祭りの準備
「それで、道を塞いでいた妖魔はこれ以上邪魔しない事を約束してくれたんですね。流石です虎和さん!」
城下町に戻った虎和は、運営総括の杉本に褒めちぎられていた。
「いやぁ、正直俺の母が昔に鞍馬と戦ってなかったら相手にもされなかったでしょうし、それに初出店でかなり期待されていた十極屋を切るという暴論まで押し通してしまった。正直、完璧とは言い難い結果ですよ」
「いえいえ、十極屋は期待こそされていましたが、悪い噂もそれなりにあったので。むしろ、十極屋を切るだけで怒りを鎮めてくれただけ美味しい方です。とにかく、これで開催時期に間に合いそうだ。虎和さん、本当にありがとうございます!」
ひとまず、大きな問題は解決できた。鞍馬は本気ではなかったとはいえ、虎和が戦って来た妖魔の中では最も強かった。それなりに疲れていたので適当な宿屋で一休みしようと思ったのだが……。
「天狗ほどの妖魔と戦って無事に帰ってこれるなんて、流石は虎和君じゃないか! その奇妙な天狗の話、是非僕にも聞かせてくれないか⁉ 何だか面白そうな匂いがするんだ!」
「あーそうだったコイツいるの忘れてた」
杉本との話を終えて早々に御茶之介に絡まれていた。
「そうだ良いことを思いついたぞ! 遠方から来る店はまだ到着していないが、城下町周辺の店は徐々にここに集まりつつある。天狗の話を聞きながら、どんな店が出るのか見て回るのも悪くないんじゃないか? なぁ良いだろう虎和君?」
「……まぁ確かに、ただ話すだけよりもそっちの方が面白そうだな。俺もどんな店が出るのかは少し気になるから、少しだけなら付き合うよ」
虎和は下手に断って事態をややこしくするのを避けるためにあっさりと折れた。
「よし、それじゃあ早速出発だ! あわよくば更なるネタを掴めることを期待して!」
~~~
少し歩くと、既に屋台の骨組みを始めている店がちらほらと見えてきた。その中に早速、見知った顔を虎和は見つける。
「あれ、豆太夫さんじゃないですか。豆腐屋風斗もやっぱり出店するんですね!」
「おー虎和さん! いつもお世話になってます!」
豆腐屋風斗は桜も大好きな町の豆腐屋さんだ。虎和も桜に勧められて以降頻繁に通うようになり、店主の豆太夫とも親密な関係になっていた。
「ウチは毎年こうやって出店させてもらえてるんだ。祭りで売る事で知名度も上がって、普段の売り上げ向上にも繋がるからお得って訳ですよ! 祭り当日は是非桜さんも誘って来てくださいよ!」
「勿論。きっと桜様も喜んでくれると思うので、最高の料理をお願いしますよ!」
「えぇ任せてください!」
「ふむ、豆腐屋風斗か。中々良さそうな店だね。これは小説の参考になりそうだ!」
御茶之介は豆太夫の風貌や二人の会話から「この店は美味い」と確信したのか、目を輝かせて豆太夫を見ていた。
「あれ、この方は……?」
「あっやばいこれ暴走しそうだな。ほら行きますよ御茶之介さん! それじゃ豆太夫さん、またお願いしますー!」
「御茶之介ってまさか……あの人気小説家の雨宮御茶之介!?」
「おい虎和君! あんまり僕の正体を世間に大っぴらにするのはやめてもらえないか⁉ 僕の正体がバレて読者の対応に追われて執筆の時間が奪われるのだけはどうしても避けなくちゃならないんだッ!」
「はいはいそれじゃあ大人しくしててよッ」
子供のように騒ぐ御茶之介を抱えながら、虎和は走り去っていった。
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「はぁ……やっと落ち着いたか」
「すまないね虎和君。僕としたことが少々取り乱してしまった」
「あんまりいつもと変わってなかったけどね」
「……ちくちくする言葉はやめてくれ」
御茶之介を地面に降ろし、虎和は背伸びして辺りを見渡す。
「やっぱりまだ準備始まったばっかりってのもあって、そんなに店は出てない感じだな」
「一通り見終えた、って感じか」
「その半分以上アンタを抱えて走り回りながらだけどな」
「面目ない……」
ひとまず、怪異を解決した時点で虎和の仕事は終わりだろう。あとは祭りの開催を待つだけだ。
「何だかんだで保馬祭は初めてなんだよな。面白くなると良いなぁ」
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