動き出す
城下町から少し離れた場所にある森の中。そこに、大量の妖魔が集まっていた。
「……で、お前の言う『特異体質の女』の情報は確かなんだよな?」
「あくまで噂なのですが……、どうやら藩主の剛山の娘が妖魔を強化する血の持ち主だと聞きまして……」
一際大きな切り株に腰を掛けていたのは、大柄な鬼だった。その鬼の前で、猫の姿をした妖魔が跪いて報告していた。
「噂……。お前はまだ確定もしていない噂話を嬉々として俺に伝えたと言うのか?」
「い、いえ違います! 私は少しでもあなた様のお役に立つ情報を提供しようと———」
「喚くな。騒々しい」
必死に弁解する猫の妖魔だったが、機嫌を損ねた鬼の一蹴りであっさり殺されてしまった。猫の妖魔は木にぶつかって潰れ、凄惨な死体となった。
「全く、あまりにうるさいから殺してしまったじゃないか」
「ですが頭領。その噂の真偽はさておき、今度の保馬祭には奇襲をかけるんですよね?」
そう聞いたのは魚人のような姿の妖魔だ。
「あぁ。もう剛山の奴が隠居してから二十年だ。流石に全盛期ほどの力は残っちゃいないだろう。昔は奴が暴れていたせいで俺達も隠れざるをえなかったが、奴さえいなくなればこっちの物だ。保馬祭は藩中の人間が城下町に集中する。叩くなら間違いなくここだ」
「城下町に放っている密偵によると、例の藩主の娘——桜の専属家臣である紅床虎和とお藤が祭りの準備に顔を出しているそうです。さらに会話の内容から、桜も祭りに来る可能性が高いようですね。藩に大打撃を与えるついでに、その噂の審議も確かめてしまえば良いのでは?」
「そうだな。一石二鳥って奴だ」
鬼は切り株から立ち上がり、斧を天高く掲げて叫びを上げる。
「お前ら! 改革の時は来た! もう妖魔狩りに怯える時代は終わりだ! 保馬祭を潰し要人を皆殺しにすれば、保馬藩は我ら妖魔の物になる! そして我らの改革は、他の場所にいる妖魔にも伝播していくだろう! そして最終的にこの日本は、妖魔の物となるのだ! 狼煙を上げるのは我々だ!」
集まった妖魔達が鬼に続くように声を上げる。ありとあらゆる魑魅魍魎が叫びを上げるその様子は、地獄絵図としか言いようがない物だった。
~~~
「保馬祭もいよいよ明日になりましたね、桜様」
「ついに明日なんですね! 今日まで凄く長かった……!」
虎和が鞍馬を説得した後、特に大きな困難はなく準備が進められた。桜は毎日城下町に繰り出しては、祭りの色に染まっていく町を観察する日々を過ごしていた。
そして祭りの前日となった今日、町はほぼ祭りの色に染まり切っていた。
「これに照明とお客さんが合わさって、やっと完成って所ですかね。それにしても、本当に色々と大変だったな……」
鞍馬の一件を片付けて暇になると思っていた虎和だったが、物資の搬入が遅れていた事もあり、祭りの準備を手伝わされていた。それに加えて桜の護衛や御茶之介の相手もしなければならなかったので、もうヘトヘトである。
「虎和さん、お疲れ様です……」
疲労困憊の虎和の肩を、桜は優しく叩いてあげた。虎和がちょっと嬉しそうにしたので、多分少しは疲れも取れただろう。
「準備の邪魔になっても困りますし、そろそろ城に戻りますか。俺も明日に備えて少し体を休めたいので……」
「そうですね。祭り一色に染まった町は明日の本番まで取っておきましょう!」
虎和と桜は明日の保馬祭に期待を膨らませながら城に戻っていった。
そして翌日、波乱の保馬祭が幕を開けた———!
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