第52話 阻止しようとする者。
巨大なロボットが呟いて固まっている間に俺は、影分身を解除して分身を影に沈めて俺だけになり、立っていた場所から瞬殺でロボットの右足を切断し、元の場所で納刀。
足を斬られたロボットは体勢を崩し、その場で大きな音を響かせ倒れる。
『うわ!? なんだ!?』
機械音声だったのに、徐々に男の声に変わり始めていた。
機械だから痛みは無いので、斬られた事に気付いてない。
俺は少し考え、歩いて近づきながら声を掛ける。
「おい、お前は何者だ?」
すると四つん這いになって足を見ていたロボットが顔を上げ俺を見る。
『誰?』
「それは俺が聞いてるんだが? 俺はキジ丸、お前は? 人工知能か?」
『僕は……誰? ……何も分からない、何も思い出せない……どうなってんの?』
「今目覚めたって感じか? 一番最後の記憶は?」
『記憶……何となく、何かに襲われる夢を見たような……夢? 僕は夢を見たの?』
知らんがな。
さて、こいつの知能は子供っぽいし、殆ど何も知らない様子。
始末した方が良いのか?
「お前は、あの高炉と繋がってる?」
そう言うと高炉に目を向けるロボット。
『……あれは何?』
「次元高炉っていうらしいが、何も分からないのか?」
『次元高炉……ゲームにそんなのあったっけ?』
「っ!? おい、今ゲームって言ったよな? お前はプレイヤーか?」
『プレイヤー? ゲーム? 何の事?』
「今自分でゲームにそんなのあったっけ? って言ってただろ」
『そんな事言った? ゲーム……仲間を使って人間を滅ぼすゲーム?』
なんだその物騒なゲームは?
こいつ、古代都市の人工知能っぽいな。
システムが破損してるのか、データが何も無いまっさらな子供の状態だ。
「とりあえず、小さくなれるか?」
『小さく?』
「身体のサイズを俺と同じくらいに出来るか?」
『えーっと……あっ、出来そう!』
すると巨大ロボットの全身がドロッと液体金属になり、床にビチャっと落ちると床に沁み込んで行き、最後に残った液体金属から巨大ロボをそのまま人のサイズにした物が出てきた。
『これで良いかな?』
「ああ……レイン」
すると影からレインやミツキ達を出すと、ソウ以外全員口を開けてポカーンと固まっている。
「レイン?」
「キジ丸さん……あんな大量のロボットをいっぺんに斬るって流石最強プレイヤーやなぁ」
「師匠、私にあれは無理です」
「いや、ミツキでもで訓練すれば出来る。それより……」
『誰?』
首を傾げるロボ。
「レイン、今なら高炉を止められるだろ?」
「そうやな。すぐ取り掛かるわ」
そう言って護衛と一緒に高炉へ向かって歩いて行くレイン。
「ミツキ、こいつは何だと思う?」
「ん~……人工知能?」
やっぱりそう思うか。
「こいつをどうするか……」
「あなたの名前は?」
『僕の名前? 知らない』
と、首を横に振る。
「何か覚えてる事はあるか?」
『……分からないけど、何か楽しかった事は覚えてる』
「分からないのに楽しい?」
覚えてないけど楽しいという思い、感情だけは覚えてると……ちょい待て。
「感情があるの?」
ミツキが俺の代わりに言う。
『感情? 楽しい事が……ん?』
そこでロボが高炉を見る。
そこには高炉で作業を始めたレインの姿と護衛をしている2人の軍人。
『ダメ……あれに触ったらダメだよ。怒られる』
「怒られる? 誰に?」
『誰に? あの高炉に?』
「っ!? 次元高炉に意思があるのか!?」
『? 意思がある……のかな?』
ダメだ、殆ど何も覚えていないこいつからは、詳しい情報は得られない。
とりあえず。
「レイン! 一旦作業を……」
その瞬間、左後方に気配を察知し、続いてレインに向かって行く殺気を察知。
俺はすぐさま縮地でレインの背後へ移動し、飛んで来たナイフを手刀で落とす。
ナイフが落ちた金属音でレインが振り返る。
「なんや!? キジ丸さん? どないしたん?」
俺はナイフが飛んで来た方を見ながら答える。
「どうやらエインヘリヤルの残りがまだ居たようだ」
「なんやて!?」
「お前ら、レインを護れ」
「はっ!」
「お任せを」
「俺が相手をする」
すると壊した柱の陰から女が1人、姿を現す。
「今の攻撃を防ぐとは、流石キジ丸さんですね」
「お前もエインヘリヤルか」
「よくその名前を知ってますね? それをどこで?」
「お前の仲間が教えてくれたよ」
「それにしてもこの空間、術を使えないのは不便ですね」
現れた女は、俺が分身を忍ばせている女だ。
しかしこの女、調べたのに変装もしていなかったぞ?
……っ!?
「まさか、変装せず普通に雇われて潜り込んだのか?」
「ええ、面接を受け、信頼を築き、長年掛けて潜り込みました。ですが……その高炉を止められると都合が悪いので、阻止させて頂きます」
「長年掛けて築いてきたものを全て捨ててまで、高炉停止を阻止しようとするとはな……ヴァルハラのためか?」
「……そこまで知ってるのですか。ならここで死んでもらいましょう」
「俺を倒せると?」
「大儀のためなら命を捨てる覚悟ぐらい、我々は持っていますよ?」
そう言うと女は、懐から黄緑色に光る野球ボールサイズの球を取り出す。
あの光は、スーツと同じ色。
「次元コア?」
「そのとおり、これは次元コアから作り上げた、爆弾です」
「ここで爆発したら高炉も止まるぞ?」
「ご安心を、この爆弾は特殊でして、生物のみに効く爆弾なんですよ」
また厄介な物を作ったな。
「陛下、次元高炉をこのままにしていれば、私はずっとあなたに仕える事が出来たのに、残念です」
「なんで高炉を停止したらアカンの? 最後にその理由くらい教えてや」
「……そうですね。一番の理由はヴァルハラのため、もしこの高炉を止めるとヴァルハラは、南側の脅威が増える事になります。そのため我々にとっては、このままの状態が望ましいのです。おわかりいただけましたか?」
「それやったらあたしが、そのヴァルハラと国交を結べばええ事やん。カリムス王国を信用出来へんの?」
「信用云々ではなくこれは、ナンバー1が決めた事です」
「エインヘリヤルのトップか」
「ええ、ナンバー1は、本国から高炉を止めないように指示を受けているようですね」
……でもこいつは違う?
「ナンバー2は? お前の師匠だろ? そいつは何て言ってる?」
「師匠は、キジ丸さんと敵対するな。それだけを言ってますね」
やっぱり、元プレイヤーだな。
俺を知ってるのはプレイヤーだけだ。
「お前の師匠の名は?」
「知りません。いつもナンバー2と呼んでいますので」
「本名を知らない師匠か」
「では、さようなら」
そう言って女は、爆弾を起動しようとして目を見開く。
「っ!? どうして!?」
「動けないだろ? 俺が居るのにそんな事が出来ると思ったのか?」
ヌハハハハハハー!
影に潜ませている分身で不動金剛術を使い、女を縛ったのだ。
これで僅かな魔力も使えないだろ。
球の爆弾って言うから、魔力を流して起動させるのかボタン式か分からなかったから、どちらも封じさせてもらった。
この空間でも触れた物に魔力を流すくらい出来るだろうし、不動金剛術を持っていて良かったよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます