第22話 カゲと夜叉。

現実になった世界でも、ゲームの時と変わらないカゲを口寄せする事が出来た。

近付くと頭を下げ、俺の身体に頭を押し付けるのでモフモフする。


「カゲ、久しぶりって言ってたけど、以前呼んでからどれくらい経つ?」

『約15年です』


15年!?

キミカは2年程だったのに、このズレは何だ?

時間がバラバラだな。

プレイヤーもこの世界に飛ばされる時間にズレがあるし、何か明確な理由があるんだろうか?

もしかしたらただのランダムなのかもしれないが……考えても分からん。


「15年か、俺からしたら3日前に会ったんだけどな」

『そうなのですか?』

「それでカゲ……」


俺はモフモフしながらカゲに、以前口寄せした時と現在で何か違うところや違和感はあるか聞くと、少し考えてから『特にありません』と答えた。


カゲからしたらゲームの時と変わらないって事か……ここは本当に現実世界なのか?

キジ丸の記憶では現実と認識してるが、それが埋め込まれた記憶だとしたら?

なんて考えたらキリがないね。


それを言えば、地球に居た時も同じだな。

宝くじが当たって好きなゲームに没頭していた生活。

あれが現実じゃないと思えば、現実ではなくなる。

つまり、自分の記憶と認識を信じるしかない。

なのでここも、現実だと思っていれば何も問題は無いだろう。

ゲームの時と同じように、楽しむだけだ。



俺はカゲに、この世界は現実で以前とは違う世界だと説明した。


『違う世界? 主様が居る所ならそれが私にとって居るべき場所です!』


可愛い奴だなぁ~!

と更にモフモフする。

あぁ~、このモフモフもゲームの時と変わらない。

と、十分モフモフしたのでそろそろ、もう1人も口寄せするか。


カゲの身体に埋もれながら左手で印を結び、夜叉を口寄せすると俺の影から出現した。


全身薄黒い色をした肌に金色の模様が入った上半身裸でブカっとしたズボンに素足。

ボサボサした黒に近い紫色の長い髪で、額から後ろへ向かって伸びる金色の約30センチ程の長さがある2本の角。

縦に割れた金色の瞳で、口からは長い牙を生やした鬼。


「主よ。随分久しぶりだな」

「夜叉、お前も3日前に会ったんだけど、どれくらい会ってない?」

「15年程か?」


カゲと一緒か。

俺はモフモフを終わらせて2人と向き合い、口寄せする前に居た場所を聞くとゲームの時と同じ、神の箱庭と呼ばれる場所である事が分かった。


つまり、俺が口寄せするまで2人は、ゲームの世界に居たって事だ。

時間のズレはこの際どうでも良い。

異世界だと時間の流れが違うのか、ただランダムなのか分からないしね。


問題はここからだ。

2人に先程まで居た場所に戻れるのか確かめてもらう事に。

すると、すんなり戻る事が出来た。

もう一度口寄せして2人に、戻った場所が同じか尋ねると。


『少し違和感がありました』

「俺も感じた」

「違和感? それはどんな?」


カゲが首を傾げながら答える。


『主様に呼ばれる前より、魔力が濃くなっていたような?』

「俺は、変な気配を感じた。今まで居なかった魔物が居る気配だ」


俺がこの世界に口寄せした事で、神の箱庭も現実になったって事か?

それとも、2人がゲーム世界から現実世界である神の箱庭に戻った?

なら……神も存在する?


「カゲを生み出した神の存在は感じたか?」

『っ!? いえ! 先程まで繋がりがあったものが、今はまったくありません』


ゲームシステムから切り離されたって事かな?

…………まあ、送還出来るなら問題無いか。

口寄せしたままだと街に入れないしね。

俺の影に入れたままだと可哀想だし、これはこれでオッケー?



何はともあれ、2人を無事口寄せ出来た事は有難い。

という訳で、いつもやっていた戦闘訓練を2人と行う事にし、30分程戦って訓練は終了。


「2人とも、強くなったな」

「主に言われたとおり、鍛えていたからな」

『新たな技も作りました』

「それは今度見せてくれ、じゃあ今日はこれくらいにして終わろう。また呼ぶからその時はよろしくな」

「任せろ」

『はっ!』


そう言って2人を送還する。

2人との戦闘訓練はゲームの時から、軽くやる程度だ。

軽くと言っても腕の1本や2本を落とす事はあるけどね。


カゲ達と訓練をして思った事がある。

それは、俺のユニークスキルの五法一術の中にある【錬生術】を使えば、死ぬまでの戦闘訓練が出来るのでは?


錬生術は1日1回、死んでも復活出来るというユニークスキルだ。

偶になら使って訓練しても良いんじゃね?

訓練の後、何かあって死んだら終わりだけど。


ただ、現実になった今、それがちゃんと発動するのか分からないんだよなぁ。

キジ丸の記憶では、ちゃんと発動してるが……。


なんて考えながら影に潜り、影渡りで印を付けた街中へ移動するとリングでマップを開き、シュートの家へ向かう。



マップを頼りにシュートの家の前に到着した俺は、滅茶苦茶高いビル? マンション? を見上げていた。


「デケー」


シュートはこの建物の135階に住んでるらしい。

1階から100階までは店やオフィスとして使われており、101階から上が居住区になっていると、入り口横の案内板に書かれていた。

案内板といってもホログラムだ。

ハイテクだねぇ。


入るとショッピングモールのような内装で、既に閉まってる店が並ぶ。

建物内のマップを見ながらエレベーターへ向かい、それで135階へ上がる。

エレベーターは静かで身体にGも掛からず、10秒程で扉が開く。

早い。


エレベーターを出ると左右にマンションの廊下のような通路が、約50メートル程伸びており、扉が幾つかある。

廊下を歩いて扉に掛かれた部屋番号を見て行くと、廊下を左へ行った突き当たりの部屋がシュートの部屋だった。


『3065』と書かれた扉のインターホンを押す。


『おう、開いてるぞ』


扉を上げると、日本式なのか靴を脱ぐようになっていてスリッパが置かれているので、靴を脱いでスリッパに履き替え、フローリングの10メートル程ある廊下を進み、扉を開けるとそこには、50畳程あるリビングが広がっていた。


座り心地が良さそうなソファがL字に置かれ、その前には高級そうなテーブル。

その奥には大画面のテレビに、天井に埋め込まれた明るい照明。

テレビの後ろは一面天井から床までカーテンで覆われている。

ホテルのスイートルームって感じだな。


ソファに座ってテレビを見ているシュートが振り向き、口を開いた。


「遅かったな」

「訓練してたんだよ」


そう言って俺も、ソファに座り一息吐く。

流石将軍。

金持ちだ。

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