第48話 侵入の前夜。

最上階へ戻った俺達は、クリーンで身体を綺麗にしてから窓へ近づき、外の景色を眺める。


「ん? 古代都市は?」


どこにも街らしき建物が見えないので振り返り、レインに聞くと。


「ここから約40キロ程行った所にあるで」

「もっと街の近くで降りたら良いのに」

「あんまり近付いたらエンジンが止まってしまうねん。そやからここから車で向かうで」


あぁ、そんな事言ってたな。

せっかく街を見れると思ったのに。


そうこうしてる内に船が地上へ着陸し、俺達はエレベーターで船の底へ向かい、積んである装甲車に乗り込む。

バスのように座席が並んでいる車で、真ん中にレインとミツキ、その前にシュート、サイオウ、ラメリが乗り、後方に俺が乗る。

最後尾と一番前には護衛の軍人が2人ずつ。


車に乗り込むと船尾の底が開きスロープになり、そこから車とゼギア部隊が順番に下りて行き、北にある古代都市を目指して進む。


車で移動中、夜なのにこのまま街に入るのか聞くと。


「街の手前に野営出来る場所があるから、そこで朝を待ってから街に入るで」

「船の中で朝を待った方が良くないか? 俺は大丈夫だがレインやミツキは大丈夫か?」

「あたしは大丈夫やで、テント持って来てるしな」

「私も大丈夫です。レインちゃんのテントでラメリさんも一緒に朝まで過ごすので」

「女子会なんで男は出入り禁止やで?」

「誰が入るか」


と、シュートが即答。

女子だらけの中に入るのは、疲れるよなぁ。

シズキに変装してても入るのは嫌だね。


ちなみにシズキとは、俺がゲームの時に変装していたキャラの1つで、完全に自分好みに作った変装キャラである。

可愛くてスタイル抜群の女侍だ。



船が着陸した場所から街までは、岩と土だけの荒野になっており、見通しはかなり良い。

所々に何かが爆発した形跡があるのでおそらく、スキラスが何かと戦った跡だろう。


すると突然車が停まり、運転手が叫ぶ。


「前方からスキラスが3体、接近中なので一旦停止します!」

「大丈夫なのか?」

「ああ、ゼギア部隊が始末するさ」


シュートがそう言うのでのんびり待つ事に。

それから数分間、銃撃音が鳴り響くとスキラスは、無事始末したようで再出発する。


暫く進むとスキラスの死体を片付けてる軍の者を発見。

窓から見てみるとスキラスの死体は、全長約3メートル程の獣型。

通り過ぎる時見ながらレインに、こんなドンパチやって他のスキラスが寄って来ないのか聞くとどうやらスキラスも、夜は寝てるらしい。

たまにこうやって夜になって動く奴も居るんだとさ。


「なら夜に潜入した方が良いのでは?」

「アカン、夜街に入ったら面倒臭いのが出て来るからな」

「面倒臭いやつ?」

「次元高炉を護ってるスキラスや」

「えっ、明るくなってもそれは居るんじゃね?」

「明るくなるとそいつらは、逆に睡眠に入んねん」


なるほど。


「まあ、それでも侵入したら確実に出て来るけどな」

「じゃあ一緒じゃん」

「明るい方が戦いやすいやろ?」


普通の人達はそうだろうな。

俺は暗視があるし、空間感知と魔力感知、気配察知があるので暗闇でも戦えるぞ。


「あぁ、そうかも? ってかスキラスも寝るんだ」

「あたり前やん、スキラスは機械の部分もあるけど殆どが生物のままやからな」

「そうか、全部機械じゃないのか」


そんな話をしながら進む事約1時間後。

ようやく野営をする場所に到着した。



何も無いだだっ広い荒野のど真ん中で車を停め、降りるとレインはインベントリからテントを取り出し設置。

護衛の者達もテントを張り、野営の準備を始める。

4機のゼギアで周囲の見張りをし、歩兵が8人体勢で見張りをし、朝を待つ事に。


俺は車から降りて古代都市がある方を、視力を強化して見てみるとそこには、カリムス王国よりも高い外壁が薄っすらと見えた。

あれが古代都市。


左右の地平線まで伸びている高い壁。

その奥には、夜空に黒いシルエットで建物らしき影が見える。


「広いな」

「だろ? あれが古代都市だ」


俺の横に来たシュートが、同じように街の方を見ながら言う。


「シュートは一回来た事あるんだよな?」

「ああ、あの時はヤバかった。最初は数十のスキラスが、数分後には数百、更に数分経つごとに数が増えて行き、最終的にスキラスの数は、ざっと目算しただけだが約数万だ。どれだけ強くなっても数にはやっぱり負けるんだと思い知ったよ」

「ほう、数万か……」


すると気配でシュートが俺を見ている事が分かり、俺も見るとシュートが。


「嬉しそうだな」


と、笑いながら言うので俺は、更に笑みを深めて答えた。


「当然だろ? 強い奴が居るなら俺ももっと強くなれるんだ。現実になっても最強は諦めてないぞ?」


そう言うとシュートはキョトンとした後、笑みを浮かべて言う。


「はは、既に最強になった奴が何言ってんだよ」

「おいおい、俺はまだ最強じゃないからな?」

「お前より強い奴が居るってのか?」

「ああ、居る」

「マジか?」


影の神(管理AI)と使徒の半蔵だ。

それと……。


「一度アキトとも戦った事があったけど、その時は負けたからな。と言っても、大会の随分前だけど」

「アキト? って誰だ?」

「あれ? 知らない? 魔の領域でスローライフをしてた魔王と呼ばれた吸血鬼のプレイヤーなんだけど」

「魔王? ……あぁ、何人か居たな。確か北の方と死の国カラトナのトップがそうだっけ? その吸血鬼の魔王は聞いた事が無いが」

「アキトは静かに、のんびりスローライフを送ってたからな。大会だって誘ったけど、興味無いって出なかったし」

「キジ丸に一回勝ってる奴なら相当強いだろうな」


まあ、アキトと戦った時、加重を解くの忘れてたんだけどね。

結局一度戦って以降、一回も戦わず終いだった。

この世界に来てるなら、戦ってみたいなぁ。

もしかしたらどっかで、スローライフを送ってる可能性が高い。

……うん、あり得る。


「そう言えば、今思い出したがハンゾウが死の国のトップと戦って勝ってたよな? 動画を見た記憶がある」

「ああ、勝ってたよ」

「ならキジ丸でも勝てるって事だな。こっちでも魔王をやってたらキジ丸が止めてやれ」


ハンゾウも俺だけどね。

この世界で魔王か……アベルはそんな事はしてないと思うけど。


「もしそうなら止めてやるよ」

「じゃあそろそろ休むか、朝方には俺も見張りに入るから今の内に寝ておくわ」

「ああ、俺もすぐ寝る」

「テントは?」

「フッ、俺には必要無い」

「なんじゃそりゃ、じゃあな」

「おう」


そう言って去っていくシュート。

ミツキ達は既に、テント内で休んでるようだ。

俺はちょっと離れた場所で、軽く訓練してから寝ようかな。


いよいよ明日は古代都市だ。

絶対次元高炉を止めて北へ行く。

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