第65話 エムとの戦い。

謎の用心棒エムは、突然景色が変わっても驚いた様子は無く、周囲を見回して口を開く。


「洞窟? ……いや、特殊空間か」

「知ってるとはな」


ゲームでも特殊空間は、時空属性を持つプレイヤーしか使えない空間だ。

それを知ってるって事は、こいつも持ってる?


「ここなら力を抑える必要も無さそうだ」

「いつでも良い。来い」


俺は腕を組んで真っ直ぐ立ったままそう告げ、エムの動きを観察。

先程は二本の短剣を使っていたので元は、盗賊系の可能性が高い。

しかし看破で見ると、才能に『盗賊』『呪術師』『侍』『剣士』『魔法使い』『狩人』と、いろんな才能があった。


「じゃあ、遠慮無く」


次の瞬間、エムの姿が消えると俺の周囲に気配が幾つも現れ、殺気が全方位から同時に迫って来るが俺は、腰を落とすと後ろに両手を回して短刀の柄を握り、短刀に魔力を流すと抜きざまにその場で回転。


すると全方位から来ていた気配は霧のように四散し、背後から迫っていたエムが短剣で俺の短刀を受け止め、後方へ跳んで威力を逃がす。


「やっぱこの程度じゃ引っ掛からないか」

「普通の者が相手なら今ので終わっていただろうがその程度では、拙者は倒せんぞ?」

「だろうな。腕が落ちてないか確認しただけだ」

「その言い方、以前拙者と戦った事がある者か?」

「ああ、あるぜ? 前回は負けたがこの世界に来て約50年。今までずっと鍛え続けてきたんだ。今の俺なら勝てる」


約50年……良いねぇ。

それにしてもゲームの時にハンゾウで戦った事があるとは、思いつくのは何人か居るがその中に、こんな奴は居なかったような?


魔の領域で戦った忍者は、フードで顔を隠してたから知らないけどね。

他に可能性があるとすれば……裏組織の連中や冒険者?

あっ、エデンのメンバーって可能性もあるか。

いずれにしろ、こいつはプレイヤーで俺に恨みがある者。

なら訓練に使わせて頂くだけだ。



俺は短刀を納刀し、腕を組んで告げる。


「次からは全力で来い」

「まさか素手でやるつもりか?」

「拙者と戦った事があるのだろう? なら分かるはずだ」


するとエムは笑みを浮かべ、両手に持つ短剣を消した。

おそらく収納したんだろう。


「あぁ、あんたは素手でも武器を持ってるのと変わらない。ましてや、素手かと思えばいつの間にか直刀で斬られている……言ったとおり、全力でやろう」


奴はインベントリから刀を取り出し、抜いて鞘を収納。

良い刀っぽい。


「刀か……どれほどの腕か見せてみろ」

「……気を付けろよ?」

「ん?」


次の瞬間、俺の左腕を掠める刃。

一瞬で間合いに入り、刀を振り抜いて来たので咄嗟に避けたが、早過ぎて掠ってしまった。


続けて刃を返し首目掛けて迫る刃を、身体を後ろに反らしてギリギリ避けると流れるように下から刃が迫って来たので反らした状態から跳び、バック宙で避けて着地。


しかし、既に俺の背後に移動していたエムの刀が、俺の胴体を切り裂く。


「っ!?」

「速いな」


切り裂いた俺の姿が消え、奴の背後でそう告げる俺。

空蝉術で奴の背後に移動したのだ。

奴が斬ったのは俺の残像だね。


振り向きざまに刀を振り抜いて来たので、一歩踏み込み刀を持つ腕を左手で止めながら奴の背中に右拳を添えると浸透勁を発動。


ドンッ! と衝撃波が発生し、奴は前方へ吹っ飛ぶがすぐ回転して地面に着地し、少し滑って止まった。


「っ~ゴホッ!……背中を殴っただけでこの威力。どんな鍛え方してんだお前?」

「それより、1つ気になる事があるんだが?」

「なんだ?」

「先程言ったお前の言葉……『気を付けろよ?』とはどういう意味だ? 拙者を倒すために……ん?」


そう言えば倒すためって……なぜ『殺すため』と言わなかった?

殺す気が無い?

だが今までの攻撃は、避けなければ確実に死んでる攻撃だよな?


「あぁ、勘違いしたか? そんな気にする必要は無いぜ? 俺はお前を殺すために来たんだからな?」

「なるほど……」


しかし、攻撃に殺気はあったがどうも引っ掛かる。

何だこの違和感?

何か見落としてる?


「そんな事より、さっさと続きをしようか?」

「うむ……では拙者も少し本気を出そう」


そう言って俺は、加重を解く。


「行くぜ?」

「来い」


エムが縮地で俺の目の前に来ると首目掛けて刀の突きを放って来たので、首を傾げ避けると右手で刀を持つ右腕を上に弾き、踏み込んで腹に左拳を打ち込もうとした瞬間、右側から刃が迫る。


動いて避けるのは間に合わないと思い、身体を捻りながら右手で背中の直刀を少し抜き刃を受け止め、そのまま振り抜くと奴の右腕を斬り落とす。


更に刃を返し胴体を斬り上げようとした瞬間、横っ腹に衝撃が走り、左側へ吹っ飛ばされてしまう。


10メートル程飛んで着地し、奴を見ると左足で蹴った体勢だった。

あの状態から蹴るとは、しかも結構な威力だ。


「今の蹴り、中々効いたぞ」

「あそこで直刀を抜けるとはな。どんな反射神経だよ」


エムは刀を収納すると斬り落とされた右腕を拾い、切断面に付けると微かに腕が光り、元の状態に戻す。


「回復魔法を使えるのか」

「便利だよな?」


そう言って笑うエム。

俺は先程の攻防で気付いた事がある。


「お前、本気を出してないな?」

「……バレたか」

「全力を出す前に死んでも良いのか?」

「あぁ、俺は死なないんだよな。まあ、そこまで言うなら本気を出そうか、あまり使いたくねぇんだが」

「死なない? 不死の存在か?」

「さあ? 俺を倒せたら分かるんじゃねぇか?」

「そうか……」


次の瞬間俺は、縮地で奴の懐に移動し、直刀で奴の胴体を切り裂くが、刃が数センチ入った所で止まってしまう。


なんだこの硬い身体は?

……人間じゃない?


刃が食い込んだ状態で奴の顔を見ると奴は、ニヤっと笑みを浮かべると全身から黄緑色の光が溢れ出す。


俺は刃を引いてすぐさま後方へ跳び距離を空け、エムを観察する。

全身からあふれ出る黄緑色の光り、あれは……。


「次元エネルギーか」

「これはあまり使いたくなかったんだよな。自分の力じゃねぇからさ」


スーツと同じように、人が扱えるようにした次元エネルギー。

こいつ、あの襲撃者の仲間?

ちょっと話を聞く必要が出てきたな。

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