第59話 鬼の異名を持つ男。

リックおすすめの店に到着するとそこは、ホログラムの看板に肉料理専門店と書かれていた。


高層ビルの1階フロアの一部が店になっており、外観は和風の割烹料理屋って雰囲気だ。

入り口には暖簾のれんがあって扉は木製の枠と格子状になっており、曇りガラスが嵌められている。

横にガラガラと開けるタイプだな。


扉に近付いた所で中から男の叫ぶ声が聞こえてきた。


『さっさと料理を持って来いよ!』

『いつまで待たせんだコラァ!?』

『俺達は火の盃だぞ!? 舐めたマネしてっとこの店潰すぞ!? ああん!?』


俺とリックは扉の前で見合う。

火の盃と名乗って馬鹿な事をしてるぞ?

という意味でリックを見たがリックは、怪訝な表情をして俺を見る。


「お前んとこの下っ端か? 他の店でもこんな感じだったぞ?」


リックは怒りの表情を浮かべ、何も言わず扉に近付き暖簾を潜ると自動ドアのようで横へスッと開くとそのまま中へ。


後に続いて俺も入ると中は、左側に半円のカウンター席があり、中には厨房がある。

右側には座敷の席が5つ。

他はテーブル席が幾つかあって結構広い。


店内を見回すとカウンター席のど真ん中に、ガラの悪い男が3人座り、カウンター内で料理を作っている男に向かってなんやかんやと言っていた。

そいつらは以前とは別人で、左に座ってるスキンヘッド。

真ん中に座っている金髪。

右に座っている茶髪。

下っ端感が凄い。


そんな中リックは、男達の所へ歩いて行き後ろから声を掛ける。


「おい」

「あぁ? 何だ?」

「何の用だこら?」

「何か文句でもあるのか?」

「お前ら、どこのもんだ?」

「フッ、俺達は火の盃だ。分かったらさっさと消えろ」

「そうじゃねぇよ。お前らの上は誰だって聞いてんだよ」

「上? 何言ってんだこいつ?」

「ははは! 俺達は火の盃の幹部だぜ? 上なんてボス以外居ねぇよ!」

「あんま舐めてると潰すぞこら?」


おお、これは面白い事になったぞ?

本物の火の盃と偽物の火の盃!

しかも幹部だと名乗ったお前らの目の前に居るのは、本物の幹部が居ますよ?

どうすんのかな?


「おかしいな? 俺も火の盃の幹部だがお前らのような奴は見た事がねぇ……一昨日の幹部会でも見なかったな? もう一度聞くぞ? お前らの上は誰だ?」


リックが自分の素性を明かした時点で男達は、ピタッと身体が固まっていた。

嘘がバレたと気付いたようだが、その後の事は何も考えてないのかよ。


「火の盃の名を語って何やってんだお前ら? どこのもんだ? このリック様の島でこんな事してタダで済むと思ってねぇよなぁ?」

「リック……っ!?」

「鬼のリック……」

「お前が……もらったぁ!!」


スキンヘッドが座った状態から突然、リックに殴りかかる。

見てると動きは素人でかなり遅い。


右拳を打ち出すとリックは、身体を逸らし避けながら一歩踏み込み、男の腹に左拳を打ち込む。


「うぐっ!?」


続いてそいつの胸倉を左手で掴み引き寄せ、顔を近くに持って来ると睨みながら告げる。


「まだまだこれからだぜ?」


そう言ってスキンヘッドの腹に右拳を打ち込み、更に膝を入れ前屈みになった男の後頭部に肘を入れるとスキンヘッドは、床に叩き付けられるように倒れ動かなくなった。

あれだけで気絶するとは、流石素人!


すると座っていた金髪と茶髪もリックに向かって行くが、あっけなく攻撃を躱され、スキンヘッドと同じ道を辿る事に。


俺からすればどちらも弱いが普通の中じゃリックは、本当に強いようだ。

この辺りで俺に勝てる奴は居ないとか言ってたが、本当っぽいな。

それにしてもこいつら、何がしたかったんだろ?


「よっ! 流石リック!」

「ヒュー!」

「スッキリしたぞ!」


周囲で飯を食っていた他の客が歓声を上げる。

この店じゃリックは、知られてるようだな。


料理をしていた男がカウンター内から手を止め、声を掛けて来た。


「リック、助かった。ありがとうよ」

「気にすんな。うちの名を語って下らねぇ事してたからやっただけだ」

「お礼に好きなもん食わせてやる」

「とりあえずこいつらをうちに連れて行って話を聞かないと……」


なんてリックが言い出すので俺は、咄嗟に止める。


「待てリック……ハンゾウ」


そう言うと男達に魔糸を巻き付け、その場で影に沈めて終了。

見ていたリックも店員も他の客も全員、目を見開いて固まった。


「俺の従者のハンゾウがやった事だ。それより、飯を食いながら話を聞く約束だろ? あいつらの事は後にして話しを聞かせろ」

「……やっぱ英雄だな」

「とりあえず飯だ」


そう言って男達が座っていたカウンター席に座り、リックも座らせるとおすすめを聞く。


「何も無かったかのように話を進めんなよ……えーっとおすすめは『トンカツ』だな」

「じゃあそれと酒ある?」


固まってる店員に聞くと我に返り、ビールも焼酎も地球でいう洋酒もあるとの事。

なので俺は、トンカツにはビールだろうと定食とビールを注文。

リックも同じ物を注文し、料理が出来るまで厄介な用心棒の話を聞く事にする。


話しによるとその用心棒、数日前から姿を現したようでかなり強いらしい。


「ターゲットが雇ったのか?」

「ああ、なんでも最強の弟子だとかなんとか言ってたな」


最強の弟子?

確かそんな漫画があったような?

それにしても、この世界にも最強が居るのか。

それは是非戦ってみたい。


「そいつの名前は?」

「本名かどうか知らねぇが『センジュ』だったかな?」


センジュ?

千手観音のセンジュ?

いや違うか。

和風の名前だな。

元プレイヤーかその弟子っぽい。


「どこに居るんだ?」

「常にターゲットの傍に居るんだとさ。それでマスターとサブマスは、手を出せないらしい」

「なんで手を出せない? 戦えば良いだろ?」

「マスターの話しじゃ、そいつと戦うのは避けるべきだと」

「マスターはそいつを知ってる?」

「あぁ、本人は知らないけど、あいつの師匠は知ってるっぽいかな?」


……ん?


「もしかして最強の弟子って『最強の男の弟子』って意味か?」

「そうだけど? それ以外に何がある?」


俺はてっきりそいつが、最強の弟子と呼ばれてるのかと思ってた。

最強の男の弟子か……そいつの師匠に会ってみたいな。


「ちなみに最強の男って知ってる?」

「あぁ、なんでもSランクの魔物を生身で倒しちまうらしいぞ?」

「ほう……」


俺と同じ事が出来る奴が居るとはな。

是非会いたい!

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