祭りを邪魔するモノ

「お二人が藩からの使いの方ですか。私は保馬祭運営の総括担当の杉本です」


「はい。俺が虎和で、こっちがお藤です。剛山様の命令で準備の手伝いに参りました。よろしくお願いします」


 杉本は運営の拠点にしている小屋に二人を招き入れ、お茶を出した。


「剛山様からは祭りの準備が思うように進んでいないと聞いたんですが、一体何があったんですか?」


「実は、祭りに必要な物資がここに届かないんです。しかも……妖魔が関わっている可能性がかなり高い」


「その話、詳しくお願いします」


 妖魔の話題が出てきて、虎和とお藤は気を引き締めた。


「保馬祭では藩の中心部から遠く離れた山や海、そして一部藩の外からも物資を調達しているんです。ですが、それらの物資をこの城下町に届ける主要な道の一つで怪異が発生したようで……それらの搬入が大幅に遅れてしまっているんです」


「怪異、というのはどんな怪異なんですか?」


「そこは山道なんですが……保馬祭の物資を運ぶ人間が通ると、風が吹き荒れたり植物が急成長して道を塞いだり……とにかくその道が通れなくなってしまうんです。でも不思議な事にそれ以外の人が通るときは何も起きないし、怪異に巻き込まれた運び人で怪我した者もいない。まるで山が保馬祭を拒絶しているような感じで……一体全体どうしたものか」


 杉本から怪異の説明を聞き、虎和は頭を抱えた。


「杉本さん。その怪異を起こしてる妖魔、多分相当ですよ」


 物資を運ぶ者とそれ以外を見分けている。無暗に人間を傷つける行為を行わない。そして進路妨害を的確に行える程の精密な妖術。

 これらの情報から、虎和はその妖魔が非常に高い知能を持っていると予測した。そして知能が高い妖魔は、大抵強い。


「確かに話を聞く限りだと、相当高い知能を持っていそうですね」


「それだけの知能があるなら話し合いに応じてもらえる可能性もあるだろうけど……逆にそれだけ賢い奴がわざわざこうやってるんだ。交渉の線は厳しいかもしれませんね。そうなるとやはり……正面から殺り合わなくちゃならないかもしれない」


「虎和君……話聞いた感じ勝てそう?」


「……正直微妙ですね。怪異の場所と特徴からソレがどんな妖魔なのか見当は付きましたけど、それが当たっていたら余計に怪しくなる」


 虎和の見当した妖魔は、鬼と同格かそれ以上の妖魔だった。そしてその予想は、恐らく当たっている。


「私も着いて行った方が良いかな? あと御茶之介先生も加えれば結構な戦力増強になるんじゃ……」


「いや、ここは俺一人で行く。お藤の『惑』の異能も御茶之介さんの『飾』の異能も後方支援向きだ。確かに二人がいれば心強いけど……それ以上に二人が相手に殺られる可能性の方が高いと思う。だからお藤と御茶之介さんにはここでできる事をやっていてほしい」


「聞こえたぞ虎和君! 僕がいらないのかい!? 君と僕は斑雷との死闘を乗り越えた仲だろう!?」


 いつから聞いていたのか、御茶之介が小屋の中に乱入してきた。というか会議中の場所に勝手に入ってくるのはどうなんだ御茶之介。


「ごめん御茶之介さん、今回ばかりは本当に危険なんだ。だからここで待っててくれ」


「……そうか。君がそこまで言うという事は、その妖魔はとんでもなく強大なんだろう。でも、僕にだってできる事はある。さっき君が言っていた通り、僕の異能は後方支援向きだ。でもだからこそ、現地にいなくても君を支援する事ができる!」


「それは私も同じ事だよ、虎和君。私の隠し武器を忍ばせておくわ。これでその妖魔を退治してきなさい!」


「二人ともありがとう。俺も最善を尽くすよ」


「話はまとまったようですね。では虎和さん、申し訳ないのですがかなり切羽詰まっております故、今晩にでも退治に赴いていただきたい。保馬祭の成功がかかっております。どうかよろしくお願いします」


「分かりました。桜様も楽しみにしてるこの保馬祭、台無しにするわけにはいきませんもんね」


 虎和はお藤と御茶之介から武器を受け取り、怪異の起こる山へと向かった。

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