第36話 ババ抜きと査定結果
酒場に移動した。
俺は子狐たちを退屈させないために、俺が開発したという体で、新時代カードゲーム『ババ抜き』を提案した。子狐たちの食いつきは凄まじかった。
「こんな革新的なカードの使い方をするなんて、おじちゃんは天才なのですっ‼」
「年の功、だね」
ナツは最後の手札を切る。
あがられてしまった。上手だ。
残るは俺とセツだけ。
残された者どうし真剣な眼差しでむかいあう。
さぁ決着をつけよう。
「うわぁーん‼ おじちゃんに騙されたぁあ⁉」
俺の手札からカードを引いて悲鳴をあげるセツ。
命でも賭けているのかってくらいの迫真さだ。可愛らしい。思わず笑みがこぼれる。もちろん、今、彼女が引いたのはジョーカーだ。
追い詰められて焦燥を抱いたのか、「ぐぬぬ……」とセツはカードを机の下に移動して、よくシャッフルする。お耳をしぼませ、額には冷汗が浮いている。やはり命でも賭けているのかな。
「そんなにシャッフルしてもどうせ2択だぞ」
「おじちゃんは黙っててっ! きゅええ……」
狐の鳴き声が漏れた。ラトリスそっくりだ。
「お姉ちゃん、結果はたぶん変わらないよ」
「ナツも黙っててっ‼」
カード2枚が俺の顔のまえに提示された。
覚悟が決まったようだ。
俺は机に肘をおいて前のめりになる。眼前のカードは2枚。どっちかはジョーカー。ジョーカー以外を引ければ俺の勝ちだ。ジョーカーを引けば手番が交代する。
右のカードに手を伸ばす。
「ふふーん♪」セツは肩眉あげてほくそ笑む。
今度は左を取ろうとしてみる。
「うわぁ……っ」悲しげな顔になった。
俺は再び右のカードに手を伸ばす。「ふふ♪」
今度は左。「うわぁぁ……」なにこれ。
わざとやっているのかな。
初見ならそう疑うだろう。ブラフだろうと。
でも、この子はそんなに器用じゃない。
嘘をつくときは緊張で尻尾が動かなくなるのに、リラックスしてたり嬉しいとすぐ動くし。もちろん、いまも尻尾は正直だ。
悩んだ末に俺は正直者に一回チャンスをやることにした。
俺は右のカードをサッと抜いた。
「にひひひっ♪ 窮地を乗り切ったのですっ‼ おじちゃん、覚悟するがいいですっ‼」
「急に威勢がよくなったな。いいだろう。勝負はこれからだ」
白熱したババ抜きは終わらない。どこまでも続く延長戦。さらっと帰ってきたラトリス。腕を組んで傍観者に徹している。この戦いの結末を見守ることにしたらしい。
「うわぁ──んっ⁉ 互角の勝負だったのに負けたぁあぁ──っ⁉」
「そう思えるならお姉ちゃんは幸せ者、だよ」
「待たせたな、ラトリス」
「そのゲーム、面白そうですね? あとでわたしも混ぜてくださいね、先生」
ラトリスはそう言って査定結果を記した紙を机においた。
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【今月の査定】
低質の光石 ×620 平均価格4,300シルバー
普通の光石 ×232 平均価格9、200シルバー
良質の光石 ×117 平均価格20,000シルバー
最高の光石 ×1 価格2,420,000シルバー
光石鷲獅子の鉤爪 ×2 平均価格120,000シルバー
【合計】 9,800,400シルバー
【借金充当額】5,000,000シルバー
【借金繰越額】12,013,500シルバー
【管理口座資産】20シルバー
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目玉がこぼれ落ちるかと思った。
俺たちってこんなに稼いでいたのか。
「『最高の光石』が240万シルバーで売れてるじゃないか。あれってやっぱ凄かったのか」
「びっくりする金額でしたね。まさかこんな高いなんて思わなかったです」
「合計で980万シルバー。ふらふらしてくるぜ」
頑張って働いた成果が出ていることにおおきな達成感を感じた。
高揚感、体温があがる。湧きあがる興奮を押しとどめながら、顔をあげて弟子を見やる。
ラトリスは浮かない顔をしていた。
数字に喜んでいる俺とは違う心境のようだ。
「嬉しくないのか?」
「嬉しいですよ。でも、まだ債務があるので」
紙面に視線を走らせる。
うん。これは……稼いだ分、全部吹き飛んでいる。
こめかみを押さえてマッサージ。
うん。まあこれはしゃあない。
そういう話だったじゃないか。コウセキ島に行く前に確認をした。
このためにたくさん稼いだ。天引きは覚悟のうえだ。
「悪夢の天引き、連撃の追加徴収というわけか。あわせて1700万、だ。しかし、妙だな、今回の返済金額は1200万って話じゃなかったか?」
「1200万は過去3か月の滞納分ですね。今月はローン返済始まって4カ月目です。なので今月の返済分と過去払えなかった借金の繰越分をあわせて1700万。このうち980万円は今月の査定の査定で払えたので、次回の追加徴収を720万にできました」
楽観的すぎたようだ。債務って恐いな。
体力無限のやつと鬼ごっこしているような気分だ。
次回のノルマはいくらになるのだろうか。
えーと、毎月の返済ノルマ500万と追加徴収720万。合わせて1200万ちょっとか。あれ、今回の旅で稼いだ金額より多くね?
「コウセキ島光石採掘をもう一発以上、だと……あんなに頑張って稼いだのに、もうなにも残ってないなんて、次、同じ働きしても全部もってかれるのか……金が、霞のようだ」
「うわぁーん、やだやだやだやだ‼ もう疲れるからやりたくないのですっ‼」
「飽きた飽きた飽きた飽きた」
セツとナツによる不満の意思表明。俺と同じ気持ちか。よし、ならばダダをこねるふたりに混じって、俺も抗議の意を示すか──と思ったがギリギリ踏みとどまった。
「まったく仕方のない子たちね」
ラトリスは椅子に腰をおろし、机に突っ伏すセツとナツの頭を撫でた。
優しく、優しく。まるで年上の姉のように。
ダダこねを踏みとどまったのは英断と言わざるを得ない。
「ラトリス、2カ月連続で石を掘り続けるのは健康に悪影響なんじゃないか?」
「ふふふ、先生、安心してください。わたしも石堀りは満足です。コウセキ島があの採掘速度で掘られているとなると、供給量があがって来月には光石の価格が落ち気味になるでしょうし」
「それじゃあ、別の稼ぎ場にでもいくのか?」
「そのつもりです。査定をしてもらってる間に、情報屋のもとにいってきたんです」
ラトリスはニヤリと笑みを深めて、地図を開いた。
「なにかいいネタを掴んできたな? それってシルバーを稼げるって話か?」
「ご明察の通り。伝説のお宝にまつわるネタです」
「伝説のお宝だと? でかしたぞ、ラトリス」
「ふへへへ、どうぞ、もっと褒めてください、先生」
「よーしよしよしよし、偉いぞ、偉いぞ~」
ラトリスの柔らかい赤毛を撫でくりまわす。
彼女は目を細めて「ふふん♪」と満足げにした。
彼女が指で示す地図の位置は未開の海域であった。俺が全然知らない島だ。そこに伝説のお宝がある。いいじゃないか。ワクワクしてきたぜ。
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