第27話 ダンジョンの出会い
「先生の助手として、ダンジョン攻略にオトモできるなんて。嬉しいです。なんだか緊張します」
「そんなに嬉しいのか?」
「アイボリー道場の門弟ならば、誰でも先生のために働けることを誇りに思いますよ」
「そうか。ありがとな。いい弟子をもって俺は幸せ者だ」
「おじちゃん、私たちも光栄に思っているのですっ‼」
「お姉ちゃんに同じく、だよ」
ラトリスに吹きこまれているのか、この子たちもキラキラした目で見上げてくる。
俺はこの子たちが思うほど偉大な人物ではないのに、そうあらねばと緊張してしまう。
「あぁ、ふたりもありがとな。俺もお前たちと冒険できて誇りに思うよ」
この空気感はやりづらいが、でも、気持ちは嬉しい。素直に受け取っておこう。
俺はひとりの時より周囲に気を配りつつ、ほの明るいダンジョンを進んだ。
この数日間、穴倉を歩きまわっていたため、俺のマッピングはある程度整理されている。俺は迷いなく彼女たちを導いた。道中、幸か不幸か光石イノシシにはでくわさなかった。
ご機嫌にモフモフ尻尾を揺らす子狐たちと、光石式ランタンを掲げるラトリスを引き連れ、ダンジョンの奥地へと初めて足を踏みいれた。
ここから先は記憶する限りは、初めて足を踏み入れる深度だ。
「ここからは俺も知らない領域だ。気を付けるんだぞ、お前たち」
「少し空気が変わった気がするのです。すごい怪物がいるのかも?」
「肌寒くなってきたわね。セツ、ナツ、離れちゃダメだからね?」
「了解、船長。お姉ちゃん、私から離れちゃダメ、だよ」
皆で注意しながら歩みを進めていく。
やがて俺は複数の気配を感じ取った。
俺は手で後方の者たちに制止するように合図をだした。
全体が動きをとめる。歩みに一層の意識を割いて、曲がり角の先で広くなっている空間をのぞきこむ。慎重に。慎重に。
いくつもの人影が、そこいらに置かれた光石式ランタンによって照らしだされている。白い制服を着こんだ彼らには見覚えがある。レバルデス世界貿易会社の社員たちだ。
小綺麗な白布のジャケットの上から皮鎧を着こみ、剣帯べルドにはサーベルと短銃がマストで差してある。銃と剣が社員に行きわたるとは流石は海の支配をもくろむ巨大企業様だ。
人数は15名程度。大所帯だ。
見たところ怪我人を抱えている。
状況から察するに負傷したメンバーの手当てをするため休憩中といったところか。
俺は曲がり角を出て、靴裏で地面をこすり、音をたてて近づいた。
俺たちの接近をあらかじめ知らせておく。こちらの接近に気づいた時、びっくりして撃たれたらかなわない。俺の用心が功を奏して俺は撃たれることなく、彼らのそばまでいけた。
「海賊か。それもどこかで見た顔だ」
ある社員は仲間へ話しかけた。
「獣人のパーティじゃねえか。ガキもいる。ピクニックのつもりか?」
「あいつ……課長を殴ったやつだ」
「メンツを立てておくか?」
「やめとけ。腕利きだ。関わらないほうがいい」
ひそひそ話が聞こえてくる。件の課長とやらはこの場にいないようだ。ダンジョン攻略は部下に任せて、今頃は豪華な商船内で、優雅に茶でも楽しんでいるのだろうか。
あの男とは軋轢があるが、貿易会社の水夫たちとは何もない。
ラトリスたちに断りをいれて、彼らに少し話を聞いてみることにした。彼らがここで何をしているのか。何か得られる情報はないか。怪物やマッピングなどいついて。
俺は水夫たちのなかでも労働者感の強い男を発見。
多くがジャケットの前のボタンをしっかり留めているなかで、こいつは上着すら着ていない。誇りあるタンクトッパ―だ。
何となくだが話しやすそうだ。というわけで接近。筋骨隆々、黒肌、坊主頭の彼は、俺にすぐ気づき、嫌そうな顔をして、サッと目を逸らした。露骨だな。
「いい銃だな。それで怪物を倒すのか?」
まだ見たことないデカい銃を持っていたので訪ねた。
ライフルとかそういうタイプの長いやつだ。肩掛けヒモで背中に背負っている。
タンクトップの男は目を丸くして、周囲をキョロキョロし、それから俺に向き直る。
「生き物は撃てば死ぬ。怪物も同じだ」
「おおむね同意だ。斬れば死ぬし、撃っても死ぬ」
「剣なんか話にならないぜ、おっさん。銃の力を知らないのか」
「知らないっちゃ知らないかもな。あんま真面目に使ったことないんだ」
「それは可哀想に」
「そいつは短いのとどう違うんだ。デカいと取り回しずらいだろ」
「銃身が長いから、弾が正確に飛ぶ。デカい玉を放つから威力がある。より遠くから仕留めれる」
「へえ。便利そうだな。光石イノシシを倒せるか?」
「当たればな。ズドン。一撃だ。楽勝さ」
昔から銃の命中精度というやつに疑問をもっていた。ブラックカース島にいたころ自慢好きな商人が埠頭にやってくることがあった。
彼は撃つのを見せてやるとか言って、短銃を4m先の的にぶっぱなしていたが、全然当たっていなかった。俺も撃たせてもらったが結果は変わらなかった。
とはいえ時代は進んでいる。
それにレバルデス世界貿易会社様の装備は、見るからに海賊たちよりいい。なので、きっと俺が子どもの頃見た銃よりも彼らのモノはよく当たるのかもしれない。
俺は広間の隅っこで手当てされている怪我人を見やる。
「んで、おたくに怪我人が出ているのはどうしてだ。楽勝じゃなかったのか」
「……。それはイノシシの話だ。この場所はもうダンジョンの深部、光石をより多くとりこんだ強力な魔法生物が生息しているのだ。イノシシなんか比にならない怪物がいるのさ」
「危なそうだな。よかったらこの深さのダンジョンを渡るうえでアドバイスとか──」
言いかけると、広間の奥のほうから獣の気配がした。
チラッと首をかたむけて視線をやる。おや、これはこれは。
「強力な魔法生物ってあれのことか」
俺が顎をクイッと奥を示すと、タンクトッパーは勢いよく同じ方向へ首を向けた。「あっ‼」と驚いた声をだし、背負っていた長銃を手にとった。
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