第50話 次元高炉の空間。

影に潜った状態で影分身と感覚共有をし、地下と上階を空間感知で探りながら進んでいるが中々、それっぽい物が見つからない。


本体と分身は、レイン、ミツキ、ソウ、護衛の軍人さん2人を影に入れたまま、1階層を探っていた。

その途中、エネルギーが出てるなら何か感知出来ないかと思い、魔力感知、気配察知で探るが広範囲に広がってる影響なのか何も感じる事が出来ず、地道に探すしか無いかと思ったところ、何か引っ掛かるモノを感知。


「どないしたん?」

「何かありました?」


影の中を移動していたが急に止まったので気になったようだ。

なのでハンゾウで答える。


「何かを感知した……魔力に似てるが……違う?」


そこで俺は、キジ丸でそこへ向かうように指示を出す。


「承知」


すぐさま影渡りで建物の上階を目指しながらその間、影分身を1体、先に送り込み偵察をしながら進む。


建物の中は、階層ごとに1つの街のようになっており、豪華な家が建つ階層、平屋が並ぶ階層、一般的な一軒家が並ぶ階層、そして自然溢れる階層などがある。

そんな中を影渡りで移動しながら空間感知で周囲を確かめていると、獣型のスキラスが多数、ウロウロしているのを発見。

この建物自体がスキラスの巣みたいになってるようだな。



そこで先に行かせてる影分身で、魔力に似た何かがある階層に到着。

影から出るとそこは、おそらく建物の最上階で、天井まで約500メートル以上あり、だだっ広い空間になっていた。


その広い空間の中心に、青く光る柱のような物が天井まで伸びており、光が弱くなったり強くなったりしている。

柱の太さは約6メートル程。

中心の柱の青い光が周囲を照らし、柱から数十メートル離れた周囲に、等間隔で高さ約6メートル、太さ1メートル程の柱に影が出来ており、その影に転移したようだ。


とりあえず周囲に敵対する存在は居ないようなので、影分身で影に印を付け、本体の方で最上階へ影渡りで一気に移動。


影からレイン、ミツキ、ソウ、護衛の2人を出し、本体の俺も出ると分身を解除。


「あれが次元高炉やな」

「綺麗ですね」

「今のところ、周囲に敵影は無いが、警戒するように」

「ほな、高炉に近付くで?」

「我々が前に立ちます」


そう言って護衛が前に行こうとするので待ったを掛け、俺が前に出る。


「あんたらはレインの護衛を頼む、罠がある可能性も高いからな」

「確かに、何の警備もおらへんのはおかしいな」

「式神で確かめましょうか?」

「いや、何かあった時のために準備だけしといてくれ」

「分かりました」


そう言うと俺は、高炉に向かって歩き始める。

その後をレイン達が少し離れて歩き、高炉まであと50メートル程の位置まで来た瞬間、俺の全身が一気にゴウッ! と燃え上がった。


「なんや!?」

「師匠!?」

「お下がりください!」

「周囲に敵影はありません!」

「キジ丸さん!? 大丈夫か!?」

「問題無い」

「「「っ!?」」」


俺が皆の背後から声を掛けると、バッと振り返り目を見開く。


「……キジ丸さんが2人おる!?」

「いや、燃えてるあれは、ハンゾウが作った分身だから」


まあ、影分身だけどね。

本体でそのまま怪しい場所に行く訳無いでしょ。

こういう時のための影分身だから。


すると燃えていた俺の分身は、霧が四散するように消滅した。


「はぁ~、ビックリしたぁ~」

「死んだかと思いましたよ」

「ハンゾウに頼んでやってもらったんだ。罠があるかもしれないからな……まあその先には、結界が張られてるようで、触れると燃えるらしい」


そう言うと全員が前へ振り向き、ジッと観察するが何も見えない。

当然だ。

俺でも見えなかったからね。

罠なら罠感知があるので気付くはずが、まったく反応が無かった。

つまりこれは、罠ではなく結界。

誰も高炉に近付けさせないための。


「レイン、ハンゾウに頼んで高炉の影に移動するか?」

「そうやな。それが一番……」

「待ってください。結界の中が安全とは限りませんよ?」

「ミツキの言うとおりだな。ハンゾウ、頼む」


その瞬間、結界の中でいきなり燃え盛る忍者の姿が。

当然影分身である。


「アブなぁ。このまま入ってたら炭になってたで」

「さて、これはどうしたもんか、この結界を解除しないと近付けないぞ?」

「ちょい待ち……ふむふむ……なるほど」


レインは周囲を見回し、何か考え込み始めた。

何か気付いたのかな?


「キジ丸さん、あの周囲にある小さい柱、あれを全部破壊すれば、結界は解ける可能性が高いで」


そう言われて柱を見回す。

確かにこの広い空間に、なぜあんな柱があるのか気になってたが、結界の発動装置だとしたら納得。

違うかもしれないが試す価値はある。


「じゃあ、壊していくか」

「あたしもやるで」

「私もやります」

「我々は陛下を護ります」


皆が行動を移そうとしたがレインが声を出す。


「あれ?」

「どうした?」

「変やで……術が発動せぇへん」

「っ!? 私もです」

「主様すみません、私も術を発動出来ないようです」


ソウまで出来ないってなんだ?

この最上階には、そういう結界が張られてるのか?

……いや、おかしくね?

俺は分身も影分身も使えてるぞ?

術だけが発動出来ない空間になってるのかな?


試しに、体内に印を書き1つの柱に向けて発動。

すると柱の根元から一気に燃え上がる。


「なんや!? 柱がいきなり燃えたで!?」

「これも罠!?」

「いや、あれはハンゾウがやった事だ」

「へっ?」

「ハンゾウさんが?」

「どないして燃やしたん?」

「普通に術を発動させたらしいぞ」


そこで全員が首を傾げる。

レイン達は術を使えないのに、なぜハンゾウというか俺は術が使えるのか?

何が原因なんだ?



少しの間、沈黙が続いた後レインが突然。


「そうや! 高炉から出てるエネルギーの影響や! 船のエンジンもそれで止まった。そやから術を使う魔力も掻き消されるんや!」

「じゃあ、どうしてハンゾウさんの魔力は消えないのかな?」


ミツキの言葉に俺は、ふと1つの答えにいき着く。


「縛りだ」

「SMがどないしたん?」

「……あっ、なるほど!」

「えっ? ミっちゃんなんか分かったん?」

「この空間が、訓練法の縛りと同じ環境って事だよ」

「縛りの事は聞いたけど、いまいちよう分からんねんけど?」


レインがそう言うので俺が詳しく説明した。


船のエンジンが止まったのと同じで、高炉から出てるエネルギーは、魔力を使い難くする効果がある事を。


ハンゾウというか俺はその縛りの状態で訓練をしているので、普通に術を発動出来たという訳だ。


「……とんでもない空間やな」

「そんな空間で普通に術を使えるハンゾウさんも凄いですけど」


これはちょっとマズいな。

もし敵が大量に出て来たら、レイン達は戦えないぞ。

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