので、ハンゾウにやらせようか? と提案する。


「出来るか?」

「ハンゾウなら余裕だな」

「なら頼めるか?」

「了解……ハンゾウ、聞いてるだろ? 頼む」

『承知』


俺の影の中からハンゾウの分身で答える。

なんて話をしてる間にハンター達の方でも動きがあり、ハンターが無理やりシャールの腕を掴み、立たせようとしたところシャールは、懐からナイフを取り出し、ハンターの腹に突き刺そうとしたが、ハンターの腹に刃が触れるとキンッ! と見えない壁に当たり防ぐ。


『その程度のナイフが俺に効くと思ったのか?』


ハンターはグイっとシャールの腕を捻り、前に屈ませ押さえ付けると首根っこを掴み、無理やり立たせた。


このハンター、もしかして元プレイヤーか?

ナイフを防ぐ結界なんて魔力が使えないと無理だろ。


『大人しく付いて来れば怪我をしなくて済んだのにな?』


そう言って捻っているシャールの左腕を、そのまま折る。


『ぐあっ……この、野郎』

『やっと本性を現したか? ほら来い』


ハンターがシャールを持ったまま引きずり降り口へ連れて行こうとした瞬間、シャールが呟く。


『全員道連れだ』

『? 何を言って』


シャールは左足で、席の下に置いてある鞄に向けて蹴りを放つ。

が、その足は鞄に届く事は無かった。


『なっ、何だ? 動けない?』

『わ、私も、何これ!?』


その場に居た全員が動けなくなっていた。

そう、俺の不動金剛術です。

一応全員の動きを封じたのだ。

変な動きをされると面倒なんでね。


「アキオ、全員の動きを止めたらしいから後はよろしく」

「他の乗客まで止める必要あったか?」

「変な動きをして怪我でもされたら面倒だろ?」

「まあ、確かに? とりあえず捕えるか、ハンターにも色々言ってやりたい事があるしな」


そう言って席を立ち、後方へ向かうアキオの様子を観察する事に。


『俺は警察だ。そこの指名手配犯は連行する。それとそこのハンター、お前も来い……ハンゾウ、もう解いて良いぞ』


アキオがインベントリから取り出した手錠をシャールに嵌めたので、不動金剛術を解く。


『な、おい、俺の獲物だぞ!?』

『手柄はやるから黙って付いて来い!』


アキオに怒鳴られ大人しくなるハンター。

これから説教が待ってるぞ。

頑張れ。


アキオはシャールを駅の事務所へ連行し、現地の警察に連絡して後は任せる事に。

事務所をハンターと出ると説教が始まる。


『お前、他の乗客が居るのになぜ動いた?』

『あのままアバッテに行かれたら税金が多く取られるから……でも俺なら被害を出さずに捕まえられた!』

『他の乗客の事を考えれば分かる事だろ? あのままあいつが鞄を蹴って中の爆弾が爆発してたらどうなってた? お前は結界で助かるかもしれないが周囲の乗客は?』


何も言えなくなるハンター。


『この事はハンターギルドに報告しておく。今後は気を付けろよ?』


アキオがそう言って列車に戻ろうとし歩き出した後ろでハンターは、苦虫を噛み潰したような表情で地面を見つめ固まっていた。


悔しいなら強くなれよ。

そしたらいつか戦おう。

と、心で語りかけながら使い魔を解除して消す。

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