第29話 コウセキ島の伝説

 ダンジョンの外に戻ってきた頃、外はまだ明るかった。


「急げばもう1回潜れるんじゃないか?」

「1日で2ヤマアラシはとんでもない稼ぎになる予感がしますね、船長っ‼」

「はやく置いてこないと。先生はここで待っていてください」


 歩く宝箱を見つけて、俺たちはこの上なく心躍っていた。


 ラトリスと子狐たちは尻尾をご機嫌に振り乱して、リバースカース号へ駆けていく。俺は採掘場の一角で休憩することにした。懐から葡萄酒をとりだす。適当な岩に腰かける。


 彼女たちが荷物を置きにいっている間、コイツを楽しむとしよう。


「あんたらマジか」


 足元の下、いつもの採掘場から親切な海賊が見上げてきていた。唖然としている。


「いまの棘みてえでデカい光石……光石ヤマアラシを倒したってのかよ?」

「よくわかったな。流石は有識者」

「信じられねえ、ありゃレバルデスの部隊でも手に負えないって噂になっていた怪物なんだぜ」

「たしかに倒せてなかったな。銃に爆薬に集団戦。大袈裟なだけだった」

「はは、それ以上に何をすればいい? そんな剣一本でどうにかするって言わないでくれよ?」

「どんな道具も使い方次第だろう?」


 肩をすくめてそう言って、俺は酒瓶をかたむけた。うーむ、いい酒だ。


「旦那よ、あんたぁ並みの剣士じゃねえな」

「そう見えるのなら嬉しい。俺にも覇気がついてきたってことだ」

「いや、覇気は全然ないんだ。雰囲気だけなら雑魚そうに見えて仕方がない」

「ひでえな、おい」

「なぁあんた、興味深い話があるんだが」

「気になる言い方をするんだな、話上手」

「アンタみたいな腕のたつ剣士なら、もしかしたらコウセキ島の伝説を倒せるかもしれねえ」


 親切な海賊は眉間にしわを寄せていた。真剣な表情だった。


「コウセキ島の伝説か。ワクワクする響きだ」

「気にいったかい? なら聞かせてやる。──鷲獅子グリフォンだ」

鷲獅子グリフォン?」

「最初にこの島を発見した海賊たちが見たらしい。まだ採掘場が定められるよりも前、洞窟を巣にする鷲獅子がいたのを。目を見張るほどの輝きを放つ宝石を宿していたとかいないとか」

「光石鷲獅子……ってことか」

「光石ヤマアラシに挑んだやつは、半分が帰らないが、光石鷲獅子に挑んだやつは一人も帰った試しがない。まさにコウセキ島が誇る最強の捕食者よ」


 親切な海賊は重苦しい声で語った。怪物の恐ろしさを。目撃はされど討伐は不可能。これまでにも試みはあったがことごとく失敗。海賊たちの恐れを集め、夢追い人たちの無念を積みあげる。どれだけの海賊に冒険の終わりを与えたのか数知れない。それが光石鷲獅子なのだと。


「かくゆう俺の昔馴染みも何人かやられていてな」

「それはお気の毒に。恨んでいるのか、鷲獅子を」

「多少はな。でも、冒険の末に死ねることは海賊の本望だろうよ。あいつらも覚悟してたはずだ。やつらは伝説を倒して、伝説になろうとして、失敗しただけだ。おかげで俺たちの海賊パーティはすっかり安定志向になってダンジョンに近づきもしなくなった」


 なるほど。どうりで地表採掘主義を勧めてきたわけだ。


「先生、光石置いてきました!」

「おじちゃん、いい横顔、動かないでっ‼」


 パシャ。フラッシュが焚かれたあと、横を見やる。3人とも戻ってきた。

 俺は瓶口にコルクをねじこみ、酒瓶を懐にしまいこむ。


「モフモフ諸君、ワクワクする話聞きたいかね」


 俺はそう言って腰をあげた。


 この島の頂点捕食者。伝説の怪物。無念の累積者。

 話によればそいつも光石モンスターとのこと。


 であるならば、そんな怪物が隠し持っているお宝にはいったいどれだけの価値があるのだろうか。想像するだけでワクワクが止まらなかった。

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