第56話 取引?

分厚い金属の壁に覆われた10メートル四方の部屋。

飛空艇に設置されている牢屋である。

スキラスでさえも出る事は出来ないだろう。


そんな部屋の中心に、備え付けの椅子に捕えた女を座らせ、両腕両足は拘束具で固定し、魔力を使えないようにする装置を首に装着。


女の正面に立ってレインが俺を見て頷くので、睡眠魔法を解く。

すると女は、すぐ意識を取り戻し、ゆっくり目を開けて周囲を見回すと、状況を理解したのか少し俯いて目線を床に固定した。


「あんたに聞きたい事があるんやけど、正直に答えてくれたら命は取らへんで?」


レインの問いに無言を貫く女。

忍者として訓練を受けていれば、喋る訳無いよね。


「エインヘリヤルのアジトは? カリムス王国にまだ仲間は居るんか?」


まったく反応を示さない女。

シュートやアキオを見るが2人は、尋問をする事に慣れていないのか無言で女を見つめていた。

このままじゃ話が進まないので俺が代わろう。


「レイン、俺がやろうか? 忍者相手だと普通の拷問でも口を割らないと思うぞ」

「……そうやな。ほなキジ丸さんに任せるわ」


そう言って退くレイン。

さて、拷問でも時間を掛ければ口を割るだろうが、レイン達が見てる前で影明流拷問術をするのは、俺の印象が悪い。

なのでここは、簡単に取引といこうか。


女の前に立ち、床をジッと見つめている女に告げる。


「お前に選択肢をやろう……このまま何も喋らず『エインヘリヤルとヴァルハラを潰される』か、素直に知っている事を話して『エインヘリヤルとヴァルハラを救う』か……どっちにする?」


すると背後でレイン達が小声で話しているのが聞こえてきた。


「喋らんかったらエインヘリヤルとヴァルハラを潰すって、キジ丸さんしか出されへん選択肢やな」

「ああ、キジ丸とハンゾウなら国を潰すのは、造作もないだろう」

「Sランクの魔物を生身で倒す奴だし、国ぐらい簡単に潰せるだろうな」

「流石師匠」


この問いに対し女は、初めて目線を上げ俺を見て口を開く。


「話せば国も組織も潰す気でしょう? 何も言う事はありません」

『国が潰される事は無いはず。そもそも辿り着けないでしょう』


国に対して絶対の信頼……いや違うな。

他に何か辿り着けない要因がありそうだ。

しかし……。


「あぁ、言っておくがSランクの魔物と戦った時は『全力じゃない』からな? あれは訓練のために自分に縛りを付けた状態で戦ったんだ。ちなみにハンゾウもだぞ? まあ、魔物を仕留めたハンゾウの力を見たなら分かると思うが、あれも全力ではない」

「そうですか……」

『あれが全力じゃない!? この男、もしや師匠よりも強い? それどころか国の英雄よりも……この男なら……いやいや、私が勝手に決めてはダメだ。師匠の教えどおり私はこのまま、死を受け入れるだけ』


心眼って本当に便利だな。

それよりも師匠の教えか……忍者としてというより、組織のための教えって感じがする。


この女、師匠や国の英雄よりも俺が強いかもと思って何か、俺なら出来るかも? なんて思ってたな。

ヴァルハラに何か起きてるのか?

強い魔物が居る?


「ここでもう1つ提案というか取引だ。喋れば……俺が叶えられる望みなら叶えてやるぞ? そしてこの提案を飲まないなら……エインヘリヤルとヴァルハラは潰す。どんな理由があろうともな。お前の師匠とやらもだ」

「っ!?」


女は身体をビクッとさせ、座ったまま全身をガタガタと震わせ、冷や汗を流し始めた。


「キジ丸さん、何かしたん?」

「ちょっとマナによる威圧を」

「威圧を受けたらああなるんやね」

「いや、あれはキジ丸の威圧だからだろ? あいつの威圧をまともに受けたら誰でもああなる」

「ゲームの時って威圧スキルなんて無かったよな?」

「あれは魔力制御というかマナ制御でやってるらしい。ゲームの時もそれで出来たらしいぞ」

「へ~、スキルやなくて技術で存在してたんやなぁ」


なんてレイン達が話していると女が座っている椅子の下に、水溜まりが出来上がる。

まさかお漏らしするとは思わなかった。


「うわぁ……あたしは絶対受けたくないわ」

「私もです」


そこで威圧を解除。


「どうする? 話すか国と組織を道連れて死ぬかどっちだ?」


女は身体の震えが止まり、俯いた状態で答える。


「はぁ、はぁ……師匠の居場所を教えます。それで師匠と直接今の話をして下さい。私のような者が決められる事ではありません」

「じゃあお前の師匠の居場所とそれから、他に仲間がこの国に居るのか教えろ」

「……街中に工作員は数名居ます。ですが、お互い素性を知らないので誰がとは分かりません」

「なるほど……」


詳しく聞くと彼らは、グループで動く者はお互い知っているが、他に動いてる仲間の素性は知らないそうだ。

今回のように尋問や拷問を受けても喋れないように、最低限の情報しか与えられていないとの事。


賢いやり方だ。

これなら組織の誰かが捕まっても、そこから情報は漏れないしね。

その状態で動く駒も凄いけど。

相当訓練というか洗脳を受けてそうだな。


女は師匠とやらの居場所を吐いたので、レインが殺さず連れて帰ると決定した。


うむ、今回は拷問しなくても喋ってくれるとは、今後もこのやり方は良いかも?

……もしかして威圧が効いたのか?

次回拷問の機会があれば試してみよう。



その後女は、そのまま部屋に捕えた状態にして部屋を後にした俺達は、塔の最上階へ戻り、すぐ国へ向かって飛び発つ事に。


国に到着するまでの間俺は、一人残ってスキラス狩りをする事にした。

奴らのコアが大量に欲しいのだ。

別次元のエネルギーとやらも気になるし、いろいろ研究するためには、大量のコアが必要だからね。


そうレインに伝えると。


「どうやって帰るん?」

「ハンゾウの影渡りで送ってもらうさ」

「えっ? もしかしてここから国に帰れるん?」

「あぁ……帰れるな」


シュートの家に印を付けてあるからな。

なのでいつでも影渡りで帰れる。

まあ、時空転移でも帰れるけど。


「じゃあ、あたしも送ってくれへんかな?」

「いや、女王であるレインは、この船で国を出たなら船で帰らないと、ちゃんと帰った姿を皆に見せないとダメだろ?」

「あぁ~、それもそうやな……すぐ帰ってドラマ見たかってんけどな」

「録画してないのか?」

「してるで、そやかて続きが気になるんやもん。はよ帰って見たいやん?」


やん?

と言われても、知らんがな。

ドラマか、そう言えば随分見てない気がする。


地球に居た時は、ずっとGFWやってたし、それをやる前は、仕事が忙しくて見てないね。

たまにアニメを見てたくらいか?

この世界の漫画やアニメも今度見てみよう。


魔法がある世界だし、ファンタジー系の漫画は無いかも?

あったら逆にどんな内容か興味がある。

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