(7)戦線離脱
「
短剣を構え、
「ふざけんな! 何でテメェらがここにいる!? 大講堂の方に大量のラプターを放しておいたはずだろ!?」
「そっちは
「私たちは、そちらをある程度鎮圧させた上で、アケヒ様の救助に来た。 それだけです」
大講堂のあるエリアでは、およそ数百匹のラプターと、
「クソッたれ……! あの数用意すんのにどれだけ苦労したと思ってんだっ!」
「んなの知らねーし。 ……つーか、こっちだってアンタらのせいで大事な入学式ブチ壊しなんですけど? 後でガチめに後片付けやらせるから覚悟しなよー?」
二丁拳銃を構えたギャルっぽい少女、
「アケヒ様……!」
その後ろで、ミヅキはこっそりと
「大講堂にいた
「ありがとうミヅキちゃん……! 本当に助かるよ~!」
魔力で作られた手綱をミヅキが引き寄せると、まるで空間から急に現れたかのように、馬の幻獣が姿を現した。彼女が連れてきたのは、"駆動頼馬"という異名がついた、高速で走る馬の幻獣『ドライブホース』。これで、エネルギーを切らしたアケヒをこの場から逃がそうという魂胆だ。
しかし、
「けど……ごめん。 『ドライブホース』には、ミヅキちゃんが乗ってくれないかな?」
「は……?」
アケヒの返答は、ミヅキが想定していたものとは違っていた。アケヒの意図が読み取れず、ミヅキは混乱する。
「私はここに残る。 ミヅキちゃんは、この子に乗って……シュウ君を連れて、
「何故ですか!? アケヒ様をこれ以上危険にさらす訳にはいきません! それに、あの新入生一人なら、私とトウカ先輩で保護できます!」
必死で訴えかけるミヅキだったが、アケヒは首を左右に振ってから言った。
「勿論、二人の強さは私も信頼してる。
……けど、そうじゃないの。 シュウ君を逃がすためじゃなくて、シュウ君を
「新入生である彼を、ですか……?」
「うん。 ……ごめん、これは"書記長命令"ってことで、お願い。 事情は、また後で必ず話すから」
その時だった。
バフゥ!! と、くぐもった破裂音と同時に、白煙をまとった衝撃波が広がった。
トウカが放った銃弾をはたき落とすために、アキツミが豪快にハンマーを振り下ろしたのだ。
「うわっ!?」
向こう側にいたシュウマの身体が、一瞬宙に浮く。幅の狭い廊下内での戦闘というだけあって、辺りにはすぐに白煙が充満し、向こうで何が起きているのか分からなくなってしまうほどだった。
「おーい後ろ二人ぃ? 何揉めてんのー?」
「ミヅキちゃんお願い! 早く!」
決断を迫られるミヅキ。彼女は、歯を食いしばりながらしばらく葛藤していたが、やがて、
「っ……あぁもう分かりました! 何があっても知りませんからね!
トウカ先輩! アケヒ様のことお願いしますっ!」
「へっ? え、ちょ、ミヅキちゃんどゆ事!?」
キョトンとするトウカの頭上を、ドライブホースは高らかに飛び越えていた。その上には、いつの間にかミヅキが乗っている。
騎馬は、そのまま倒れたラプターをヒョイと飛び越えた。ハンマーを握りつつ、唖然として見つめるアキツミをよそに、ミヅキはシュウマの方へと一直線に駆けていく。
「……え? うわっ、何!? 馬っ!?」
シュウマはシュウマで、白煙からいきなり飛び出てきたドライブホースに驚いていた。しかし、飛び退く間もなく、その首根っこをミヅキにグイッと掴まれる。
「アケヒ様の命令です! 貴方を
「は!? え、何で!?」
「私だって知りませんっ! いいから、大人しく捕まってて下さいっ!」
そうして、強引にミヅキの後ろに座らされるシュウマ。ドライブホースは、そのまま超高速で駆けていき、アキツミらが侵入してきた廊下の穴から外へと脱出した。
ワイバーンでの空旅から一時間も経たないうちに、今度は馬に乗って高速移動。頭も目も、ついでに
✳✳✳
「……全員、進行やめ。
管理局本部、エリアB7付近にて爆発音を確認。 ミヨ、サーモグラフィチェックを頼む」
管理局本部から少し離れた裏路地に、
彼の後方には、待機する三人の隊員。
「建物内に、人間らしき影を五体確認。 うち一人は、
「了解。 しばらく待機して様子見だ。 ヤツがくたばったら、各自配置についてゲリラ戦に移行。 その後、
「「「了解」」」
アラシの予想は、アキツミの敗北。即ち、一番隊壊滅による撤退だった。
というのも、アラシはここに来るまでに、
「ったく、アキツミのやつ……余計な真似ばかりしやがって……」
元々、コー学の入学式を狙って襲撃を仕掛ける計画はあった。しかし、新入生の一人が転移に失敗したとかで、入学式開始の時間が後ろ倒しになったのだ。
当然、
大講堂以外の警備が手薄になるはずだったのに、警備が分散してしまったこと。更に、重要な標的である照姫アケヒが、新入生の捜索に出てしまい、
誰がどう見ても、もう計画は実行できないという状況。ところが、アキツミはほとんど自暴自棄のような形で、計画を強行してしまった。
その結果が、この現状である。
「アキツミさん、今回の件で流石に一番隊の隊長おろされるんじゃないッスかね……?」
「ってなったら、今度は誰が一番隊隊長に就任するんだろうねー? ねぇ、アラシ?」
「黙れ、任務に集中しろ」
隊員たちのお喋りを静かに一喝しつつ、アラシは建物内の様子をじっとうかがう。
と、列の一番後方でノートパソコンを開いていた隊員、
「奥の方に、幻獣っぽい反応出現。 形からして、馬だと思う」
「馬……『ドライブホース』か」
屋内の様子は一切分からないが、アラシは経験則からすぐに幻獣の正体を言い当てた。そして、相手方の意図も予測する。
「恐らく、
「ふぅん。 ……ってかさ、もう面倒くさいからアキツミごと全員ぶっ飛ばしちゃえば良いじゃん? ダメ?」
「ハルキ……そんなことしたら、私たちもボスに怒られちゃう」
隊員の中で一番歳下の青年、
「っ! あそこ、ドライブホースが穴から外へ出ていったッス!」
彼が指を差した先。そこには確かに、軽快に走るドライブホースの姿があった。しかも、その背に乗った人影も見える。
「あれ、二人乗ってない? ……ってことは、そっちに残ったのも二人だよね?」
「え……アイツらまさか、アキツミさん相手に二人だけで戦おうとしてんスか!?」
「もしかして……アキツミに加勢して強行突破パターン、有り得る?」
皆が口々に憶測を呟く中、アラシはただ静かに、遠ざかっていくドライブホースの背を見つめていた。
何か怪しい……。
それは、何の根拠もないアラシの勘でしかなかった。だが、アラシはその衝動に突き動かされるように、スッと立ち上がり、
「───お前らはここで待機。 俺は、アイツらを追う。
ミヨ、自動車ハッキング用のキーをくれ」
「え……?」
いきなりの命令に、目を丸くするミヨ。当然、ユウゴとハルキの二人も驚きをあらわにしながら抗議する。
「は!? え、ちょ、アラシさん! 何考えてんスか!? どう考えても大事なのは向こうじゃなくて此処ッスよね!?」
「まーたアラシの単独行動ぉ?」
座ったままの隊員たちが不平不満を垂れるが、アラシは気にも留めない。彼は、キョトンとするミヨの手から鍵のような装置を奪い取ると、ダッシュでその場を後にした。
「アラシ……」
ため息を漏らすミヨ。その視線の先で、違法駐車されていたバイクの魔力ロックを解除したアラシは、すぐさま
異世界に似合わないターボ音を響かせながら、アラシの背中はどんどんと小さくなっていく。残された三人の
つづく
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