第6話 密入国?

やっぱりギルドカードじゃ無理だったか。

一応名前と顔写真は載ってるんだけどな。

と思いながらスッとポケットに入れるフリをして収納する。


「あんたもしかして密入国か?」


真剣な表情で聞いてくるリック。

答えようとすると店員が、腕時計のような物に向かって話しかけていた。


「はい、IDを持たない者が私の店に……はい……分かりました」


もう通報してるよ。

今の内に金貨は収納しておく。


「マズいぞ、さっさと逃げないと捕まる。捕まったら最後、拷問されるぞ?」

「密入国でそこまでされるのか?」

「とりあえず……」


そこで店の自動ドアが開くと、警官っぽい服を着た男が2人入って来た。


「通報があったのはここだな?」

「はい、そちらの人です」


すると警官が俺の全身を見て怪訝な表情をする。


「大人しく一緒に署まで来てもらおうか」

「今時密入国をする奴が居るとはな」


うむ、逃げるのは簡単だが、キジ丸の状態で指名手配されるのは非常にマズい。

……一旦捕まって情報収集でもするか。

頃合いを見て逃げれば大丈夫だろう。

最悪、向かって来る奴は、全員始末すれば問題無い。


「了解。じゃあ行こうか」

「素直だな」

「ほら手を後ろに回せ」


両手を後ろに回すと手錠を掛けられ、そのまま外へ連行されてしまう。

店を出る直前振り返り。


「リック、ここまでサンキュー、またな」

「ほら、さっさと歩け」


俺がニッコリ笑顔でそう言うとリックは、苦笑いを浮かべていた。

もう会う事は無いだろうと思ってるのかな?

甘いぞ。

会おうと思えばいつでも会える。



店を出ると暫く歩いて通りを外れた所に停めてあるパトカーらしき車の後部座席に乗せられると思い、閻魔鉱の装備を収納して乗り込むと警官の2人は前に乗り、すぐ走り出す。


車に乗るまでいろんな人にスマホみたいなもので、写真を撮られたなぁ。

あとは腕時計のような物や、腕輪のような物もあった。

あれが全てスマホのようなデバイスなのか?

俺も欲しい。


この街は本当に発展してるね。

現在地上にある道路を走ってるが、道路の数十メートルや数百メートル上空にも道があり、建物と建物の間に橋が架かってる所まである。

街の所々に上がるためのエレベーターが設置されており、車用のエレベーターまであるのは凄い。


空中の道路に支柱は無く、周りにある建物で支えてる状態だ。

……いや、支えられていない道もあるから浮いてる?

あれは道の裏に魔法陣?

魔法で空中に固定してあるのか。

面白い世界だな。


なんて街の景色を観察してると高いビルに入って行き、地下へ続く坂道を進むと鉄扉の前に停まり降ろされる。


俺を挟むように警官が立ち、扉を開けるとまっすぐ伸びる廊下、天井には等間隔に埋め込み型のライト。

床はタイルっぽい。

壁は白いコンクリートだ。


廊下を少し進むとエレベーターに乗り、更に地下へ。

エレベーターなのにフワっと浮く感覚が無い。

数秒すると止まって扉が開くとそこは、灰色の床と壁と天井の廊下が続いていた。


幅は約3メートル。

天井までの高さは約5メートル。

そして廊下の左右の壁には、等間隔で鉄扉が付いてる。

所謂独房ってやつかな?


暫く歩いて1つの扉の前で止まると扉には『2061』と書かれていた。

ここが俺の部屋らしい。


「ほら入れ」


手錠を外され中に押し込まれると扉が閉まり、ガチャっと施錠されると小窓が開く。


「後で取り調べするから待ってろ」


そう言って小窓を閉め、静かになった。



部屋の中は、3畳程の広さで簡素なベッドが1つとトイレ用の穴が奥の左隅にある。

それ以外は何も無い部屋。


俺はベッドに腰掛け、これからどうするか考える事に。

このまま暫く警察に付き合って情報収集するかそれとも、すぐ外に出てこの国を出るか……どこに何があるのか何も分からないからなぁ。

変装術で変装すれば簡単に逃げられるが、キジ丸が指名手配されるのはダメだ。


もし他のプレイヤーに俺が指名手配されてるなんてバレたら、狙われかねない。

ゲームの時も指名手配された事があったなそう言えば。


なんて考えてると別の警官が来て取り調べをするから出ろと言われ、後ろ手に手錠を掛けられ廊下を進んで行くとエレベーターに乗せられ、上へ行く。

独房が最下層かな?


数秒後、扉が開くと10メートル程の廊下が続いており、突き当りには両開きの大きな鉄扉がある。


警官が扉を開けるとそこは、だだっ広い空間。

奥行きは数百メートルあり、天井までの高さは約20メートル程。

左右の広さは奥行きよりは狭いだろうが数百メートルはありそう。


所々で人が運動したり、纏まって走ったりと訓練のような事をしてる。

訓練場か?

事情聴取をするのに訓練場?


なんて思ってると、隅のサンドバッグが吊るされてる方へ連れていかれ、手錠を外すと鎖が付いた手枷を付けられ、グイっと引っ張られると宙吊り状態になり、足にも枷が付けられ床に繋がれ弓の弦状態に。

なるほど、取り調べとはこの国では拷問の事を言うのか。



すると何人かの警官と紺色のズボンに黒のTシャツを着た者達が集まって来た。

警官かな?


「よし、じゃあこれから取り調べを行う……おい」

「任せろ」


そう言うと1人のTシャツを着た男が、俺の前に来ると腹に右拳を打ち込む。

ドスッ! と鈍い音を響かせ後方へグンっと身体を持っていかれるが、鎖に引っ張られ同じ場所を行ったり来たりと揺れる。


「正直に答えろ、お前を手引きしたのは誰だ?」

「はっ? 手引きって何の?」


揺られながら答えると丁度男に近付いたところで、また腹を殴られ更に揺れてしまう。


「密入国のだ。どこから入った?」

「東の壁からだけど?」

「東の? あそこには、軍が居るはず……まさか……いや」

「軍の誰に手引きしてもらった!?」


殴っていた男がそう言いながらまた殴り、激しく揺れる。

それにしても……。


「はぁ~、お前さ。もっと気合入れて殴れよ」

「なに?」

「そんなんじゃ訓練にもならねぇだろ。もっと殺す気で殴れ、その程度じゃ、まったく痛くないんだけど? 訓練のために全力で殴ってくれよ、ほら、もう終わりか?」


耐久力の訓練には丁度良いかと思ったけど、この程度の攻撃じゃ鈍ってしまう。


「この……っ!?」

「待て、俺がやってやる」


すると身長2メートル程あるスーツを着た男が前に出て来た。


「図体がデカいだけじゃ無駄だぞ?」

「ほう、ならどれだけ耐えられるか、試してやろう」


そう言いながら上着を脱ぎ、構えると踏み込みと同時に腹に、右拳を打ち込んで来たが、先程と大して変わらない。


こいつが逆に、どれだけ殴れるか試してやろう。

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