第11話 核の解し方。

俺はミナの背中にもう一度触れ、核をゆっくり解すと微かに魔力が漏れ始めた。


「……あっ」

「気付いた?」

「はい、温かい何かが微かに溢れてくるような……これが魔力?」

「そうだ……後は魔力制御を高めて自分で解して行った方が良い」


そう言って手を離す。

ミナは自分の両手と身体を見ながら、微かに笑みを浮かべている。

初めての感覚が楽しいんだろう。

アキオを見ると口を開けてポカーンだ。


「ミナ、ちょっと殴ってみてくれ」


俺が右手を出し、殴るように言うとミナは、一瞬キョトンとしたが違いを自分でも試したいと思ったのか、笑みを浮かべながら頷き構える。

やっぱり構えからして相当鍛えてるな。

ミナが踏み込みと同時に右拳を俺の右手に打ち込み、パシ!! と音を響かせた。


「もっと魔力を意識して、全身に流すようにイメージしながらもう一度」

「はい!」


そして今度はバシ!! と音が替わる。


「もういっちょ! いいと言うまで続けろ」

「はい!」


そこから右、左と交互の拳で殴り続け、バシッ!! と音が変わると共に徐々に威力が増して行き最後は、最初のように踏み込みと同時に殴り、俺の手を微かに後退させる程の威力へとなる。


「よし、いいぞ」

「ふぅ~……凄い身体が軽い」

「さっきまでの自分と今の自分じゃまったく別次元に居る事が分かるか?」

「はい、これが英雄の力ですね?」

「いや、英雄の力じゃない、これは誰もが持つ力だ」

「誰もが……」

「後は自分次第だけどな」

「ありがとうございます!」

「訓練に戻って良いよ。あっ、魔力制御は流すが基本だからな?」

「分かりました!」


魔力が全身に流れ、細胞が活性化した事で今までよりも身体能力は上がった。

これで少しはマシになるだろ。

もしかしたら化けるかもな。


走り込みを始めたミナを周りの男達は、先程の動きと走り込みをしてる姿を見て明らかに変わったのを感じたようだ。

走る姿も先程よりも確実に速くなってる。



未だに茫然としてるアキオ。


「おい、いつまでボーっとしてんだよ?」

「……いやいやいや、これまで魔力が使えなかったのに、なんでいきなり使えるようになってんだ!?」

「だから説明しただろ?」

「核を無理やり破ったら爆発するんじゃなかったのかよ?」

「そこは俺の力で何とかした」

「じゃあ、魔力を使える者がやれば全員……」

「いや、俺だから出来た事だ。慣れない奴がやれば確実に爆発四散するぞ?」

「ならキジ丸が全員の、って無理か」


頷く俺。

国民全員を俺が施術するなんてどこのブラックだ。


「って事は、結局魔力を使える者が増える事は無いと……」

「いや、方法はある」

「なんだ?」


ミナの核を解して気付いた事がある。

それは、核が薄いって事だ。

しかも、核の中に更に核があり、二重になってる事も理解した。

おそらく最初は魔力で更に中の核には、マナが入ってるはず。


そしてこの薄い第一の核は、魔力が無くても解す事が出来る。


「どうやって?」

「解した時分かったんだけどさ。全身に微かだがマナは存在してるだろ? マナは生命力、つまり肉体にも微かだがマナは流れてるんだ。それを使えば第一の核は簡単に解く事が出来る……と思う」


俺自身が皆と同じ状態ならいろいろ試せれるんだけど、既に俺は核が無いからなぁ。


「なるほどマナか……確かにゲームの時はHPを使ってたもんな」

「だろ? ただし、魔力よりマナを先に扱うのは、かなり難しい」

「だな。身体にある微かなマナを感じる……相当難しいぞ?」

「それでも、意志と覚悟があれば必ず出来る」


意志と覚悟、これがマナにとって一番大切な事だ。

ソウライさんに教わった時の事を思い出すな。


アキオが黙って考え込んでいると、周りで訓練していた金髪の男が1人近づいて来てビシッと敬礼し、口を開く。


「失礼します! 部長、先程彼女に何かしていたようですが、自分にもご教授をお願いします!」

「ん? ケビンか、先程ミナにやったのは……」


アキオが説明すると。


「英雄の力、どうりで……是非自分も使えるようになりたいのですが、どうすればいいのでしょうか?」

「あぁ~、ん~……」


まだ考えが纏まってない様子のアキオ。

なので俺が簡単に説明する事に。



マナ、意志、覚悟、それらが必要だと話し、後は自分の中にある核を解すだけだと。


「マナ……意志、覚悟……あの」

「ん?」

「勉強不足ですみません、まったく理解出来ませんでした!」


気持ち良いくらいに言い切ったな。

だが嫌いじゃない。

分からない事は、素直に分からないと言う方がこっちも考える事が出来るからね。


どうすれば分かりやすく伝えられるのか?

……予備知識が無いから無理だな。

俺もゲームを始めた頃にこんな事を言われてもまったく理解出来なかっただろうし、それこそいろんな経験があって知識があったからソウライさんの教えが理解出来たんだ。


「じゃあ、何が分からない?」

「マナとは何でしょうか?」

「マナとは生命力の事だ」

「それに意思と覚悟がどう繋がるのでしょう?」

「ちなみに『意思』じゃなくて『意志』だぞ? 必ずやり遂げるという強い心と覚悟、マナはそれに答えてくれる」


なんて話をしてるといつの間にか、訓練場に居た男や女が俺達の周囲に集まり始める。

これは良い機会だ、マナで核を解す検証をしてようかな。

人体実験!



腕を組んで笑みを浮かべて見てるだけのアキオに、講義をしても良いか聞くと頷いたので距離を置いて見ている全員を整列させ、床に座らせるとマナについて講義を始めた。


そのマナを使って第一の核を解す方法。

そうすれば自分達も英雄の力、魔力を使える事が出来るようになると。


すると1人の男が手を上げる。


「なんだ?」

「はい、先程ミナにやったようにすれば使えるようになるのではないでしょうか?」

「確かに俺が核を解せば使えるようになるだろう。つまりお前は俺に、全員に施術をしろって言ってるのか?」


そう聞くと男は『あっ、マズい』という表情をした。


「そうだな、1人『100万』でやっても良いぞ? 1日10人という限定でな。どうだ? その金は誰が払う?」

「で、では、ミナも……」

「彼女は、俺の実験に付き合ってもらっただけだ。魔力が使えない原因を探るためのな」

「でしたら自分も……」

「甘えるな」


俺はそこで神気(マナ)による威圧を軽く放つと、全員が冷や汗を流し固まる。


「簡単に強くなれると思うなよ?」


ゲームでやってきた訓練や、この世界に来てから行った訓練を思い出す。

ミナだって俺が手を貸しただけで今後強くなれるかは、自分次第だ。


簡単に強さを手に入れるなどと、俺が許さん!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る