第53話 高炉とお話し。
爆弾を起爆出来ない事に混乱する女。
その隙に女を不動金剛術で動けなくすると歩いて近づいて行き、手に持つ爆弾を取って収納し、正面から目を見て告げる。
「残念だったな」
女は不動金剛術で驚いた表情のまま動けず、何も反応は示せない。
「レイン、今の内に」
「っ!? そうやな」
そう言って作業に戻るレインを見て、この女をどうするか考える。
ずっと不動金剛術を掛けていれば、いずれ綻びが出て解けてしまうし、何か良い手は……あっ。
「確か……」
インベントリから魔導書を取り出し、左手に乗せると魔法を発動。
すると本がパラパラ開き、あるページで止まると女の額の前に魔法陣が出現して光りの粒子が出たところで不動金剛術を解除すると女は、動こうとしたが眠るように目を閉じ、膝から崩れて倒れそうになったので受け止め、念のため魔糸を巻き付け影に沈めておく。
後でいろいろ聞かないとね。
今は高炉の方が先だ。
ちなみに今のは、対象を眠らせる魔法だ。
遁術に睡眠系は無いから、魔導書があって良かった。
一応、幻属性で幻覚を見せるため眠りに誘う術はあるが、ただの睡眠じゃないので数分で目を覚ましてしまう。
なので魔法を使ったのだ。
女を影に沈めると高炉の前で作業をしているレインの下へ向かう。
「どんな感じ? 停止出来そう?」
「今やってるけど、普通にシャットダウンしようとしてもエラーが出て、まったく受付へんねん。そやから別のルートでシャットダウンしようと思ってるんやけど、どのルートも封鎖されてるっぽい?」
「じゃあ、停める手段は無いと?」
「もうちょっとやってみるわ」
「最悪、高炉を破壊するしかなさそうだな」
いったいどれくらいの範囲に被害が出るのか、結界を張れば大丈夫かな?
しかし、この次元高炉がどれほどのもんか分かってないからなぁ。
核以上に危険だったら破壊は、慎重にやらないといけない。
……離れて落星を放つか?
なんて考えてるとレインが声を出す。
「えっ……」
「どうした?」
「……これ見てや」
そう言うので後ろから覗き込むとそこには、ホログラムの画面とキーボードが宙に浮いていた。
そしてその画面には、日本語で書かれた文字が。
『この高炉を止めると、星が消滅するので手を出すな』
「……警告文? 誰が?」
「分からへん、弄ってたらいきなり文字が出てきてん」
「そう言えば、あのロボットが高炉に触れると、高炉に怒られるって言ってたな」
「それって、高炉に意思があるっちゅう事!?」
「さあ? 人工知能かも? この都市のマザーコンピューター的な?」
「……どうやろ? それやったらこの空間に入った時に、排除するはずやで?」
確かに、人も人工知能も無いなら誰が警告文を?
「何か質問したら答えるか?」
「やってみようか……えーっと、高炉を停めたら星が消滅するってのはどういう事なん?」
そう言ってレインも俺も護衛の2人も周囲を見回すが、何の反応も無い。
「マイクが無いのかも? 打ち込んでみたら?」
「そうやな」
レインが先程の質問を打ち込むと……。
『次元エネルギーの暴走により、星が消滅する』
「次元エネルギー?」
「たぶんこの高炉に使われてるエネルギーの事だろ?」
レインは続けて質問をする。
《次元エネルギーとは?》
『次元を構成するエネルギーの事』
《シャットダウンが出来ない理由は?》
『次元エネルギーと別のエネルギーの混在により、次元エネルギーが暴走状態に入り、高炉を停めると次元エネルギーは、一気に膨れ上がり、この星を飲み込む』
次元エネルギーとは別のエネルギー?
なんだそれは?
それが暴走の原因?
《別のエネルギーについて教えて》
『別のエネルギーについて分かっている事は、別次元から来たエネルギーという事だけだ』
「別次元から来たエネルギー……それで高炉が暴走したのか」
「これは厄介やで」
「どうした?」
「別次元のエネルギーが何なのかまったく分からへん。それが原因で高炉が暴走してんのに、その原因について何も分かってへんって事は、なんも手の打ちようが無いっちゅう事や」
確かに、このままじゃ高炉を停める事が出来ない。
エネルギーねぇ……俺達がこの世界に来た事に関係してんのかな?
「レイン、そのエネルギーで俺達がこの世界に来たって事は考えられるか?」
「ん~、どうやろ? そのエネルギーが何なのかまったく分かってへんから、なんとも言えんなぁ。でも、その可能性はあるかもしれんね」
「そうか……ところで、質問に答えてくれてる奴について聞いてみてくれ。お前は誰なのか」
「分かった」
そう言って打ち込むレイン。
《あなたはだれ?》
『僕は高炉の中でエネルギーを抑えている。元人間だ』
「「っ!?」」
「人間が高炉の中に?」
「こんな中に人が入ったら一瞬であの世行きやで?」
「……魂の状態なら? 所謂死霊ってやつだ」
「あぁ、それなら大丈夫かな? 分からんけど」
俺はレインに彼の名前を聞いてもらった。
しかし……。
『自分の名前は既に忘れた。人間だったという記憶しか残っていない』
続けてレインに質問してもらう。
《ロボットに入ってるのがあなたか?》
『あれは別の人が入ってる。名前も誰だったかも忘れた存在』
人工知能じゃなく人だったのか、でも記憶が殆ど無いと……。
《どれくらい高炉の中に居るの?》
『……この中に入って今日で、5831年と172日、9時間27分18秒になる』
「えらい長い間入ってんやな。そりゃ記憶も薄れていくわ」
「つまり、古代都市はそれより前から存在していたという事か」
「そやな。6000年前にこんな発展した都市が存在したのは、間違い無いね」
「レイン、プレイヤーなのか聞いてくれ」
「あっ」
レインが打ち込むと。
『分からない。ただ、何となく懐かしい気がする』
「懐かしい……やっぱり大昔に転移したプレイヤーっぽいな。他にも居そうだ」
「どれくらいのプレイヤーがそんな大昔に飛ばされたんやろ?」
「それは考えても分からない事だろ。それより、停める方法が無いのか聞いてみろ」
「それもそうやな」
《高炉を停める方法は?》
『次元エネルギーと別のエネルギーを分離し、エネルギーが暴走しないようにすれば停められるが、別エネルギーの事がまったく理解出来ないので現状不可能。このまま僕が抑えておけば、この星が消滅する事は無い』
誰かを犠牲にして抑えておくのは違うだろ。
今は無理でも、いずれ停められる日が来るはず。
別エネルギーの事を解明すれば良いだけだ。
今すぐは無理だろうけど。
それにしても高炉を停められないとは、別の北へ行く方法を考えないとな。
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