第2話 色兎瑠さん家には、アレがない…
目を覚ますと、暗かった部屋は明るく光に照らされていた。
難しそうな本が置かれている部屋、寝相が悪かったのか、かけていた
ブランケットは床へと落ちていて、少しだけお腹が寒い気がする。
起きてから数分、ぼーっとしていると、ガチャっとドアの開く音がした。
「とても早起きなんですね、おはようございます」
ドアのほうへと顔を向けると笑みを浮かべる色兎瑠さんがいた。
「おはようございます、色兎瑠さん」
「はい!朝食、パンでも大丈夫ですか?」
「はい」
「今焼いてきますので、リビングで待っててください」
そう言うと、鼻歌を歌いながらリビングへと向かっていった。
ブランケットを拾い、ソファーの上に置いて、俺もリビングへと向かった。
リビングの椅子に座ると、エプロンを付けた色兎瑠さんがキッチンに立っていた。
冷蔵庫から卵を取り出し、割り、かき混ぜる、フライパンにはバターを乗せ
とてもいい香りがリビングに広がっている。
数分すると、お皿に盛りつけられたフレンチトーストが出てきた。
「パンを焼くだけならできるんですよ?本当ですよ?」
お皿に盛りつけられたフレンチトーストを見る。
全面は黒くなっており、隠すかのように白い粒がまかれている
トーストを見てから、もう一度彼女のほうを見る。
顔はほんの少し赤くなっており、どこを見ているのか分からないくらい目が泳いでいた。
「いただきます」
一口食べてみる、口に広がるは焦げの味だった。
カバーするように砂糖の味が出てくるが、甘すぎる
苦味はかき消されるが甘さで頭がどうにかなりそうになる。
とりあえず全部食べ切ろうとする。
変な顔をしていたと思う。食べているとき、色兎瑠さんの顔色が悪くなっている気がした。
どうにか全部食べ終わると、色兎瑠さんが心配そうに言う
「自分で言うのも違うと思うのですが、これ、食べれるものでしたか?」
「気合と根性があれば、行けると…思います」
「すみません、パンくらいでしたら私もと思ったのですが…」
「色兎瑠さんはもう食べたんですか?」
「いえ、もし燈猪さんが食べれなかった場合にとまだ食べてないです」
「トーストは一枚でいいですか?」
「いいんですか?」
「食べて寝たら良くなったので、昨日のお礼もってことで」
「でしたら三枚でお願いします」
「じゃ、キッチンお借りします」
甘いものを食べたからか、それとも砂糖を単体で味わったからかはわからないが
少しふらつくような気がする。
それもフライパンを見るまでだったが…。
キッチンに立ち、フライパンを取る。
フライパンには、焦げや、先ほどの卵の跡が見える。
思わず苦笑いが出る。
ちらりと座っている色兎瑠さんを見る。
スマホを取り、誰かと連絡をしている様子だ
とりあえずこのフライパンを洗わないと、とキッチン周りを確認する。
無かった…。一般家庭であれば、どこでもあるものがこの家では見当たらなかった。
そんなことはない、そう思い、聞いてみることにした。
「色兎瑠さん、いきなりすみません、スポンジってどこにありますか?」
スマホを机に置き、こちらを向く。
「確か、無かったと思います…」
「そ、そうですか、ならラップはありますか?」
「ラップなら冷蔵庫の横にあると思います」
スポンジとはどの家庭にも常備されているものだと、思っていた。
それは違うのだと初めて知った日となった。
仕方がないので、違うもので洗うことにする。
フライパンが覚めていることを確認し、丸めたラップで
水洗いをしながらこする、全力で。
五分程度かかったが、少しは良くなったと思うくらいには綺麗になった。
昨日の俺は何故これに気付かなかったか、疑問でならない。
ようやく、フレンチトースト作りに入った。
一口サイズにパンを切る、卵、牛乳、砂糖を入れ混ぜる。
混ぜ終わったら、パンを浸す。
後は焼く、そうしたら完成だ。
お皿へと移し、色兎瑠さんの方へと持っていく。
「色兎瑠さん、どうぞ」
「焦げてないパン…久しぶりに見た気がします」
そう言い、目を輝かせる色兎瑠さんを見て、思わず笑みがこぼれた。
俺が笑っているのを見て、色兎瑠さんは恥ずかしそうに下を向いた。
「いただきます」
むすっとした表情をして大きく一口食べる。
「甘くて美味しいです!」
食べると幸せそうな表情を浮かべ、二口、三口とドンドン口へと入っていく。
三枚あったパンはほんの一瞬でお腹の中へ消えていった。
「ご馳走様でした、とても美味しかったです」
「ありがとうございます」
「私もこのくらい美味しいものが作れれば良かったのですが」
「続けていれば、いつの間にか作れるようになりますよ」
「そうですね!頑張ります」
かすかに微笑む色兎瑠さんの目は輝いて見えた。
やれば何でもできる人と噂で聞いたことが何度かある
そんな彼女でも、できないこと、これからできるようになろうと
頑張ろうとする姿は、なんだか今の自分にお前も頑張れとそう言われているような
気がした。
昨日よりも気分はよく、昨日までの落ち込んだ雰囲気はどこかへと消えていた。
今は少しだけ、元気があり、やる気もある。
昼食の時間を少し過ぎている。
色兎瑠さんに何か食べたいのはないか聞きに行きたいが人の家を好き勝手に歩くのはどうかと思いリビングでぼーっとしていると
お腹をすかせた色兎瑠さんがリビングへ顔を覗かせていた。
「燈猪さん、昼食にしませんか?」
「何か食べたいものはありますか?」
「そうですね、オムライスとか大丈夫ですか?」
「大丈夫ですよ、すぐできます」
立ち上がり、キッチンへと向かう。
卵さえ上手くいけば、オムライスとは簡単にできるものだ。
本当に、卵さえ上手くいけば…。
一回失敗したが、二回目でどうにか形にはできた。
お皿に盛り付け、持っていく。
「色兎瑠さん出来ましたよ」
「綺麗に出来ていて凄いです!」
綺麗な形をしたオムライスを見て嬉しそうにする色兎瑠さん
俺も席に座り、皿を机に置く。
皿を置くと色兎瑠さんが不思議そうな目でお皿を見ていた。
「なにかあった?」
「いや、燈猪さんのは形が崩れているなと…」
「少しやらかしちゃって」
「私のと変わりましょうか?」
「いや大丈夫、味は変わらないから」
「そうですか、ではいただきます」
一口食べ始めると幸せそうな顔をする。
二口、三口と、止まらない。
気が付けば、色兎瑠さんのお皿には何も残っていなかった。
「ご馳走様でした」
「はい」
「今日は私、夕方から用事で少し家を留守にするのですが
大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です」
「留守の間、お願いしますね」
お皿をシンクへと入れると、足早に部屋へと帰っていった。
夕方から出かけるらしい。女の人の家で、一人残されるのは
なんか、少しだけ気まずい気持ちになる。
昨日寝ていたソファーで座っていると、ガタガタと物音がした。
ドアを開け、ちらりと顔を覗かせる。
廊下を見ると、気合を入れた服装をした色兎瑠さんが居た。
「あ、燈猪さん…少し手を貸してもらえますか?」
そう言いこちらに手を伸ばす色兎瑠さん。
よく見てみると、プルプルと震えていた。
「どうしたんですか?」
「ヒールを履こうかなと思ったのですが、立ってみると
思っていたよりも難して、転びそうなんです」
「今行きます」
廊下へと出て、色兎瑠さんの手を取る。
取った手は力が入っており、実感痛みを感じる
それほどヒールとは難しいものなのだろう。
ヒールを脱ぐと色兎瑠さんは、ふぅと一息ついた。
「助かりました」
「大丈夫ですか?」
「はい、あ!夕飯は間に合わないと思うのでお先に食べててください」
「分かりました」
「では行ってきます」
靴へと履き替え、ドアを開け、くるりと回って微笑んだ。
一人になった俺はリビングへと戻る。
バックから読みかけの本を取り出し、椅子へ座る
暇なときは本を読む、俺にとっての至福の時間
本を読んでいれば、一時間や二時間があっという間に過ぎる。
今日は少し多く食べたからか少しだけ眠い。
これはいつの間にか寝るなと思いながら、俺は本を読み始めた。
家出した俺が拾われて、女の子の家に住むことになった ねんねいふぁ @nenneefa9x
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