第32話 心眼。

アバッテ王国の人間が持って来た手土産のチーズに、毒が入っていたという事実。

下手をすればこれは、カリムス王国の女王であるレインを殺そうとしたとして戦争に発展してもおかしくない話だ。


「ハンゾウ」

「はっ」


俺の背後に忍者の分身を出す。


「チーズを食べようとしていた人達の術を解いてくれ」


そう言って俺が自分で解く。

動けるようになったレインやシュート達は、チーズを皿に返し俺を見て口を開く。


「ハンゾウの術か、急に動けなくなったからビックリしたぞ」

「ホンマや、金縛りになったと思ったわ」


ある意味金縛りだからな。

そこで分身を影に沈め解除。

レインは、皿に乗ったチーズを見て言う。


「ホンマに毒が入ってんの?」

「食ったから分かる」

「えっ!? それってヤバいやん!?」

「いや、毒耐性があるから問題無い、それより……」


俺は未だに不動金剛術で固まっている、チーズを手土産に持って来た男を見るとレインも見て口を開いた。


「そうや、これはどういう事や? あたしを毒殺しようとしたんか?」


そこでシュートが割って入る。


「いや、そんなバレバレの殺し方はしないだろ」


続けてサイオウが言う。


「そうだな。こんな目の前で堂々と毒入りの手土産を渡すのはよっぽどのバカだろ」

「ん~、確かにそうやなぁ」


俺は男の首から上の術と解き、喋れるようにすると問いかける。


「バレるのを覚悟で殺すなら、毒入りチーズより直接攻撃した方が確実だよな? つまり、お前はこの毒の事を知らなかった?」

「……あっ、動く……は、はい! 私はまったく知りません!! 主の言伝を頼まれただけの使いです!」


この時俺は『瞳術・心眼』を発動させていた。

心眼は、数秒先の未来が見えるスキルでレベルが上がると、対象の心の声が視える。

そしてこの男の心の声は、いっさい視えなかったので本当の事を言っているという事だ。


「この男は嘘を言ってないな」

「なんで分かるん?」

「ハンゾウは、嘘を見抜けるからな」

「便利やなぁ~、じゃあ、この毒は誰が? そうや、毒を調べたら分かるかもしれへんな」


そう言ってメイドに毒を調べるように指示を出すレイン。

俺はシュートが持つチーズを看破で見る。

すると……。


『【名前】名も無き毒

 【ランク】S

 【効果】体内に入ると麻痺を起こし、内臓の機能を停止させる。

 【詳細】人の手によって複数の毒を調合した毒で解毒は難しい。即効性のある毒。』


頭の中に情報が流れてきた。

ゲームの時とほぼ同じ感じだが、製作者の情報が無い。

しかし、ランクがあるのはなぜだ?

現実なのに……人の手で作られた物だからか?

……謎だ。

まあとりあえず。


「人の手によって作られた毒なのは間違い無いな……ハンゾウだ」


レインが俺をジッと見るので、ハンゾウからの情報という事にしておく。

それにしても、即効性の毒って俺が先に食って良かったよ。

他の人なら死んでたかもな。


俺は男を見て問いかける。


「このチーズ、お前が買った物か?」

「わ、私が買いましたが、部下に注文させて配達してもらいました!」

「ずっとお前が持ってた?」

「いえ! 部下に持たせてました!」

「つまり、その部下が怪しいって事になるが?」


すると首を動かして左側で動けないでいる従者が、持っていた部下だと言うのでその従者に問う。


「お前が毒を入れたのか?」


そう聞くと首を激しく横に振る従者。

心の声は視えないって事は、本当の事を言ってる。


「毒を入れる隙はあったか? 例えばチーズから目を離した時間があるとか?」


従者は俺の問いに、少し考えると答えた。


「……昨日、ホテルに泊まった時に、部屋に置いている間、部屋に入れる者なら誰でも」

『もしかして、昨日のあの女?』


そこで初めて心の声が視える。

従者が普通に答えた後、従者が話す姿が薄っすらと視えたのだ。


「ホテルに泊まった時、知らない奴を部屋に入れた?」

「……いえ」

『女を買ったなんて言えない、しかも何も出来なかったなんて……』


俺は従者に近付き、小声で話す。


「女を買ったな? どんな女だ?」

「っ!?」

「安心しろ、何も出来なかった事は言わないでおいてやる」


するとゴクッと生唾を飲み込む音がする。

怖いだろう?

心の声がバレてると思うとね。

従者は観念したようで、女の特徴を話した。



長い紫の髪で、左目の下にホクロがあったとの事。

それ以外に特徴は無かったそうな。


「知らん女を部屋に入れるって、使いとしてどうなん?」

「お前、国に戻ったら分かってるな?」


男が従者にそう言うが。


「お前が責任者だろ? 他国のしかも女王が主催のパーティーで、毒入りの手土産を持って来たお前も分かってるよな?」

「っ!? 分かりました。私の首1つで済むなら差し出します」

「あんたの首なんかいらんわ」


即答のレイン。

そりゃこいつの首なんか取っても、なんの足しにもならないからな。


「こいつらはどうする? 解放するか?」

「そうやなぁ……この3人はホンマに関係無いんやんな?」


話しを聞きながら全員心眼で確かめたが、こいつらはただの使いだ間違いない。

毒を入れたのは、まったく別の奴だ。


「間抜けって意味だと関係あるが?」

「はは、そりゃええ女に騙されるのが男の性っちゅうもんやろ?」


やはりレインの中身は男っぽい。

その後、男達はこの場で尋問した結果、今回の件に直接的な関りが無いという事で無罪放免となり解放する事となった。


不動金剛術を解いて動けるようになった男達は、レインに頭を下げて挨拶をするとすぐ会場を出て行くが、出る前にレインが。


「あんたの主に言うといて、可愛い子なら受け入れるってな」

「畏まりました!!」


最後はそう言ってそそくさと出て行くのをレインは、笑みを浮かべて見送る。

本来女王が狙われたので男達は、捕縛して拷問を受けるはずだったが俺の心眼のお陰で、無罪放免となったのだ。

レインに、俺とハンゾウが居て助かったとお礼を言われたよ。



その後、参加者達に問題は一応解決したとレインが伝え、パーティーは再開された。

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