第19話 レバルデス世界貿易会社

「やつらは嫌なやつですよ。海を支配するためには手段を選ばない連中です」

「支配? どういうことだ?」

「レバルデスは海に独善的なルールをしきたがっているんです。自分たちの権益のために。だから自由と冒険に集う海賊も邪険にしてますし、海賊ギルドのことだって認めていないんです」

「海には資源がたくさんあるって話だったな。海は誰のものでもないだろうに」

「その通りです。でも、彼らの主張は違います。彼らは海の女神への信仰から始まった会社で、海を管理する義務があるっていうんです。海賊は治安を乱すだけの存在だそうで」


 巨大な力を持つ者は、コントロールの効かないモノを嫌う。海賊たちがいなくなれば、貿易会社の取り分は増える。そのために治安維持という大義を掲げている……ってところかな?


「海賊のなかには誇りのない悪党がいるのは事実です。でも、無法者だからといってクズたちと一緒にされる筋合いはないです。ちゃんとやってるほうが割を食うなんて間違ってるはずです」

「あぁ、そうだな。善も悪も。どうあるかを決めるのは自分次第だ」

「ええ、そうですとも。先生ならそう言ってくださると思ってました」


 海賊と貿易会社の間にある緊張感を肩できり、ピッケルと籠を担いで、踏み鳴らされた道をゆき、ぞろぞろとした集団についていって島の内部へと向かった。


 道中、海側へと向かう荒くれ者たちとすれ違った。彼らは蒼い輝きをもつ石を木箱いっぱいに詰めて重たそうに抱えていた。見るからに普通の石ではない。ある種の鉱石だ。


「あれがコウセキ島の特産品『光石』ですね。明かりにも燃料にも使えるという優れものです。装飾品としての需要もあるとかで、大陸側で価格がじわりじわりと伸びている資源みたいです」


 島の内陸部に近づくにつれ、地面がゴツゴツしだした。岩石の質が変わった。石ころに蒼い光が混ざっている。踏み慣らされた道の終点は地面がえぐれたような地形を見せる採掘場だった。


 貿易会社の水夫たちや、海賊たちがそこかしこでピッケルを地面に叩きつけている。奥には洞窟のようなものも見えた。その周囲には武装した海賊たちがたむろしている。採掘場の中腹には店のようなものが見える。ピッケルやらシャベルやらを売っているみたいだ。


「どこもかしこも人がいっぱいだ。なんか縄張りみたいになってるし。適当に堀り始めちゃいたいところだが……良さそうな場所はどこも人がいる」


 早い者勝ちの原理原則に従えば、俺たちは新しく鉱脈を開拓する必要があるのだろう。いまある地表に露出している鉱脈は、先人が掘りだしたものだろうから。


「わーいっ‼ ここでならお宝がたくさん掘れるのですねっ‼ 船長、掘りまくりましょうっ‼ たくさん掘って、たくさん積んで、一攫千金なのですっ‼」

「お姉ちゃん、遠くに行っちゃダメ、だよ」


 カメラを取り出して採掘場をパシャパシャ撮りながら走るセツ。姉を追いかけていくナツ。


「オウル先生、あの子たちは危なっかしいところがあるので気にかけてくださればと」

「ん? でも、ナツが一緒だったぞ。あの子がいれば平気じゃないか」

「セツのトラブルメーカーっぷりをあの子が抑制できたことはあんまりないので──」

「お姉ちゃんに手をだす者には容赦しない、だよ」


 子狐が精一杯の威嚇をしている声が聞こえた。

 不穏な気配を感じ取り、視線を向ける。


 地面にセツが尻もちをついていた。ナツはピッケルを振りかぶって戦意を示す。子狐たちの前には白い制服の男たちがいる。そのまわりでは汗水を垂らす水夫たちの姿があった。


「なんだこのガキどもは? 薄汚い獣人じゃねえか」

「クソガキども、ここは子どもの遊び場じゃねえ、失せやがれ‼」


 汗水垂らす社員たちとは違う、白い制服の男が言った。身なりからして、彼は貿易会社の社員のなかでも管理する側にいるのだろう。つまり現場の責任者だろう。

 状況を見るに、セツはあの現場責任者に突き飛ばされたようだ。


「ちょっと、あんたたち、うちの乗組員になにしてくれてるの?」


 ラトリスはダッシュで詰め寄るなり、ムッとして睨みつけた。

 すでに剣柄に手を置いている。


 現場責任者の男はその様子を受けて、嘲笑うように肩をすくめた。


「おぉぉ、恐い恐い~。その剣で何かするつもりなのかぁ? おい、どこのどいつだ、奴隷種族どもをこんなところに野放しにしたやつは! しっかり檻に入れておけと言っただろう‼」


 男はとっておきのオモチャを見せる少年のように、腰の短銃を抜き放った。


「俺たちはレバルデスの資源回収部様だぞ。海の平和と世界の利益を守るわが社の業務を妨害するか、獣人風情が? ははは、いいだろう、身の程をわきまえるということを教えてや──」


 べらべらと回る口が、下顎からカチあげられた。勢いよく、激しく、火炎をともなって。火の魔力で鞘内を満たし、高圧ガスで剣を撃ちだす珍技。


 すごい威力だ。現場責任者は数メートル浮いた。


 重力に負けて地面に戻ってくる。舌を噛んだせいで口元は血塗れ、白目を剥き、情けなく全身の力を脱力させて、土のうえで大の字を晒した。


「か、かかか、か、課長ぉぉぉお──⁉」


 作業していた社員たちが気絶した現場責任者に駆け寄り、こちらへ怯えの眼差しを向けてきた。


「こ、ここ、こんなことして、ただで済むとでも……っ」

「済むさ。済まないとおかしい」


 俺は言って、鞘ごと刀を剣帯ベルトから抜いて、水夫のおでこをつついた。

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