第2話 スキラス。

加重とは、全身に重力属性で負荷を掛けて鍛える方法で、ゲームの時からやっていた事だ。


縛りとは、魔力、神気(マナ)、そして2つのエネルギーを合わせた『エーテル』の3つで自分に縛りを付け、身体能力や魔力などの扱いが難しくなるようにして訓練をする方法である。


現実になった今もそれらが出来る事は、感覚で分かった。

発動してもゲームの時と変わらない。

しっかり発動出来てるようだ。

これならこの世界でも、鍛える事は出来るぞ。



木が倒れた影響で発生した土煙が晴れると、吹っ飛ばした獣が立ち上がり、口を開けて光を溜めているのが目に入る。

俺は鞘に納刀し、ゲームで作った自分の流派の技を試す事に。


居合切りの構えを取り、奴が口から何かを放つ気配を察知した瞬間、俺も技を発動させた。


影明流えいめいりゅう・瞬殺


奴が口から大きな光の球をドンッ! と放つと同時に奴の首は地面に落ちる。


瞬殺は、魔力で流れを決めて一瞬で斬り、元の場所に戻る技だが今回は、光の球が迫ってたから斬った場所に留まった。


刀を振って血糊を掃い納刀しながら思考を巡らせる。

ゲームの時と違ってかなり動きやすく、感覚が滅茶苦茶鋭くなっており、技の発動もかなりスムーズだ。

これは現実になった影響なのか?



なんて考えながら銜えた煙草を指の間に挟み、煙を吐き出す。

そこでふと視線を感じて地面に目を向けると、斬り落とした獣の目が丁度俺を見ていた。


俺は頭の前にしゃがみ込み、機械になってる部分を観察する。

右目がカメラレンズのようになっており、レンズがキラッと光った。

レンズに顔を近づけて覗き込むと、レンズの奥が微かに赤く光ったので俺は、右腰の脇差しを左手で抜き取り、目の周りに突き刺すと機械になってる右目をくり抜く。


赤い血に染まったレンズから伸びるコードをズルっと抜き、最後にプチっとコードを引きちぎる。

機械と生物の融合。

凄い技術だな。


あぁ、やっぱりキジ丸としての感覚が強いのかそれとも、スキルの影響かこのグロいのがまったく気にならないのは助かった。

ゲーム内でもグロいのはあったけど、ゲームというのが頭にあったから問題無かったが、現実になった今も大丈夫そうだ。


レンズの目を持ちながら獣の頭に目を向け、そう言えば現実になっても看破スキルで視えるのかと思い、頭部を看破してみると頭の中に名前が浮かんだ。


【名前】スキラス


他の情報はまったく浮かばない。

ゲームの時はシステムで細かく情報が出てたけど、これも現実になった影響っぽいな。

俺がこの世界について殆ど知らないからだろう。


とりあえずもっと情報が欲しいので人を探すかと、スキラスの死骸を収納しどこへ向かうか空間感知、魔力感知、気配察知で確かめる。

この辺りに街は……200メートル範囲内には無い。

もうちょっと範囲を広げてみるか?


……うむ、辺り一面木ばかりだな。

森? いや、林っぽいけど、街道すら無いぞ。

人が居た形跡も無いし、この世界に人が居るのかさえ分からん。

しかし、俺だけこの状況になるのはおかしい。

他のプレイヤーも必ず居るはず。


ゲームのマップを基に動いてみるか。

俺が居たのはキジンの森で街があったのは確か東、太陽は……さっき見た時より少し動いてるからあっちが東だな。


ゲームと同じか分からんが、今はそうだと仮定して動くしかないよね。

なんだかゲームのチュートリアルをクリアした時を思い出す。

あの時も、森の中で試験をクリアして忍者になった後、街に転送されると思ってたらその場からスタートだったからなぁ。

運よく街道に出られたから良かったけど。


今回はどうなることやら……のんびり行くか。



森ではなく林なので歩きやすく、落ち葉がある林の中を歩きながら装備を見てふと思う。

現実になっても閻魔鉱の装備も残ってるんだな。


閻魔鉱は他の鉱物に比べ、ビー玉サイズでも数十キロの重さがある鉱物だ。

俺はそれで両腕両足に訓練用の重りとして着けてる。

1つ4トンの重りなので、地面に俺の足跡がくっきり付く。


木漏れ日が射す林の中を歩きながらこの先、どうするか思考を巡らせる。

地球に帰る方法を探すかそれとも、この世界で生きていくか……。


「あっ……宝くじの金が」


そう言えば、地球の俺はどうなってるんだ?

ゲームをやってて異世界に行くという漫画は読んだ事あるけど殆ど地球の身体は死んでるってのが定番。


これは漫画ではなく現実だが、もし俺の身体が死んでるなら……腐るまで発見されそうにないな。

って、死んでたら俺の金は!?


「……この世界で生きていくか」


キジ丸としての能力は受け継いでるようだし、ゲームの時みたいに最強を目指すのも悪くない。

どんな世界かまだ分からないけど、また裏の仕事をして金を貯めれば良い。

なんせ俺は、忍者だからな。


「ん?」


待てよ?

確か時空属性を取得したお陰で不老になってたはず。

現実でも不老なのか?

だとしたら、猶更金を貯めないと。

フレンド達がどうしてるのかも気になるし、色々確かめながらのんびり行きますか。



なんて考えてると空間感知と魔力感知に反応があり、のんびり歩きながら確認する。

距離は10時の方角に約280メートル。

空間感知で分かるのは、大きい狼のような形をしており、これまた身体のあっちこっちが機械だ。


それよりも大きい2つの反応。

これは……。


「ロボット?」


全長約12メートル程の人型で全身機械。

空間感知だと色は分からないけど形は、アニメにあるような形に思える。

結構カッコいいな。

人が乗ってる可能性が高いし、情報を得られるかもしれない。


という訳で俺は、忍換装して忍者になると影に潜り、影渡りで反応の近くへ転移する。

すると林が終わり、起伏が激しい赤土と岩が広がる大地に出た。

所々に草や花、木も生ってるが荒野と殆ど変わらないな。


高台になってる岩山の上にある木の影に移り、影から出て確認すると数十メートル下の岩山と岩山の間にある広場に狼型のスキラスと、白が基調の完全ロボット2体を発見。


ロボットは、大きなライフルでスキラスの群れと戦い、たまに背中のブースターのようなもので空中に飛び、乱射しまくってる。

銃から出てるのは光弾のような、実弾っぽくない。

エネルギー弾?

弾から魔力を感じるからおそらく魔力弾だ。


これがゲームなら声を掛けて助太刀するけどここは現実。

ロボットに乗ってる者が良い奴なのか悪い奴なのかも分からないこの状況で、馬鹿正直に姿を晒すのは無いな。


……見たところもうすぐ始末は終わりそうだし、終われば人が居る所に戻るかも?

なら街に辿り着けない時の保険に、ロボットの影に印を付けておこう。

と思い俺は、影渡りで地上に居る1体のロボットの影に移り、影に魔力で印を付けるとその場を離れた。


さて、どんな所に向かうのかな?

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