第66話 引き分け?
次元エネルギーを纏ったエム。
「お前、主とシュート殿を襲撃した者の仲間か?」
「ん? あぁ~、実験に丁度良いってやってたな確か」
「もしや、エインヘリヤルの者なのか?」
「ほう、その名前を知ってるとは、誰に聞いた?」
「潜入していた女に聞いた。ナンバー2と会って話をしろとな」
「……その女が言ったのか?」
急に真剣な表情で聞いて来たので頷く。
その後少し考えると。
「はぁ~……話すって……まあ良いか……」
そう言って刀をその場でスッと振り上げると、刀の自重に任せて振り下ろす。
その瞬間、危険察知が発動したので咄嗟に右側へ避けると、左腕の肩から下を斬り落とされる。
見えない斬撃を飛ばした?
ゼロのユニークスキルみたいな技だな。
「ほう、今のを避けるとは流石最強……俺には斬る気が無いから読めなかっただろ?」
俺は魔糸で落ちた腕を切断面に引っ付け、体内に印を書いて回復。
しかし腕がまた地面に落ちる。
また斬られた?
いや、エムは動いてないから斬られた訳じゃない。
じゃあ何が……っ!?
「言っておくが、今の俺に斬られた傷は、回復魔法じゃ治せないぜ?」
落ちた腕を見て気付いた。
切断面から血が出ていない事に。
斬られた肩を右手で触って血が出ていない事を確かめると、切断面がツルツルで見えない何かで蓋をされてるような感じである。
斬られた時に、何かやられたのか?
「驚いたか? ここからは、傷を治せないぞ?」
そう言ってエムがその場で刀を振り続ける中俺は、エムの振る刀の軌道を見て避け続けながら観察を続ける。
この攻撃、斬撃を飛ばしてるようには見えないが……見えない程速い斬撃?
……ん?
そこでふと気付く。
常に空間感知で空間を把握している空間に、感知出来ない空間が生まれている事に。
しかしそれはおかしい。
この特殊空間は俺が作った空間だ。
なのに把握出来ない空間が存在するってのは……まさか。
……なるほど。
奴の斬撃を避けて分かった。
この攻撃、空間を斬ってるんだ。
もっと細かく言えば、次元を斬ってる。
だから斬られた空間が、この空間から離されて把握出来なくなってるのか。
次元エネルギーを使った斬撃。
あぁ、それで傷から血が出ないんだな。
「ほらほら、逃げ場が無くなってきたぞ? はぁ~、まさかこの力で勝てるとは思ってなかったよ」
刀を振り続けながら残念そうに言うエム。
そして攻撃を跳んで避け、宙に居る俺の右足を斬り落とす。
「ほら、次は首を斬り落とすぞ?」
俺は魔糸を岩壁に張り付けて引っ張り、攻撃を避け続ける。
「この程度で勝った気でいるのか?」
「腕も足も無いその状態で、俺に勝てると?」
「……愚かだな」
「何だと?」
怪訝な表情を浮かべるエムに対し俺は、隠密を掛けた魔糸を奴の全身に巻き付け、一気に締めた。
しかし、魔糸は弾かれ千切れてしまう。
次の瞬間、俺の胴体が切断される。
「はっ、馬鹿が……これで……っ!?」
「途中までは良かったぞ」
「な…ぜ……」
エムの心臓から生える直刀。
俺が奴の背後から突き刺したのだ。
えっ?
斬られたんじゃないかって?
斬られたのは俺の分身なのです。
実はエムの影から出た時から俺は、分身だったんだよね。
どんな相手かも分からないのに、本体で姿を現す訳無いじゃん?
空蝉術で避けようかと思ったがそれだと、残像がすぐ消えてバレるからな。
分身を身代わりにして本体で背後から刺したという訳だ。
「あのまま戦っていても、どのみち拙者が勝っていた」
「くっ……」
「次元エネルギーで斬った傷は治らない。そう言ったな? しかし、斬った傷から血が出ないなら失血する事も無い。腕と足が無くなっただけで傷ではなかったのだ」
「チッ、やっぱ……自分の力で……戦えば良かった……ぜ」
「うむ……次は『本体で』戦おうか」
「っ!? ……気付いてたのか」
「途中からな」
「はっ、やっぱ本体じゃなけりゃ、あんたは倒せそうに無いな……待ってるぜ?」
そう言ってエムの身体は、霧のように四散し消滅した。
「ああ、次は全力で戦える事を願ってるぞ」
奴と戦っていて感じた違和感。
それは最初、奴の動きに違和感を覚えた。
動きは速いが、四肢の動きがそれに追い付いていなかったのだ。
これは、分身と感覚共有しているとよく分かる。
ゲームの時、分身と感覚共有して感じたのは、少し反応が遅れて身体が動く事。
0.5秒も無いタイムラグだが速く動けば動く程違和感が物凄いあった。
しかし、繰り返し感覚共有を行う事で、その差は埋まっていく。
要は慣れだな。
だが奴は、その差が埋まっていなかったようだ。
じゃあ、いつも分身で戦った方が良いのでは? と思うだろうが本体で戦った方がやはり戦いやすい。
完全に感覚共有をしてもユニークスキルは使えないし、常に本体と分身の感覚があるので全力集中が出来ないのだ。
まあ全力集中が出来ない分は訓練してるが、本体の集中も伸びるのでやはり本体が一番戦いやすいのは変わりないのです。
直刀を納刀して社長室に戻ると、未だ固まったままの社長が居た。
「お前の用心棒は、姿を消した。まあ今後、お前の前に姿を現すかは分からないが……安心しろ。お前をどうこうする気は無い」
そう言って不動金剛術を解くと同時に影に潜り、少し社長を観察する。
「っ!? はぁはぁ……何だったんだ?」
少し考えた後社長は、机の上にある通信機で人を呼び、暫くして扉がノックされると入出許可を出し、扉が開かれるとビシッとオールバックにし、藍色のスーツを着た黒髪の男が入って来た。
「お呼びですか?」
「黒い服を身に纏った者を探せ」
「黒い服? 沢山居ますが? 他にどのような特徴が?」
「ん~、刀を背中に付けていたな。後は、床に潜った」
「はっ? ……床に潜った……穴が空いてる様子はありませんが?」
「違う、水に沈むように潜ったのだ」
「……社長、お疲れのようですね。お休みになられた方が」
「疲れておらんわ! 良いからさっさと探せ!!」
「畏まりました」
男が頭を下げて部屋を出ると。
「しかしあの姿、どこかで見たような気が……うむ、分からん」
この世界は発展してるが忍者を知らないとは、遅れてるなぁ。
と思いながら、影渡りで路地裏へ移動した。
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