第64話 用心棒。
建物内の影に移った俺は、影の中を移動しながら社長が居そうな場所を回って行く。
デスクがいっぱい並んでいるオフィスや、広い会議室。
あっちこっち回っている中、廊下の影に入ってまた移動しようとしたところで声が聞こえてきた。
「すみません」
スーツを着た若い男が眼鏡を掛けた綺麗な女性に近寄る。
ちなみに女はスカートにスーツだ。
所謂OLだな。
「はい?」
「社長室ってどこですか?」
「社長に何か用なの? あなたは……」
「僕は入ったばかりで総務部のメール室で働いてます。アランです」
「あぁメール室の人ね……今から社長室に行くから案内しましょうか?」
「ありがとうございます!」
メール室というのは、配達物を各部署に届ける業務をしている部署の事だ。
今から社長室に行くならこの2人に付いて行こう。
と思い、女の影に潜む。
それからエレベーターで上へ行き、150階で止まって降りるとそこは、左右に幾つか扉が等間隔にある約30メートル程の廊下が伸びており、女と男は真っ直ぐ進んで行く。
廊下の幅は約4メートル。
誰も居ない廊下を静かにコツコツとヒールと革靴の音が響く。
廊下の突き当たりにある扉に到着すると。
「ここが社長室よ。今後はこれで大丈夫ですね?」
「はい、ありがとうございます」
「じゃあ、私は社長に用があるのでついでに渡しておくわ」
「お願いします」
そう言って封筒の束を女に渡すと男は、頭を下げてエレベーターへ戻って行き、女は扉をノックしてすぐ開ける。
返事は待たないのかと思っていると中は、10メートル四方の部屋になっており、正面には両開きの扉があって左側は棚があってそこには、いろんな装飾品が並べられていた。
正面扉のすぐ右側にはカウンターがあり、その中にスーツを着た女性が一人座っている。
右側の手前には、ソファとテーブル。
この正面の扉の向こうが、本当の社長室だな。
「社長は居る?」
カウンター内の女に声を掛けると。
「居ますがどういった用件ですか?」
「届け物とプロジェクトの最終確認に伺ったの」
「預かります……あっ、どうぞ」
「ありがとう」
封筒の束をカウンターの女に渡し、扉をノックして少し待つと中から『どうぞ』と男の声がしたので女が開けると中は、赤い絨毯に壁沿いには本棚や酒が並んだ棚、何かのトロフィーが幾つも飾られた棚などがあり、入って右側にはソファとテーブル、正面奥には大きな執務机が置かれている。
執務机の革製の大きな椅子に座っている男。
金髪をオールバックにし、歳は40代後半っぽい。
紺色のスーツを着たダンディなおっさんって感じだな。
そして部屋の隅に立つ、長い茶髪を後ろで縛った男。
黒い上着で袖を肘まで捲り、中には赤いシャツ、黒いズボンに黒いブーツを履いてる。
こいつが用心棒か。
「どうした?」
「プロジェクトの最終確認をしたいと思いまして」
「ああ、話しは聞いてる。では聞かせてくれ」
「はい、まずは……」
こうして暫くの間、よく分からない仕事の話をして確認が終わると女は頭を下げ、部屋を出て行くので用心棒の影に移動。
女が部屋を出て扉を閉めると用心棒が歩いて執務机に近付くと、ポケットに手を入れたまま話しかける。
「今の女は?」
「あれは開発部の人間だから大丈夫だ」
「そうか……本当に狙われてるのか?」
「ああ、確かな筋からの情報で、火の盃が私の金を狙っているらしい」
「それで俺を雇ったって訳か」
「お前を雇ったお陰で、誰も私に近付けないようだぞ?」
「当然、最強の弟子だからな」
「その最強の弟子であるお前の、最強の師匠に会ってみたいものだ」
「会ってどうすんだ?」
「当然、私の護衛を依頼するのさ。なんせ最強だからね」
「で、今後の事だが……っ!?」
「っ!?」
そこで2人は、身体が急に固まった。
そう、俺の不動金剛術です。
影の中で忍換装し忍者になると部屋の周囲に結界を張り、用心棒の影から出て背後に立つと短刀を首に当てながら声を掛ける。
「静かにしろ」
「なっ!? 何だキサマは!?」
用心棒は落ち着いた様子で黙ったいたが、社長が俺を見て叫ぶ。
身体を動けなくしてるだけなので、目も動かせるし話す事も出来るのだ。
なので、煩い社長だけ話せないようにし、男に問いかけた。
「お前が最強の弟子という者か、お前の師匠の名は?」
「……口を開いて良いのか?」
「さっさと答えろ」
「俺の師匠の名は……フッ!」
その瞬間、男の頭がスッと消え、気付くと右側から裏拳が迫って来たので右腕で受け止めると続けて男が左拳を打ち込んで来る。
首を傾げてギリギリ避けると奴は、右膝を腹に打ち込んで来たので溜気で弾くと男は体勢を崩し、腹に掌底を打ち込むと後方へ弾かれるように飛んで行くがクルっと回って着地。
この間、約2秒。
まさか俺の不動金剛術を解けるとは、こいつ……元プレイヤーだな。
「お前の名前は?」
「今は『エム』と呼んでもらってる」
センジュは? って偽名か。
最強の弟子……まさか。
「拙者を誘き寄せるための罠か」
「おっ、流石だな。そのとおり、最強を名乗ればお前は必ず来ると思ったよ」
「拙者を知ってるようだな。プレイヤーか?」
「さあ? どうだろうな?」
「拙者を誘き出してどうするつもりだ?」
「はっ、当然……お前を倒すためだ」
「恨みを買った覚えは無いが?」
ゲームの時なら結構買ったけど。
「とりあえず……死ね」
男はそう言うと一瞬で姿を消し、俺の左側に姿を現すといつの間にか右手に持つ短剣を振り下ろして来たので、左腕の籠手で受け流し、右手に持つ短刀を逆手のまま首目掛けて振り抜くが奴は、左手に持つ短剣で受け止める。
前屈みになった状態から跳んで左膝を男の顔面に打ち込むが、躱されてしまう。
躱した男は身体を回転させ、俺の横っ腹に後ろ回し蹴りを蹴り込むが溜気で弾き、空中に居た俺も弾かれて数メートル跳んで着地するとお互い、構えて睨み合う。
この男、かなり出来るな。
動き、スピード、力、全てゲームで戦った者と同じだ。
つまり、魔力が使えるって事だね。
プレイヤーで間違い無い。
良いね。
やっぱ強い奴と戦うのは、良い訓練になる。
「フッ……」
「何がおかしい?」
「いやすまん。ただ楽しくてな」
「そうか……俺も楽しいぜ」
しかし、ここじゃ思いっきり戦えない。
場所を移すか。
「では場所を移そう」
「……だな。どこでやる?」
「良い場所がある」
そう言うと俺は、男と自分を転移で特殊空間に移動させた。
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