第9話  動物に噛まれたら傷口はきちんと洗え

(おおおおおおっ!)


 ユウは裂帛の気合と共に地面を蹴り走り出す。それを見たドラゴンドゥーマも迎撃をするべく前進を始める。


(おりゃっ!)


 ユウは掛け声をかけると同時に飛び上がり、相手の機先を制すようにドラゴンドゥーマの顔面へと飛び蹴りを叩き込む。エクスブレイザーは蹴りの反動を利用して空中へと舞い上がり、そのまま後ろ回転をした後地面に着地する。そして、再び構えを取る。悲鳴を上げながら一瞬よろけたドラゴンドゥーマであったが、すぐに体勢を立て直すとエクスブレイザーに敵意のこもった視線を向けて咆哮を上げる。


(こんな挨拶代わりじゃ倒れもしないかよ!)


 今度はドラゴンドゥーマがユウへと駆け寄ってくる。そして、鋭い爪を振り下ろしてくる。しかし、現在エクスとの融合により超人的な動体視力、反射速度を手にしているユウは、その攻撃を見切り、紙一重で交わしながらカウンターの拳を叩き込んでいく。そのたびにドラゴンドゥーマは悲鳴を上げる。しかし、相手に致命的なダメージを与えたような手ごたえを感じられずユウは困惑する。


(くっそ!思ったよりタフだな!こっちの一撃だって別に軽くはないだろ!)


(ユウ、ドラゴンドゥーマの首の付け根のあたりを見ろ)


 エクスに言われてユウは目を凝らす。そこには、エクスブレイザーの攻撃につけられたと思われる傷があった。


(なんだ……。一応効いてはいるんじゃ……ん?)


 だが、よく見ると傷となった部分が増殖したドゥーマ細胞によって埋め合わせられていく。




(んげ……!どうすんだよ、アレ!あれじゃいくら殴っても埒があかない!)


 悲鳴を上げるユウをエクスがたしなめる。


(落ち着くんだ。ドゥーマ細胞には光線技が有効だ)


 ユウは前世でのエクスとドゥーマの戦いを思い出す。確かにエクスから放たれていた光線は決定打となっていた。


(でも光線技ってそんなどうやって?)


 先ほど武装の類は積んでいないと言われたことを思い出したユウが思わず問う。


(両手を見てくれ。そこにエネルギー発振器官がついているだろう)


 エクスに言われてユウは今度は自身の両腕を眺める。確かに手の小指側から肘にかけて水晶のような部品が埋め込まれている。


(この器官を使えばバリア等も張ることが出来る。うまく活用するんだ)


(……さっき武装ないって言ったじゃん!)


 先ほどの説明に落ち度があったと感じ、ユウは抗議する。しかし、ユウの意図を理解しかねているエクスはユウをただただ宥める。


(これは私が持つ生来の機能を強化すべく磨いた技と身体だ。武装というわけではない)


 どうやら、二人の間で武装という言葉が指す対象の認識に齟齬があったらしいことにユウは気づく。




 


(い……)


(い……?)


 ユウが発した言葉にエクス達が首を傾げると同時に、ドラゴンドゥーマの口内から光と熱が生まれる。


(異文化コミュニケーションって難っしー!!)


 そして、ユウが正直な感想を叫ぶと同時、ドラゴンドゥーマがブレスを吐き出し、ユウは即座に側転をする。ユウがいた空間をブレスは通り抜け、焼き払う。空間に残る熱量を感じて、ユウは対照的に肝を冷やす。


(クッソ、あんなもん食らったらたまったもんじゃない!)


 ユウがぼやいた直後、さらにドラゴンドゥーマの口内が輝きだす。


(げっ……!?)


 直後、ドラゴンドゥーマが立て続けにブレスを吐き出す。だが、先ほどのブレスとは打って変わって威力を抑えた代わりに手数を重視した連続攻撃だ。それを見たエクスブレイザーは立て続けにバク転をし、ブレス攻撃をかわす。


(これならどうだっ!)


 さらにユウは両手に力を籠める。直後、エクスブレイザーのエネルギー発振器官が青白い光を発し始める。


(ブレイズスラッシュ!!)


 ユウの掛け声とともに複数の刃状態の光弾がエクスブレイザーの手から発射される。ブレイズスラッシュは立て続けにブレスと激突し、互いに霧散する。


(へっ……!こっちにだって飛び道具があるって分かれば……!)


 ユウがそう呟いた直後、ドラゴンドゥーマは咆哮をあげる。そしてドラゴンドゥーマの全身のドゥーマ細胞が赤黒い光を発し始める。


(ユウ、またやつの熱線ブレスが来るぞ)


(大丈夫、来るってわかってりゃあんな大技……あっ!?)


 最初はタカをくくっていたユウだが、あることに気が付きその余裕が焦りに変わる。ドラゴンドゥーマの正面に当たる方角に、修道院から逃げ出してきたマヘリアや子供たちがいた。


(まずい、角度が悪けりゃブレス直撃だ!)


 そういわれた直後、ユウの脳内に昨晩の食事の時間の光景が駆け巡る。転生してから初めて得られた心安らぐような穏やかな時間。そのおかげでユウは荒んでいた前世を忘れることが出来た。あの時間を与えてくれた人々を守りたい、という欲求が自身の中から湧き上がるのをユウは感じていた。


(急ぐぞ、ユウ)


 エクスの声を聴く前に既にユウは行動を起こしていた。エクスブレイザーは助走をつけてから跳躍し、空中で一回転した後にマヘリア達とドラゴンドゥーマの間に着地をする。


(間に合えええええっ!)


 さらに、エネルギー発振器官を稼働させてバリアを展開する。


 直後、ドラゴンドゥーマの口から熱線が吐き出される。吐き出された熱線はバリアと衝突し、すさまじい光と衝撃を発する。


(んぎぎぎぎぎぎぎっ!)


 ブレスのエネルギーは想定をはるかに上回っており、バリアを破られぬようにユウは両手に力を籠め、足を踏ん張る。そして踏ん張り続けていくうちに段々と熱線ブレスが弱まっていき、そして完全に熱線が切れるのを感じる。


(た……堪え切れた……)


 背後にいるマヘリア達が無事なことも確認し、ユウは安堵の息を漏らす。


(ユウ、油断するな!)


 直後、珍しくエクスからの緊迫した声にユウは我に返る。気が付くと眼前にドラゴンドゥーマがいた。どうやらブレスを吐きながら近づいてきていたらしい。ドラゴンドゥーマは応戦すべく体勢を立て直そうとしたエクスブレイザーの左腕に噛みつき、その鋭い牙を突き立てる。


(があああああああああっ!!)


 ドラゴンドゥーマの牙がエクスブレイザーの装甲を突き破り、内部にダメージを与えていく感覚がユウに痛みとしてフィードバックされる。


(ユウ!)


(痛み……感じるのかよ……)


(この機械の身体と君は融合している状態だ。ダメージによる痛みを君は感じるし、元の肉体も同様のダメージを受ける)


 エクスの説明を聞きながら痛みに耐え、荒い息を吐きながらユウはドラゴンドゥーマをにらみつける。


(ふっざけんなっ!離せっ!このトカゲ野郎っ!!このっ!このっ!)


 そしてブチ切れて暴言を吐きつつ、エクスブレイザーは右の手刀を何度もドラゴンドゥーマの頭部に叩き込む。


(おりゃあ!!)


 さらに、右手のエネルギー発振器官から光が発せられ、光線技を上乗せしたような手刀を叩き込む。ドラゴンドゥーマは悲鳴をあげ、エクスブレイザーの左手から口を離す。そこにさらにユウは追い打ちとばかりにドロップキックを叩き込む。地面に仰向けで倒れこんだドラゴンドゥーマは打撃が効いたのか、悲鳴のような咆哮を上げて悶えている。


(この野郎……よくも好き勝手やりやがったな……)


 ユウは荒い息を吐きながらドラゴンドゥーマをにらみつける。自身を攻撃された痛みから少々怒りにより冷静さを失いつつある。


(……)


 そんなユウをなだめるべく、エクスは声をかけようとする。




(……!?)


 


 直後、謎のポップス調のBGMがユウとエクスの脳内に流れ始める。


(え、何!?何なのこのBGM!?)


(分からない)


 直後、ルティシアの歌声が流れ始める。


(は……?ちょい!ちょいちょいちょいちょい!ストーップ!女神様ストップ!)


(はい、なんです?)


 何が何だか分からなくなったユウは思わずルティシアを止める。ルティシアはそんなユウの反応にとぼけた反応を示す。


(一体急に何ですか、今の歌は!?)


(何って……テーマソングですよ!)


(テーマソングゥ?)


 予想外の回答にユウは素っ頓狂な声を上げる。


(いざ反撃のときにかかるのはテーマソングってのがお約束でしょう?そして、勇者のテーマソングと言えば女性ボーカル!私、ちゃんと勉強しました!)


 ルティシアの回答にユウは肩の力ががっくりと抜けるのを感じる。


(まーた今時の若者には通じないネタを……)


(えー?30年位前って最近じゃないですか?)


(くそっ、この女神唐突に最新のブームに乗って長命種族アピって来やがった……)


 そんなやり取りをしていると、エクスが急に(フッ……)と笑い出した。そのことに驚いたユウは思わずエクスに声をかける。


(笑ってました、今……?)


(あぁ……。こうやって君の頭に上った血を抜くとは思わなかったものでな)


(え……?)


 確かに、先ほどドラゴンドゥーマに受けたダメージに忘れていた我が徐々に戻ってきたことを実感する。


(ユウ、戦うときに強い感情は大事だ。だが、同時に強い感情に飲まれて冷静さを失うこともあってはならない。覚えておいて欲しい)


(……分かりました)


 そんなやり取りをしていると、蹴り飛ばされて地面に倒れて苦痛にうめいていたドラゴンドゥーマが起き上がり、咆哮を上げる。ドラゴンドゥーマの目には怒りの感情が燃え上がっているのがユウにもはっきりと見て取れた。そして、先ほどとは対照的にユウは冷静になっている。


(それにユウさん、よく聞いてみてください)


 ルティシアに言われてユウは周囲の音に意識を向ける。そうすると、帝都内にいる人々の声に気が付いた。


「頑張れー!」


「いいぞ、そのドラゴンをそのままやっちまってくれ!」


 彼らは思い思いの言葉でエクスブレイザーへ声援を送っている。


(こんな声援送られたら、ヒーローらしく戦った方がかっこよくないですか?)


(なるほど?)


 もうちょい言い方はないものかとユウは苦笑する。その時、先ほど守った孤児院の子供達も声援を送りながら、自身に向けて手を振っていることに気が付いた。そのことを察したのかエクスはユウに発破をかける。


(守るぞ、ユウ)


(……はいっ!) 


 ユウは気合を込めて応え、そしてドラゴンドゥーマと対峙する。


(さあ、この戦いも大詰めだ。行くぞ、ユウ)


(了解!)


 そんな二人にのんきにルティシアが声をかける。


(それでは、ヒーローらしくまいりましょう!みなさま~ご唱和下さい我の……)


(それはあかんっ!)


 ユウはルティシアに即座にツッコミ、それ以上余計なことを言わない様に遮る。


(もー、冗談ですよ、冗談。それじゃあ、改めて気をとりなおしまして……)


(ああ。行くぞ、ユウ)


(合点承知!)


 ユウはエクスの掛け声に応え、そして構えをとる。それと同時に先ほどと同じBGMが流れ始めてルティシアが歌い出す。


(あ……、テーマソングは結局歌うんですね……)


 もう、これ以上はツッコまなくて良いか……という気持ちになったユウはそのままドラゴンドゥーマに向かって駆け出す。

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チートも無双もあるのに俺の異世界転生は何かが間違っている ~女神様、トラックが変形して勇者はちょっと色々ズレてます @kamibukuro_2024

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