第67話 降って来た人。

キジ丸の姿に戻り、路地裏の影から出ると通りに出る。

買い取り金の受け取りまでまだ少し時間があるので、街をブラつく事に。


片側3車線の大きな道路沿いの歩道をのんびり歩きながら周囲を観察していると、いきなり危険察知が発動したので後方へ跳んだ瞬間、バチンッ!! と目の前に人が落ちて来た。


歩道を歩いていた人達は、一瞬何があったのか分からないようで固まった後、悲鳴を上げる。


「人が落ちて来たぞ!?」

「キャー!!」

「うわぁ、もろ見ちゃったよ」

「自殺か?」

「ありゃ即死だな」

「救急車と警察!!」

「あっ、すみません! 今目の前に人が落ちて来て……はい、16番通りと23番通りの交差点付近です……はい……はい、分かりました」


落ちて来た人はピクリとも動かず、ジワッと血が広がっていく。

怖がって近づかない女性や泣いてる女性、興味本位で近づいて観察する者は居るが、生きてるのか確認しようとする者は居ない。


まあ、この状態じゃ生きてるとは誰も思わないだろう。

だが俺は、魔力感知と気配察知で落ちて来た人が生きてる事は分かってる。

瀕死状態だけどね。


落ちて来たのはスーツを着たおっさんで、見た感じ普通のおっさんだ。

俺は3メートル程離れた場所で印を体内に書き、おっさんを回復。

応急だけして死なないようにすると俺は、騒いでる人達の間を隠密を発動させ気配を消し、誰にも気づかれないようスッと影に潜ると影渡りで横の建物の上階へ移動した。



下から見上げた時、建物の窓が開いてる所があったのでそこから落ちたのだろうと思い、そこへ向かうとそこは会社のオフィスで、スーツを着た人やOLさんが窓に近付いて下を覗き込んでいる。


俺は咄嗟に変装術でメール室で働いていた若い男に変装し、影から出ると唖然として窓の方を見ている女性に何があったのか聞くと。


「見た人の話じゃ、いきなり窓を開けて飛び降りたらしいけど……」

「自殺ですか? 何かに悩んでいたとか?」

「いや~、どうなんだろ? 普段は明るい人で家族思いの良い人だったのに、悩んでる様子は無かったように見えたけど、何か悩んでたのかな?」


なるほど、そんな様子は無かったと……怪しい。

落ちた人がどんな仕事をしていたのか聞くと、どうやら営業らしく。

成績も中間との事。

まったく害の無い人だったという。


「落ちた時、周囲に人は居なかった?」

「私は作業してたから見てないんだよね」

「そうですか……」


彼女と一緒に窓の方を見ながら後ろに下がり、隠密を発動させてまた影に潜るとキジ丸に戻り、空間感知と気配察知で周囲を観察。

しかし、特に何も無いので一応、魔力感知を発動した瞬間、空中を漂う変な魔力を感知した。


何だこれ?

と思い、霊視を発動させてオフィスを見ると紐状の黒い靄が窓の外から、数人の頭へ伸びているのが見える。


霊視で見えるって事は死霊か?

でも、紐状の死霊なんて見た事無いしな。

もしかしたらそんな死霊が居るのかも?

人の頭に伸びてるのはどういう事だ?

……まさか怨念?

こういう時はプロに聞こう。


影の中でリングを使い、陰陽師であるミツキに連絡をする。


『師匠、どうしたんですか?』

『実は……』


念話で状況を説明し、どういう死霊なのか聞くと。


『あぁ、それは死霊じゃなくて呪いの一種ですね。もしくは人の念です。数人の頭に繋がってるんですよね?』

『ああ』

『繋がってる人は、落ちた人と同じような行動を取る可能性がありますよ』

『これは生きてる誰かがやってる事か?』

『ですね。そういう類は、死霊はしません。死霊ならその場で憑りついて生気を吸収するので』


なるほど、流石プロ。


『助かった』

『いえ、誰がやってるのか調べましょうか?』

『いや大丈夫、それなら俺も出来るから』

『何かあればいつでも言って下さい、手伝いますので』

『サンキュー』


そう言って念話を終了。

これをやった奴が居るなら、探すのは簡単だ。



俺は合成法で魔力感知と追跡を合成し、魔力探査で黒い靄の魔力を辿る。

すると犯人は、このオフィス内に居た。


窓から見下ろしている男。

金髪イケメンで紺色のスーツを着ている。

他の人と同じように、驚いた演技をしながら見下ろしているのだ。


俺は男の影に移り、影から手を出して足首を掴むとすぐさま隠密を発動。

触れている相手にも隠密が適応されるので、そのまま影に沈めると不動金剛術で動けなくし、影渡りで路地裏へ移動。


人が居ないのを確認して男を影から出し、メール室の若い男に変装して俺も出ると問いかける。


「どうも、なぜあんな事をしたのかな?」


答えられるように不動金剛術を弱めると。


「な、何だ? さっきまでオフィスに居たはず」

「混乱してるところ悪いけど、僕が連れて来たんだ。で、どうして呪いを掛けたの?」

「何の事を言って……」

『なぜ俺だとバレた? 今までバレた事なんてないのに』

「あの人達に恨みでもある?」

「だから何の事を……」

『いつものように依頼を受けて、いつものように終わるはずだったのに、クソッ!』

「ほう……誰の依頼?」

「っ!? だから……」

『部長に依頼されたってバレてるのか?』


部長?


「同じ部署の部長か」

「? いや……何の事を言ってるんだ?」


うむ、同じ部署の部長では無いようだ。

なので質問を繰り返し、どの部長か確かめると、データ管理部の部長だと判明。

依頼を受けたこいつも理由は分からないようで、報酬を貰ってやってるだけだな。

やるならバレないようにやらないと。


「分かった。お前は実行犯として警察に突き出す。後は依頼をした部長だな」

「おい、だからさっきから何の話を……!?」


俺は魔導書を取り出し、男を眠らせると魔糸で動けなくし、影に沈めるとキジ丸に戻り、少し前に現場へ到着している警察の下へ向かうと既に規制線を張り、おっさんは救急車で運ばれたようで居ない。


すると以前訓練場で俺を拷問して腹を殴っていた男が居たので、近づき声を掛ける。


「よっ、お疲れ」

「あっ、キジ丸様、どうしてここに?」

「丁度通りかかった時、頭上から人が落ちてきてさ」

「って事は、やっぱり自殺か」

「いや、実は……」


コソっと全て話し、ハンゾウに言って影から男を出してもらい、依頼者はデータ管理部の部長だと伝えておく。


「既に犯人を捕らえていたとは、流石ですね」

「たまたまだよ。じゃあ、後はよろしく」

「はっ! お疲れ様でした!」


背中を向けながら手を上げ答え、そのまま歩道を歩いて行く。

魔法のある世界だ。

証拠はすぐ見つけられるだろう。


裏の仕事か……2週間程前にゲーム内でやったなぁ。

これだけ発展した世界だと、依頼を受ける方法も考えないとね。

ネットでやると跡が残るからやっぱアナログが一番か?


なんて考えながら、街をブラつく。

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