第10話 魔力が使えない理由。

魔力だと思ってるものが魔力じゃないとしたら、使い方も変わって来るはず。

でも、俺は魔力と認識してるしなぁ。


「なあ、魔力を使えない人を確認させてくれないか? なぜ使えないのか気になる」

「それならさっきの地下訓練場に行けば誰か居るから、移動するか」

「悪い、俺は一旦戻る。キジ丸の事を報告しないとな」

「俺の事?」

「ああ、最強の男が来たんだぞ? 今まで出来なかった作戦が可能になる」

「作戦?」

「北の古代都市とかな」


あぁ、スキラスが生まれる場所ね。


「もしかしたら軍に入ってもらう事になるかもしれないが、良いか?」

「いや、俺は組織には属さないよ。依頼としてなら受けるけど」

「あっ、そう言えばハンゾウは? 一緒じゃないのか?」


ハンゾウは俺が忍者になった時の名前で、全員俺とは別人だと思ってる。

忍者だと正体がバレちゃいけないという掟があったからな。

現実になって掟は無くなったが、今後のためにもハンゾウの事は黙っておこう。

バラしたら動きにくくなりそうだし。


「この世界に来てからハンゾウとは会ってないな。既にこっちに来てるのか、まだ来てないのかも分からん」

「そうか、まあそれはしょうがないわな」

「あと俺のIDを用意してくれるか?」

「任せとけ」


そう言って先に部屋を出て行くシュート。

俺とアキオは地下の訓練場へ向かい、魔力が使えない原因を探る事に。



エレベーターで訓練場へ向かう途中アキオに、冒険者ギルドは無いのか聞くと。


「無い。外に出たら死ぬだけだしな」


と言われた。

確かに、魔力が使えないなら簡単に殺されてしまうだろう。


「冒険者ギルドは無いが、探偵ギルド、ハンターギルドがあるぞ」

「外に出られないのに何を狩るんだ?」

「賞金首」

「あぁ、バウンティーハンターの方か」


探偵と賞金稼ぎね。

それはそれで面白そうだ。


賞金首ってどんなのが居るのか聞くと大抵は、逃亡してる凶悪犯罪者で中には、企業や個人が他人に賞金を懸ける事もあるという。

殆どが報復や恨みで偶に、逆恨みで賞金を懸ける奴も居るらしい。

そういうのを精査するのがギルドの仕事なんだとさ。


なんて話をしてると訓練場に到着。


「ここに居る奴なら誰でも協力してくれるぞ」

「アキオが居るから?」


頷くアキオ。


「ってか付いて来て良いのか? 仕事は?」

「IDが無いお前の世話だ」

「何だそれ」


と言いながら誰に協力してもらうか観察してると、声が聞こえてきた。


『おいミナ! 2人で一緒に汗を流さないか!?』


目を向けると男が走り込みをしてる若い女の子に、セクハラをしているようだ。

女の子は無視して走り続けてる。


長い茶髪を後ろで縛ってる可愛らしい女の子。

紺色のTシャツに黒いカーゴパンツに黒のブーツ。

特殊部隊の女の子って感じだね。


周囲の男の反応を見るとただ馬鹿にしてる感じか。

しかし、あの子は……よし。


「あのミナって子に協力してもらおう」

「女を選ぶとはねぇ。しかもミナか」

「知ってる子?」

「ああ、友達の娘だ」

「プレイヤーの子?」


首を横に振るアキオ。

なら丁度良い。

あの子は魔力を使えなくても、かなり出来る子と見た。

重心、足の運び、ブレない芯。

相当鍛えてる。



アキオにミナを呼んでもらう。


「ミナ!」


ミナはすぐこちらに走って来るとアキオの前で止まり、胸に手を当てビシッと敬礼する。


「訓練中悪いな」

「いえ、どのようなご用件でしょうか?」

「ちょっとこいつに協力してやってくれないか?」


そう言われて俺を見るミナ。


「どうも、キジ丸だ。よろしく」

「……ミナです。協力とは何を?」

「魔力について知ってる事は?」

「生物には魔力があると言われていますが、英雄以外の人には扱えない特別な力……と認識しております」

「なるほど……」


やっぱりこの子にも、訓練場の中に居る皆の中には魔力があるのになぜそれを感知出来ないのか?

こういう時、魔眼があれば魔力の流れが見えるのになぁ。

と思いながらミナの身体を観察する。


「……あの?」

「シッ」


アキオが指を自分の口の前に持っていくとミナは、困ったように俺を見るが、俺は彼女の全身を魔力感知で見ているので忙しい。

しかし、それだけじゃ分からない。


「悪い、ちょっと後ろ向いてくれ」


ミナがアキオを見ると頷くので黙って後ろを向く。


「背中に触れるぞ?」

「はい」


右手の掌を背中に当てるとちょっと汗ばんだTシャツと、体温が伝わって来る。

俺は掌から魔力を流し、ミナの体内に侵入。

ゲームでもやった事があるので簡単だ。


彼女の体内に魔力が入ってすぐある事に気付く。

それを確かめるため、全身に糸のように細くした魔力を巡らせ確認すると、体内に彼女の魔力がまったく流れてない事が判明。


だがそれはおかしい。

彼女から魔力は感じる。

なのに体内に流れてないのは、明らかな矛盾。

どういう事だ?

やっぱり魔力じゃ……ん?

これは……なるほど。



彼女の背中から手を離し、アキオに問いかける。


「アキオ、魔力が使えない人の中に『プレイヤー』も居るんじゃないか?」

「っ!?」

「その反応からして間違いなさそうだな」

「使えない理由が分かったのか?」


俺はニヤっと笑みを浮かべ答える。


「ああ、核だよ」

「カク?」


首を傾げるアキオとジッと真っ直ぐ立ったままのミナ。

俺達がやってる事を眺めている周囲の男と、数人の女。

全員、魔力が核に閉じ込められてるから使えないんだ。


ゲームでは、魔力を重ねて核を破壊する事でユニークスキルを得られた。

しかしこの魔力を重ねるというのは、魔力制御がかなり難しく、失敗すれば身体が爆発する恐れがある。


なので、魔力制御のレベルを上げて熟練者になる必要があるが、この世界で魔力が使えない人は、全員この核を持ってるんだ。

魔力を使えないプレイヤーは、ユニークスキルを習得していなかったプレイヤー。


つまり、ゲームの時はこの核にはマナが入っていたがこの世界では、魔力も封じ込められてるという事だな。

理由は分からないがおそらく、ゲームと現実の違いかこの世界に転移? 転生? をした時、その仕組みがこのように働いたという訳だね。


「アキオもユニークスキルを持ってるだろ?」

「ああ、持ってるが?」

「以前マナの扱いを教わった人が言ってた、誰もが核を持っており、それを破った者だけがマナを扱えると」


理源流師範のソウライさんに教わった事だ。


「俺が聞いたのは、出来るだけ魔力を重ねて高めると、自分の殻を破る事が出来るって聞いたけどな?」

「まあ、似たようなもんだろ。でだ、魔力を使えない人は全員、この核に魔力も入ってて出られない状態なんだ。だから使えないし感じる事も出来ない」

「じゃあ、その核を破壊すれば?」

「いや、話はそんな単純じゃない。無理に破壊すれば身体が吹っ飛ぶ恐れもある」

「ならどうすれば?」


本来魔力を重ねて自分で破るもんだが、その魔力が一緒に入ってるのでその手は使えない。

となると……魔力制御に長けた者が殻を解すように破るか、その核の中にある魔力を感じ取って自分で引き出すしか無いな。


……とりあえずミナの核は、俺が解してみるか。

後は、己次第だ。

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