サイレント・シュプレヒコール
釣ール
切れない犯人
違和感のない人生などない。
すぐそばで笑う人間の半生を知らないからこそこちらもいつも通り疲れた表情をさり気なくため息とともにもらせる。
それでもミュージシャンとして切り替えないと。
といってもそうそうマネージャーが声をかけてくることもなく、危ないやからがいたら昔かじったクンクメールという立ち技格闘技でつかまらない程度に対処したり場所を変えて世の中にひろがっている
子供から『意味がわからない』と素直な感想を。
サラリーマンや主婦のファンからは無言で楽しまれ、老人たちはさっていくだけ。
頼む!
なんて言えない!
ズルなんてするか。
何も盛り上がらない人生だからこそ、この金が必要な社会にうったえるのだ。
それで失った友情や家族などの人間関係で傷ついたオトコの叫びとして。
そうやって強がっても副業やパートをしながらある程度資金を集めなければ曲も作れない。
そこへもう少し踏み込んで不満を歌詞に観客へ伝わる等身大の人間を歌に出来れば。
こういう時に才能に頼りたくなる。
うるせえ!能力主義についても俺は歌にして抵抗するからな!
稼げないと覚悟を決めてもビジネスに頼らざるを得ない世界にため息をつきながら。
嫌よりはマシ。
そう思いながら好きなはずの音楽に疑いをもち今日も路上ライブをしているとスマホへ久しぶりに連絡があった。
不必要な業務連絡をしてくる会社はすぐにバックれたのでかかってくるのは詐欺か家賃か知り合いぐらい。
そこまで連絡をとるほどの友人は
だとしたらなんなのだろう。期待せずフリックすると「ひまか?」が第一声だった。
某刑事ドラマの窓際部署へ話しかける肩書きある人物じゃあるまいし。
いそがしくはなかったうえ詐欺や借金の頼みでもなかったからか話を聞く。
「俺たちがガキの頃にはやった妖怪なんちゃらってあったろ?あれに出てくるようなマジモンの妖怪がやってきてるらしい。」
「らしい?うわさレベルなら切るぞ?」
「
妖怪関係なくお前の問題だろといいかけたがこの知り合いは
それでもうまくいく
いいか別に。
大昔にあったツチノコを捕まえる感覚でアミキリをつかまえて知り合いの無念を晴らせばいいだけ。
「
添付された動画にはおそらく知り合いが別れた
女性らしき人の後ろを撮っていた場面。
そして何かに気がついた知り合いが後ろをふりむきカメラを撮るとそこに不気味に笑うハサミのようなうでをもつ特撮に出てもおかしくない生き物が確かにいた。
これでしばらくは音楽活動に専念できる。
やみくもにやっても好きなことは出来ない。
だが今の時代は好きなことがなくて苦しんでいる人もいるのだ。
稼ぐことが夢を与える時代ではないから
ならアミキリを捕まえて知り合いだけでも助けよう。
曲には出来ない音楽を自分の人生で鳴らすのだ。
それにこんな時頼ってくれた知り合いには感謝してる。
この世に見捨てられていないのならアミキリを捕まえて解決してやる!
こうして知り合いへ会いに行き、アミキリ捕獲を計画する。
◇ ◇ ◇
最初は知り合いが撮影した場所にアミキリがいると思っていたがまさかの廃墟か空き地か分からない場所だった。
許可をとるのに手間取って心霊スポットも年々いくの難しくなっているなあと他人事のように考えていた
「アミキリは縁を切る妖怪か。知り合い程度の俺たちなら構わないな」
「そんな
金さえあれば好きなことが出来る。
好きなことで金が
天才もトップアスリートも単位はもらえない夢のない日本で変なきれいごともざれごとも意味などない。
一生暮らすには全然足りないがこの知り合いと二度と合わなくてすむのなら最高の報酬だ。
報酬は念の為に前払いで受け取った。
だが仕事は最後までやってやる!
「アミキリの縁切り対策はバッチリだ。本物の妖怪を捕獲して問題解決なんて令和のVRでもまだないはずだからさ」
その頃に希少種らしい鳥のさえずりを聞いてから音楽活動をソロでやるために出来ることは全てやった。
組む気はなかったバンドメンバーを集めて楽器の鳴らし方を聞くために野生さをおさえてコミュニケーションを勉強しながらドラムとギターを弾くことができた。
解散した時も淡白な反応でメンバーと別れたが実際は気を
武道館を地方の弱小バンドメンバーで観客を集めたかった夢をかたりあったことは今でも忘れられない。
だからこそ発想を変える。
好きなことをやるために資金を集める。
アミキリを知り合いが追いつけない速さでくまなく廃墟、空き地、山を探し続けた。
久しぶりに聞く名前を忘れたセミの鳴き声は悔しいが楽器より
ハサミに
幸いなことにちまたではやりのクマは現れなかったうえ他の動画撮影者を前にした
前払いなんだから手を抜くわけにはいかない!
時間と体力がありあまった令和二十二歳の
それでもなかなかアミキリは姿を
縁がなければ現れないのか?
だが目撃情報ではここであっているらしい。
どこかにこの山のこの時間帯で愛情を注ごうとしている
知り合いも
ならばこの規制にしかれた時代に営みを行おうとするものたちが……
やはりいたか。
ここでは詳細をさける。
ここでアミキリが現れるはずだ。
音楽に人生をささぐことを決めてから消えた野生の感がアミキリの気配をとらえた。
だがアミキリも馬鹿ではない。
そして
生まれ育った地方とは違う場所の木にのぼることになるとは思わなかったが獲物がそばにいるのを肌で感じる。
人間とちがって下世話な欲望で縁を切るのではなく生きるために関わるのだから
アミキリの臭いを人間の香水と体臭の間から少しだけかぎわけ、タイミングを見計らってアミキリへジャンプし、身体へしがみついて誰にもいない場所をかき分けながら取っ組み合う。
金だ。
金だ。
資本主義社会だからじゃない。
あきるまで音楽を続けられる資金をこれでさらに上乗せできる!
いっそ妖怪ハンター兼何でも屋としてなまった身体をきたえなおすか。ジムも器具もいらないし。
アミキリはするどいハサミで攻撃をするが木の枝で一時的にハサミを輪ゴムでワニのアゴを縛る感覚でふうじて傷だらけになりながらさっき端末で居場所を教えた知り合いがやってくるまでアミキリを弱らせないといけない。
もちろん妖怪相手だからって暴力は使わない。
まさかほぼ忘れていた野生の勘がここまで復活してくるとは。
野外ライブを
アミキリはもしかすると対象を変えて知り合いの縁を切るかもしれない。
そうしたら前払いした料金を返せと知り合いに言われ、逆に力で叶わない知り合いは考えた縁切り対策としてそばにいた
アミキリがハサミで縁を切るなどというフィクションどおりのことをするとは思わなかったのでほどけないようにしばったアミキリを
「これで近くのビジネスホテル泊まれますよ」
と金で解決させて。
前払いを現金で行ってくれた知り合いに少し感謝した瞬間だった。
◇ ◇ ◇
結局知り合いは破談のまま就活していたらしい。
アミキリ捕獲成功を誰も期待していなかったのか運んだ先では高く評価されたらしいがその時も知り合いは
思っていたよりも良い奴だったからあれからしばらく音楽が出来なかった。
なんか、世の中綺麗にものごとが終わることってないんだなと実感した。
生活がお互い落ち着いてきた頃に
「狩猟免許とって何でも屋やるぞ」
妖怪の存在は自分達のなかで秘密にしている。
なら気が晴れるまで人知らずこの資本主義社会を守って借りを作らせてやろう。
せめて知り合いの就活のストレス発散になれるよう今度は
サイレント・シュプレヒコール 釣ール @pixixy1O
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます