第43話 神璃。

全長約100メートル、幅は後方が約50メートルあり、中心から前にかけて細くなっていき、先端がドラゴンの頭部のような形になっている。


翼を模った部分にはエンジンのような物が左右に2機。

後方にも2機。

胸から腹までにもエンジンらしき物が3機付いてる。

白を基調としており、滅茶苦茶カッコいい。


「スゲ~」

「俺も見た時は驚いた。まさか飛空艇を作るとは思ってなかったからな」


普通作るなら飛行船だろ。

まあ、飛行船は動きが遅いから魔物やスキラスが居るこの世界だと、簡単に落とされそうだが。

……ん?


「これで古代都市を超えられないのか?」

「無理なんだとさ」


どうやら試した事があるらしいが古代都市の領域に入る前に、次元高炉の影響でエンジンが止まってしまうとの事。

それで一度墜落した事もあるという。


この飛空艇は魔力で飛ぶ仕組みで、空気中の魔力を使うからずっと飛んでいられるらしい。

これで古代都市を超えられるなら、既に越えてるか。


「まさか飛空艇に乗れる日が来るとは……あっ、飛空艇なら襲撃の心配は無いな」

「アキオから襲撃の可能性を聞いて今回、飛空艇で行く事になったんだ」


レインが襲撃の可能性を考慮し、今回は飛空艇で行く事を決定。

元は車とゼギア部隊で行く予定だったそうだ。

地上よりは安全かもな。



クレーンを使って荷物を船に乗せたり、ゼギアで荷物を運んだりしてる風景を眺めていると、数人の軍人を連れたレインがやって来た。


「おは~!」

「おはよう」

「おは~、レイン」


俺は名前を呼んで親指を立てサムズアップする。

するとレインも、グッと親指を立てた。


「ええやろこれ? 船に詳しい元プレイヤー達と一緒に作ってん」

「名前はあるのか?」

「フフン、持ちのろんや! この子の名前は『神璃(カグリ)』や!」

「カグリ、良いね」

「せやろ? それより、そろそろ出発するで、さっさと乗り込みや」

「出陣式とかやらないのか? 女王だろ?」

「そんなもんやらへんよ。ささっと言ってちょちょっとやって帰って来るんやから」


簡単に言うなぁ。


「一番の理由は面倒臭いからやけどな」

「それが本音か……じゃあさっさと行ってパパっと終わらせて帰ってこようか」

「だな」

「最強プレイヤーが居れば、絶対成功するで!」


それは俺にプレッシャーを与えてるのか?

と言っても、実際行ってみないと何も分かんないんだけどね。

初めて行く場所は、ゲームの時から変わらずワクワクするな!



飛空艇に掛けられた階段を上り、船に乗り込む。

素材は特殊金属で作られている。

広い甲板に乗り込むと、中心には塔のような物が建っており、その中層に操縦席があるそうな。

最上階は周囲の見張り用との事。


後方にも大きな3階建ての建物があり、食堂や遊び場があって2階から上は、寝泊り出来るようになってるという。

豪華客船のような施設が全て入ってるらしい。


俺達は塔の一番上までエレベーターで上がり、最上階にある展望台に設置されたソファに座り、出発の時を待つ。


10分程して準備が整ったようで、船内放送が流れる。


『どうも船長のコールです。これより、カグリを浮上させますので揺れにご注意して下さい』

「レインが船長じゃないのか」

「うちは護られる立場やからな」

「確かに」


そんな話をしていると船体が微かに揺れるとその後は、静かにゆっくり浮上していく。


「よし、出発や!」

「こういう時は出航じゃないのか?」

「ええんや! とにかく出発やで!!」


楽しそうに言うレイン。

見た目は綺麗なエルフなのに、未だにギャップが……。


すると正面の壁が左右に開いていき、外の光が差し込む。

その光に向かって船がゆっくり進み、広大な大地が広がる大空へと飛び出した。


俺はすぐさま席を立ち、窓に近付いて外を眺める。

カリムス王国の街が地平線まで広がっているのが見えた。

日本がすっぽり入る程の街だもんな。


しかし、ちょっと進むとすぐ外壁が見えてくる。

かなり高い建物が物凄く小さく見えるね。


『これより上昇します』


すると更に街が小さくなり、雲の上まで来ると船は、上昇を止め平行に進み出す。

雲の流れを見ていると進むスピードが結構速い。

振り返りレインに、これだとどれくらいで目的地に着くのか聞くと。


「そうやなぁ~、だいたい半日ぐらいかな?」

「速い」


シュートが車だと3週間程って言ってたが、流石飛空艇。


「後は到着を待つだけだし、船の中を観光しよう。良いよな?」

「ええで、キジ丸さんの部屋も近くの人間に聞けば案内してくれるから」

「サンキュー、シュートはどうする?」

「俺は仕事だ」

「飛んでるだけなのに、何の仕事を?」

「警備に決まってるだろ。空にも魔物やスキラスが居るからな」


あっ、なるほど。

襲撃者は居なくとも、そっちがあったか。

しかし、それだけではないようで、怪しい奴が入り込んでないかの警戒もするらしい。


「じゃあ俺も、怪しい奴を見つけたら捕獲しとくよ」

「頼む」


そう言って俺は、エレベーターで甲板まで下りると周囲を見回し、一応何かあった時のために、仕込みをしておく。


仕込みをしながら甲板をグルっと回り、空間感知で船の構造を調べながら仕込みをし、気配察知で怪しい奴が居ないか確かめる。



甲板を全て見て回った後、後方にある建物へ入るとそこは、ホテルのロビーのようになっており、20メートル程すすむと建物の中心がくり抜かれたように、下まで吹き抜けになっていた。


覗き込むと何層にもなっていて、底には大きなプールが見える。

上を見るとガラス張りで日が差し込み、リゾートって雰囲気だ。


政府の人間がスーツを着てスタッフとして働き、軍人は銃を携帯して見回りをしている。

こんな所に誰か潜入するかな?

っていうか出来るのか?

俺なら出来るけど……そうか、忍者が居るかもしれないな。

だとしたら厄介だ。


忍者は変装術が使える。

変装されたらそう簡単に見破れないぞ。


なんて手すりにもたれ掛かり、建物内をボーっと眺めながら考えてると、ふと変な気配を察知し、そちらに目を向ける。

すると、3階下の吹き抜け沿いを歩いてる女を発見。

見た目はスーツを着た普通の政府職員。

しかし、一瞬出た気配が気になるな。


俺はすぐさま忍者の分身を自分の影の中に作り、影渡りで女の影に潜ませる。

暫く監視をするしかないね。

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