美形従者を必殺技で可愛がるのは、異世界召喚されたコスプレイヤーです

アソビのココロ

第1話 

 何だ何だ?

 家でアニメ見てたら、いきなり見知らぬところに?

 広い部屋?

 濃い灰色のローブを着た連中が数人いる。

 何これ、怪しい宗教団体?


 いや、よく見たら足元に魔法陣のようなものが描かれている。

 これはあれか。

 巷で噂の異世界召喚ってやつに違いない。

 ぶわっとした妙な違和感あったしな。


 ローブの連中の中でも多分親玉だと思われるハゲが叫ぶ。


「成功だ!」

「何がだ。まず当事者のあたしに説明しろ!」


 強気な物言いになったのは理由がある。

 恥ずかしいからだ。

 コスプレしながらアニメ見てたんだもん。

 メッチャいたたまれないわ。


「申し訳ありませぬ、異世界のお方」

「やっぱり異世界だったか。思った通り。それで?」

「我々どもの世界は魔王に侵略されておりまして、危機的状況なのでございます。異世界からツワモノを召喚しようということになりまして」


 なるほど、ラノベでお馴染みの設定だわ。

 天涯孤独でブラック勤めでモテない(三重苦だわ)あたしに白羽の矢が立ったのは当然だわ。

 元の世界に影響があんまりなさそうだもんな。

 でも……。


「あたしがツワモノ? ただの一般人だと思うけど、召喚されるとこっちの世界では力を発揮できるとかいうやつ?」

「おお、大変に聡明な! その通りでございます!」


 転移でチートか。

 これもお馴染みの設定だな。


「一応聞くけど、あたしは元の世界に戻れないわけね?」

「は、はい。まことに申し訳ないことながら……」

「いいよ。危機的状況に力を貸さないなんて、女が廃るわ」

「おお、何という高潔なお方!」


 ウソだわ。

 元の世界にいてもコスプレしか楽しみがないだけだわ。

 段々似合わない年齢になっていくのは自覚してるしな。

 ここらで心機一転したかったのは事実だわ。

 チート持ち異世界転移なんていい機会じゃないか。


「あなた様は……格好からすると聖女様なので?」


 杖持ってるからかな?

 露出が多い格好なのに、聖女って言ってくれてありがとう。

 魔法少女だよ。


「あたしはコスプレイヤーだよ」

「スレイヤー……つまり勇者様でしたか」


 おいおい、ビックリするくらい大胆な聞き違いだな。


「あたしの名前は菊池光だよ。よろしくね」

「キクティ……」

「おおう、発音しにくいか。ヒカリって呼んで」

「了解しました。ヒカリ様、お疲れでございましょう。ごゆっくりしてくだされ」

「ありがとう」


 ふむふむ、今のところあたしに対する対応が丁寧だ。

 ごちゃまんと召喚しといて、使い捨てるやり方じゃないな。


「こちらがあなた様の専属従者ヨアヒムです」

「おお、美形。目の毒だわ」

「ハハッ。御不明な点も多かろうと思います。ヨアヒムに御質問くだされ」

「御親切にどーも」

「では我々は下がらせていただきます」


 美形ヨアヒムと二人残された。

 何これ、モテないあたしにどんな試練?

 キョドるわ。


 いやいや。

 コスプレイヤーはクソ度胸だけはあるもんだ。

 えーと、会話会話。


「この世界では、異世界から召喚なんてことをしょっちゅうやってるの?」

「しょっちゅうとは申せませんね。ほぼ一〇〇年ぶりと聞いております。召喚には莫大な魔力を消費しますので、そうそう予算もつきませず」


 よし、あたしは一〇〇年ぶりの召喚ツワモノ。

 聞く耳さえ持ってりゃ、大事にされることは決定。


「ふうん。じゃあ一〇〇年ごとくらいに、ツワモノを呼ばなきゃいけない事態になるわけ?」


 おお、美形は驚いた顔も麗しいな。

 目の保養になるわ。


 そして会話も大丈夫だわ。

 相手に合わせて、興味のない旅行や料理や映画の話なんかしなくていいから。

 わかんないこと聞いてりゃいいんだから。

 異世界あたしに合ってるかも。


「お察しの通りでございます。魔王は倒しても一〇〇年で復活するとされているのです」

「魔王というのは何なの? あたしの元いた世界にはいなかったからわかんないわ」

「魔物の王でございます。全ての魔物を率いる存在です」


 ほう、魔物がいるのか。

 恐ろしげだな。


「つまり復活したばかりの魔王が、人類勢力への侵略を開始しているとゆーことかな?」

「いえ、魔王の復活は確かに感知しておりますけれども、魔物被害はそれ以前からなのです」


 ん? 何かおかしくない?

 じゃあ魔物被害と魔王は関連がないように思える。

 魔王はトップだから、魔物被害の責任を取れとゆー理屈なのかな?


『ぐう』

「ごめんなさい。お腹減っちゃった」

「食事を用意いたします」


          ◇


 ――――――――――ヨアヒム視点。


 私がヒカリ様の従者に指名されたのはたまたまだ。

 クジで負けたから。

 世話係は大変らしいので、なり手がいなかったのだ。


 過去の被召喚者の記録は全て読んだ。

 被召喚者は扱いにくいものと相場が決まっている。

 元の世界に戻せの勝手なことしやがっての。

 いや、了解も取らず召喚しているのだから、当たり前と言えば当たり前か。

 例外なく大騒ぎになっていたとのことだが、ヒカリ様は妙にサバサバしておられる。

 状況判断と適応の早い方なのかもしれない。


「ごちそーさま。おいしかった!」


 ヒカリ様は満足のようだ。

 よかった。

 過去の被召喚者は味にもぶうぶう文句を言ったらしいから。


 黒目黒髪の者はパワーが大きいとされている。

 ツワモノを異世界から召喚する所以だ。

 ヒカリ様もまた、とてもエキゾチックだ。

 ニコニコしている笑顔は魅力的だなあ。


「お口に合ってよかったです」

「何だかわかんないお肉と何だかわかんないお野菜だったね。でも新鮮な素材で心を込めて作ってくれたことはわかるわ。こんなんに文句つけたらバチが当たるわ」


 まともだ。

 というか人格者だ。

 いきなり異世界に召喚するなんて、誘拐犯と一緒。

 非難されるだけのことを我々はしているのに。

 好感が持てるなあ。


「これって、あたしを狙って召喚したの?」

「狙ってと言われればそうですね。強いパワーの方を魔道レーダーで判別して召喚します」


 魔王に勝てなければいけないから当然だ。

 ヒカリ様のパワーは特に強いという話だが。


「あれ? あたしの元いた世界の事情とかを調べて考慮してくれたわけじゃないんだ?」

「細かい事情まで調査はできないですね」

「なるほど? じゃあラッキーだったんだな」


 ヒカリ様にとってラッキーなのか、我が世界にとってラッキーなのか。


「ところであたしは何をすればいいのかな? いや、魔王をどうにかしろってのは察したけど、魔物を見たことすらないあたしにはどうすりゃいいのかサッパリ」

「ツワモノの世界には必殺技というものがあるらしいではないですか」

「必殺技?」

「はい。ツワモノの世界では真のツワモノしか使用できないらしいですが、我々の世界ではパワーの強い者なら具現化できます」

「……必殺技を具現化できる? ちょっと待てよ? とゆーことは……」


 何だろう?

 ヒカリ様が考えているが。

 見たことのないポーズを取っている。


「つ~る~か~め~波っ!」


 ごわーんというものすごい音とともに屋根が吹き飛んだ!


「わーっ! ごめんなさい! 時間よ戻れ!」


 えっ?

 一瞬で屋根が元通りになった。

 すごい、これがツワモノ被召喚者の力なのか。

 ヒカリ様の力は本物だ!


「なるほど、必殺技だわ。放った本人がビックリだわ」

「素晴らしいお力です!」

「ヨアヒム、上半身脱いでくれる?」

「えっ?」

「いいじゃん、減るもんじゃなし」

「は、はい」


 裸は結婚相手にしか見せないものなのだが、ヒカリ様はわかっておられるのだろうか?

 しかしヒカリ様は極めて真剣のようだし。

 あ、ヒカリ様も露出は大きいな。

 意識するとドキドキしてしまう。

 ヒカリ様の元いた世界は露出天国なのかもしれない。


「いい身体してるね。眼福だわ」

「からかわないでください」


 私を気に入ったということなのだろうか?

 ヒカリ様のような人格者で実力者で魅力的な方に好かれるのは光栄だが。


「……確かに見える」

「何がですか?」

「人体の急所と言われる秘孔だよ。なるほど、元いた世界の必殺技が使えるってこういうことか。ならゴムゴムのギャラクティカマグナムとか、じっちゃんの名にかけて弾丸論破とか、月に代わって七年殺しとかも可能だろうな。とすると……」


 上半身裸の私を置き去りに、ヒカリ様が思考に入ってしまわれた。

 恥ずかしいのだが。


「ヒカリ様、もうよろしいでしょうか?」

「ああ、ごめんね。イケメン細マッチョの大胸筋を見られなくなるのは残念だけど」


 本心なんだか冗談なんだかわからない。

 ヒカリ様は只者じゃないなあ。


「行こうか」

「は? どこにでしょうか?」

「魔王のところ」


          ◇


 ――――――――――ヒカリ視点。


「ふんふん、ここが魔王城か」


 美形ヨアヒムに地図を持ってきてもらった。

 魔王城の位置はわかった。

 えーと、千里眼で見てみると……立派な椅子に座ってる、あれが魔王か。

 意外とちっちゃくて可愛いな。

 復活したてだからかな?


 え? 千里眼?

 漫画やアニメの必殺技じゃなくても、想像できるような技なら何でも使えるみたい。

 都合がよ過ぎるというか、実に気分がいいというか、あたし好みというか。

 美形ヨアヒムがおずおずと言う。


「あのう、魔王城まで行こうとすると、優に三ヶ月はかかると思うのです。それなりの準備が……」

「いらないよ。転移で飛べばいいからね」

「転移」


 呆れた顔すんな。

 そーゆー顔も素敵だけれども。

 転移なんかしたことないけど、どうせできるわ。


「じゃ行くよー」


 美形ヨアヒムを連れて魔王城へ。


 フイィィーンシュパパパッ。


「着いたよ」

「こ、ここが魔王城……」


 キョロキョロしてる内に、衛兵が出てきたわ。

 まあ当然だな。

 なるべくフレンドリーに。


「こんにちはー」

「何やつだ! 奇怪な姿をしているが人間だな!」

「そうそう。奇怪ってゆーな。あたしはコスプレイヤーヒカリだよ」

「殺すプレイヤー? やはり敵か!」

「おおう、コスプレはこっちの世界に馴染まないわ。予想外の勘違いされるわ」


 異文化コミュニケーションは難しいな。


「何事だ!」

「あっ、魔王でしょ? こんにちはー」

「む? 予が魔王とわかるのか。貫禄があるからだな?」


 魔王配下のお偉いさん級と思われる面々が貫禄? って顔してるがな。

 魔王ちっちゃくて可愛いもんな。


「そうそう、貫禄貫禄」

「ハハッ、もののわかる人間ではないか。察するにそなた、異世界のツワモノだな?」

「おお、さすが魔王。わかっちゃう? やるなー」

「魔王だからな。軽装で武器も持っとらんところからすると、話し合いに来たということでいいか?」

「うん。魔王の洞察力すげえ!」

「盛大に尊敬しろ。席を用意せい!」


          ◇


 ヨアヒムが何だかわからない、身の置き場がないって顔してるわ。

 まああたしもこっちの世界の常識は知らんから、ついて来てもらったんだよ。

 せっかく魔王と酒盛りなんだから楽しめ。


「あのう、ヒカリ様」

「ん? どしたのヨアヒム」

「いや、あの、魔王は人類の敵なのではないでしょうか?」

「実はあたしもこっちの世界に召喚されたばかりでさ。どうなってるかわかんないんだよ。人類側の考えでは、魔王は敵なんだってよ。魔王どう思う?」

「迷惑だ。人間が目の敵にするから、我らも対抗せざるを得ないのだぞ」

「だよねえ。あたしもそーなんじゃないかと思った」

「ヒカリ様、何故です?」

「いや、そりゃ下っ端の魔物は知らんよ? でも魔王とか直属の配下とか、見るからに理性があるじゃん。人間と争いたがるのか? ってのはそもそもの疑問だった。だから人間側の意見で先入観持っちゃう前に、魔王に会いたかったんだよ」

「ほお、今回のツワモノは賢いではないか」

「し、しかし人類にとって魔物は脅威なのです。魔物の王ともなれば脅威は何倍にも……」


 さあ、問題はそこだ。


「ねえ、魔王。実際のところ魔王はどれだけ下っ端を抑えられるものなん?」

「残念ながら予はまだ復活したばかりでな。下々まで命令が行き渡らん」

「やっぱそーか。魔物の国と人間の国と境界をしっかり定めてさ。国境を侵すものは命の保証はないぞーってことにしとけば、とりあえず人間との争いは避けられると思う。魔王自身の意思としてはどう?」

「おう、構わぬぞ。願ってもないことだ」

「ヨアヒム、今の条件で人間側を説得できそう?」

「どうでしょう? 難しいと思いますが……」

「人間側の国は一ヶ国ではないであろう? 例えば魔王領に近い国と遠い国では思惑が異なるのではないか?」

「むーん? 面倒だな。ま、いーや。人間側が言うこと聞かないようだったら、あたしは魔王側についたるわ」

「ひ、ヒカリ様!」


 あたしは本気だ。

 魔物が人間の脅威なのは、魔王の支配が行き届かず、下っ端の魔物が暴れるせいだと理解した。

 魔王の侵略じゃないのだ。

 魔王と同盟を組み、魔王が魔物の管理をしっかりしてくれるなら、脅威など激減する理屈だ。

 ツワモノを一〇〇年ごとに召喚しなくてもいい世界がそこにある。


 魔王が真実を言ってるかわからないだろうって?

 信用できるかできないかなんて、人間だって一緒だろーが。

 ウソ吐いたやつには必殺技を食らわせてやればいいわ。


 しかし平和のために魔王と取り決めとかなきゃいけないことがあるな。


「ねえ魔王。人間の都合に首突っ込むのやめてくれる?」

「む? 予の都合だってあるのだぞ。事情が許すなら人間と交易だってしたいのだが」

「ああ、なるほど。平和的なことはオーケーにしよう。でもあっちの国攻めるから手伝え、みたいなのに関与すると、あんまり面白くないんだけど」

「要するに軍事面には関わるなと。付き合いに線を引けということだな? 了解したぞ」

「ありがとう。あとは……あたしはこれからもいきなり遊びにくると思うけど、それは勘弁してよ」

「おう、了解したぞ」


 ハハッ、トップと話ができると、物事簡単だなあ。

 人類側の交渉の方がよっぽど面倒なことになりそう。


「時にツワモノヒカリよ」

「何だろ?」

「予の妃にならんか?」

「魔王の?」


 ちょっとビックリだけど、特にまずいことなさそうだな。

 異世界のツワモノが魔王の妃になったら、却って魔王の信頼性が増しそう。

 平和に繋がりやすいかも。

 それにモテない女にはストレートなプロポーズは効いちゃうわー。


「魔王は可愛い……貫禄があるからいいぞ」

「いけません!」


 ヨアヒム?

 魔王の妃なんてとんでもないって立場かな?


「ヒカリ様は私の裸を見たではないですか!」

「え?」

「私をもらってくれないと困ります!」


 こっちの世界はそーゆー風習なのか。

 ……赤くなってる美形は破壊力抜群だなあ。


「魔王ごめん。先約があったわ。あたし責任取らなきゃいけないみたい」

「むう、仕方がないな」

「今日は帰るよ。今度来る時はある程度人類側の意見をまとめとくね」


 魔王は常識が通じる。

 人間側はどうだ?


          ◇

 

 ――――――――――半年後。


「ヒカリ様、どうぞ」

「あーん」

「おいしいですか?」

「とっても!」


 美形ヨアヒムが旦那になった。

 甲斐甲斐しいというか何というか、美形のクセに慎ましくてキュンと来るわー。

 何故かあたしのことを好きみたい。

 やっぱ異世界いいところだ。


「お返しだよ。ヨアヒムあーんして」

「恥ずかしいです」

「何だとこの可愛いやつめ」


 結局魔王と人間は和解することになった。

 とゆーか人間世界の方のトップ達を脅してそうなった。

 外交使節は行き来してもいいルールを作ったら、案外魔王も話が通じるじゃないかってことが知られ始めたところ。

 うんうん、ムダな争いはやめた方がいいよ。


 今まで魔王が出現するとすぐ倒すって方向に頭が向いてたから、魔王による魔物の統治が行き届かなかったんだよね。

 だから野良魔物が跋扈してて。

 魔物怖い、魔王はもっと怖いに違いない、だから倒せっていう思考。

 魔王の統治が完全なら、魔物の被害なんかなくなるわって、皆が気付き始めた。

 相手を理解するって必要なことだ。


 あたし?

 美形ヨアヒムとイチャイチャするばかりじゃなくて、時々あちこちの国のトップに呼ばれる。

 転移があると話が早いから。

 まずは相手と話をしなきゃいけないもんね。


 今遠隔地でも話をすることができる、電話みたいな魔道具を発明中らしい。

 魔王領含めた各地に設置されることになりそう。

 そうするとあたしも暇になるかもな。


「許さん。あーんしなさい」

「お戯れを」

「よいではないかよいではないか」

「あーれー」


 ハハッ、悪代官の必殺技を食らえ。

 可愛い旦那に恵まれて。

 異世界ライフはとってもハッピーだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

美形従者を必殺技で可愛がるのは、異世界召喚されたコスプレイヤーです アソビのココロ @asobigokoro

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る