第44話 空の魔物。

出航して約3時間後。

俺は、プールサイドにあるバーカウンターで酒を飲んでいた。


あれから中を見回り、空間感知と気配察知で調べ回ったが最初の女以外に怪しい奴は居ないようで、あの妙な気配も勘違いかと思ってしまう。

しかし、ちゃんと分身を潜ませ監視は続けてる。


飛空艇の最下層には、ゼギア部隊が待機しており、いつでも出撃出来るように待機してるようだ。

これなら魔物やスキラスが来ても、対処は可能だろ。

なので、のんびりお酒を飲んでるという訳である。


俺もいつか、小さい飛空艇を作りたいな。

それで旅をするのも良い。


なんて思いながらのんびりお酒を飲んでいると、シュートから連絡が来た。


『今どこに居る?』

『プールサイドのバーカウンターで飲んでる』

『お気楽だな』

『で? 何か用事があったんじゃないの?』

『あぁ、一緒に昼飯でも食うかと思ってな。最初の部屋でレイン達と食う事になってる』


そろそろ飯か。


『じゃあ、俺も……』

『ん? ちょっと待て』

『どうした?』


返事は無く、少し間を空けて答えるシュート。


『昼飯はちょっと後になる。魔物が接近してると報告があった』

『ほう、それは見てみたいな』

『なら最初の部屋に来い、映像で見れるぞ』

『いや、せっかくなら直に見たい。どっちから来る?』

『3時の方角だ』

『オッケー』

『ゼギアが出撃するから手を出すなよ?』

『了解』


そうしてリングによる念話を終了し、酒を一気に飲み干すと席を立ち、甲板に急いで向かうためその場で跳び、2階上の手すりに摑まり、そこからまた跳んで甲板へ向かう。


甲板に出ると3時の方角へ向かい、甲板の端に到着した所で魔力感知を魔物が居る方角に絞って発動。

すると、大きな魔力が物凄い速さで近づいて来るのが分かった。


空の魔物か、大きな鳥かな?

距離は……約500メートル。

なのに魔物の姿はまだ見えない。


そこで視線を落とす。

雲の中。

魔物は雲の中を移動してる。


するとカグリの下からゼギアが6機出撃し、魔物が居る方角へ飛んで行く。

この光景、アニメでしか見た事ないね。



ゼギアが飛んで行くのを見送っていると次の瞬間、眼下に広がる雲海が盛り上がり、ゼギアに向かって黒い物体が出てきた。


ゼギア部隊は散開し、黒い物体を避ける。

そこで黒い物体が完全に姿を現す。


「何だあれ?」


背中にうじゃうじゃと触手を生やし、大きな羽を持つ巨大な鳥。

全身黒い毛に覆われ、額の部分に金色の大きな角。


「……魔王種?」


あの金色の角、カゲと同じだ。

住人やプレイヤー、カゲ達がこの世界に居るなら、GFWの魔物がこの世界に来ていても不思議じゃないが……あれが魔王種だとしたら大き過ぎじゃね?


全長約60メートル、広げた羽を入れたら幅は約120メートル。

この世界で成長したのか?

魔王種だとしたらゼギアで倒せるか微妙だな。


なんて考えながら見ていると、雲から出てきた鳥の額にある角がバチバチと放電を始めた。


「あっ、ヤバ」


その瞬間、鳥が周囲に放電すると雷が走り、ゼギア部隊に襲い掛かる。

が、雷が機体に当たる直前、光の壁によって雷は弾かれた。


「誰かの結界か」


鳥はグルっと旋回し、ゼギア部隊の頭上を飛び、今度は羽を動かし暴風を巻き起こす。

すると暴風は、眼下に広がる雲海を散らし、地上が見えるようになる。

丁度山脈が続く上空を飛んでるようだ。


風圧も光の壁によって防ぎ、何とか体勢を整えたゼギア部隊が、一斉に射撃を始めた。

アサルトライフルの魔力弾が雨のように、鳥の魔物を襲うが巨体のくせに動きが速く、殆ど躱されている。

それでも、少しは当たっているので微かに血を流す魔物。


『kYUAAAAAAA!!!!』


背中の触手を一気に伸ばし、ゼギア部隊に迫るが銃で触手を弾く。

それでも触手の数が多く、2体の胴体を触手が掠めた。


「映画を見てるようだな」


実に面白い。

どうやって倒すんだろ?



ちょっとテンション上がって観戦してると、背後から殺気が迫って来たので首を傾げると頭の横をナイフが通り過ぎる。


続けて気配が背後に迫り、空間感知で右手に持つナイフを突き刺して来るのが分かったので振り向きざまに避けながら右手で襲撃者の右腕を掴み、引き寄せながら腹に膝蹴りを打ち込む。


「ぐふぉっ!?」


身体がくの字になって頭を下げたところで左手で髪を掴み、無理やり上体を起こすと腕を掴んでいた右手で顔面に拳を打ち込み、吹っ飛ばす。


数メートル吹っ飛んだ所で黒髪の男が受け止め、気絶した男を抱えながら見て口を開く。


「スタッフに暴力は控えて頂きたいのですが?」


俺を半円状に囲むよう立つ4人の男達。

全員スーツを着た政府職員っぽいが、侵入した賊か。


「いきなり襲い掛かって来るのは、是非今後も続けてくれ、良い訓練になる」


そう言って笑みを深める。


「何を言ってるのか分かりませんが? 私達が見たのはキジ丸さんがスタッフを殴るところです。これは女王様に報告しないといけませんね」

「ブハッ!」

「何がおかしいのですか?」


こいつら、俺を悪者にして排除する気か?

面白過ぎるんですけど!!


「お前ら元プレイヤーじゃないだろ。ゲームの時の俺を知らないようだ」

「……何の事ですかね? それより、今直ぐ船を降りて頂きます」

「ほう、どうやら俺が邪魔らしいな」


レインが狙いか?

それともこの船?

とにかく、俺が居ると邪魔になるらしい。

だとしたら……とことん邪魔をしてやろう。

その方が面白そうだし!


「スタッフに暴力を振る者を乗せておく事は出来ませんから」

「ククク……まだ茶番を続けるのか? 何が目的か知らないけど、俺が居ると目的を達成出来ないんだろ? レインを始末する事か? それともこの船?」


俺がそう言うと男は、諦めたのか抱えていた男を離し、雰囲気がガラッと変わると口を開く。


「はぁ~、あんたとは戦うなと師匠に言われてたけど、さっさと殺した方が早い」

「師匠?」


すると右側に立っていた金髪の男が物凄い速さで迫り、ナイフを振り抜いて来たので身体を少し逸らし避けた瞬間、背中にナイフが刺される。


「ククク、師匠が戦うなと言うからどれほどのもんかと思ったが、この程度かよ。俺は師匠を既に越えているのかもな」


と、俺の背後に立つ黒髪の男が言う。


「お前の師匠って誰だ?」


黒髪の背後に立ち、耳元で囁く。


「っ!?」


男が振り向こうとした瞬間、奴の横っ腹を殴って吹っ飛ばすと同時に刺された俺が霧のように四散し姿を消す。

そう、空蝉術です。


「お前が刺したのは残像だ」


男は転がり、10メートル程の所で止まると呻き声を上げる。


「苦しいか? その程度で起き上がれないんじゃ、俺に勝つのは無理だぞ~」

「がはっ! ……くっ……この程度」

「他の奴らもあいつと同じ師匠を持つ者か?」


しかし何も答えない。

まあ、だいたいこいつらの師匠がどんな奴か分かった。


「お前ら、忍者だろ?」

「「「「っ!?」」」」


その反応で十分だ。

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