第17話 特殊な訓練法。

縛りとは、自分に課すモノだ。

例えば、魔力で縛りをする時、魔力制御が今までより難しくなったり、魔力の出力が激減した状態で過ごす事である。


俺の場合、魔力、マナ、エーテルで縛りを設け、身体能力と各出力を大幅に下げた状態で普段どおりに扱えるようになるための訓練をしている最中だ。

レベルのあるゲームで言えば、自分でレベルを下げた状態で進む感じだな。


魔力による加重と似てるが加重は、身体のみの訓練で縛りは、魔力の訓練にもなる。

現実になって気付いた事だが縛りの訓練をすると、魔力自体のレベルが上がる感覚だ。


「という訳で、この縛りは自分でやらないと意味が無いからな。どういう縛りを設けるかは自分で決めろ」

「キジ丸さんはどういった縛りを?」

「最初は、身体に掛かる負荷を10倍と魔力の出力を極端に少なくしたな。お陰でその場から12時間程動けなくなったけど」

「ドMですか?」

「訓練だよ。加重だけなら魔力で強化して動けるけど、魔力の出力も抑えてるから殆ど強化出来ない状態になるんだ。だから慣れるまで動けなくなったという訳だな」

「なるほど、でしたら私はその半分くらいから始めた方が良いですね。慣れたらまた縛りを強くしていけば良いんですよね?」

「ああ、俺も今は50倍の負荷にしてるからな」

「50倍……それで動けるってどんな身体してるんですか?」

「こんな身体ですけど?」


と、胸を張る。


「でも私、ムキムキになりたくはないんですが……」


女の子だもんねぇ。

だがしかし。


「それは安心しろ、加重と違って縛りはムキムキにならないから」

「そうなんですか?」

「ああ、縛りで身体を鍛えたら見た目はそのままで、質が強くなるって言えばいいのかな? 筋肉の太さは変わらないが中身が強くなるって感じだ」

「普通の糸がワイヤーになる感じですね?」


俺は頷く。



さっそく縛りのやり方を教える。

自分で決めた縛りを魔力の球にし、それを体内に保存するイメージで完成。

それを持ち続けてる間は、縛りが効いた状態になり、解除したい時はその球を消せば良い。


上手く出来たようでミツキの表情が少し歪み、テーブルに両手を置いた状態で目を瞑り額から一滴の汗を流す。


「どうだ? キツイだろ?」


返事も出来ない程苦しいようだ。

コーヒーを飲みながらミツキが動くのを待ってると数分程して目を開け、深呼吸してから答えた。


「スゥ~……はぁ~……凄い訓練法ですね。魔力で強化しても殆ど強化出来ません」

「最初はな。常にその状態で居ればすぐ慣れるさ」

「これで私も……」

「ちなみに訓練はそれだけじゃないぞ」

「へっ?」


キョトンとするミツキに俺は、笑みを深めて告げる。


「次はマナの制御だ。ミツキの言い方だと仙気の制御訓練だな」

「……今は縛りがある状態なんですけど?」

「だからこその訓練だろ? 安心しろ、マナの縛りは制御が出来るようになってからだ」

「魔力の縛りでもこの状態なのに、仙気でも縛りをするんですか?」

「当然、俺もやってるぞ?」

「やっぱりドMですね?」

「強くなるためだ……で、マナはどれくらい使える?」

神源流陰陽術しんげんりゅうおんみょうじゅつでは、仙気を式神に流す事しかしないのでそんなには……」

「ほう、流派を持ってるのか」


俺も自分の流派と住人が作った流派を幾つか習得してる。

住人とはGFWのNPCの事だ。

ミツキも神源流陰陽術の師範に教えてもらい、免許皆伝になったらしい。


「じゃあまずは、マナを扱えるようになる事だな」

「どうすれば?」

「マナは意志と覚悟が重要だ。最初は難しいだろうけど徐々に慣れれば感じる事も出来るようになるし、好に動かせるようになる」

「師匠には思いが重要と言われた事があります」

「その流派では、式神を強化するために使うからそういう教えなんだろう。しかしマナを扱えるようになれば、もっと凄い事が出来るようになるぞ」

「本当ですか!?」

「ああ、だから式紙以外の陰陽師の術を教えてくれ」

「分かりました。じゃあ……」


その後、2時間程で陰陽術の【魔除け】と【陰陽陣】というのを教わった。

魔除けは、不浄な物を寄せ付けない結界を張る事が出来る術で、陰陽陣はミツキが作った魔法陣で、建物や小物、武器にもいろんな効果が付与出来るらしい。


俺の錬成印と似たようなものだが、付与出来る内容が少し違う。

錬成印は武器の強化などが主で陰陽陣は、武器を鍵にしたりも出来るのだ。

他にもいろいろ出来るので面白い。



陰陽師の術を教えてもらってる間にミツキも縛りに慣れてきたのか、いつの間にか普通に会話が出来るようになっており、術もギリギリ発動出来ていた。


そろそろ昼飯の時間なのでどこか良い店は無いかミツキに聞くと、近くに美味しい店があるので一緒に行く事になり、席を立つとミツキは、ぎこちない動きだが何とか歩けるようで支払いを済ませて店を出ようとした所で、ミツキが立ち止まる。


固まって少しすると。


「キジ丸さん、友達も一緒で良いですか?」

「あぁ、念話が来てたのか、良いぞ」

「……店で合流する事になりました」

「じゃあ行こうか」

「はい」


店を出て歩き始めた所で俺は、ゲームの時からの友達なのか聞くと、こっちに来てから友達になったそうで名前は『キミカ』というらしい。

そのキミカもプレイヤーで、元は召喚士だという。


「元? 今は違うのか?」

「今はゲームの時の能力が使えない一般人です」


と、ちょっと悲しそうな表情をして言うミツキ。

能力が使えない?

そんな事が……あっ。


「魔力が使えないってやつか?」

「そうです」

「それは丁度良い」

「何がです?」

「俺が使えるようにしてやる。ただし、召喚士の術を教えてもらうのが条件だ」

「使えるようになるんですか!?」

「ああ、絶対使えるようになる」


ユニークスキルを習得してないプレイヤーも、この世界じゃ魔力を使えない。

こんな近くに居るって事は、魔力が使えないプレイヤーは思ってたより多いのかもな。


まあ、ゲームの時にユニークスキルを習得するのも大変だし、持ってない奴の方が多いか?

ゲームを始めたばかりの人だったら確実に習得してないだろうし、そうなるとこの世界に来てる初心者は、かなり危険かも?


魔力が使えないなら一般人と同じだ。

それが森や人里離れた場所に転移させられてたら……これは思った以上に既に死んでるプレイヤーは多いかもしれない。


何も無い状態でいきなり異世界に飛ばされるようなもんだろ?

それ何て無理ゲー?

これはどうにかしないと、死んでしまうプレイヤーが増えるぞ。


今晩シュートに相談してみるか。

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