保馬祭
祭りの時期がやって来た
「虎和さん虎和さん! ついにこの時期が来ましたよ!」
今日の桜は朝からとんでもない元気だった。かなりの勢いで突っ込んできた桜を寝起きの虎和は受け止めきれず、虎和は勢いよく後ろに倒れる。
「ぐへっ」
「あっすいません虎和さん! 大丈夫ですか⁉」
「なんか今すごい音しましたけど桜様無事ですか⁉ 朝から何があったんです!?」
騒ぎを聞きつけてお藤もその場にやって来た。
「お藤さんおはようございます! 虎和さんも目が覚めたみたいですね。それより大変ですよ! ついに『保馬祭』の時期がやって来たんです!」
保馬祭は、保馬藩で毎年夏に行われている恒例行事だ。保馬藩全体で行われる非常に大規模な祭りで、その中心地はここ、保馬城下町だ。保馬祭の時期になると毎年多くの人々が城下町にやって来て、てんやわんや大騒ぎするのである。
「でも確か桜様は去年までは剛山様の許可が下りなくて参加できなかったんですよね? それがこんなに騒いでるって事はまさか……」
「そのまさかです! 父上が参加の許可を出してくださったんです!」
桜の父・剛山は前までは桜に対してやや過保護な所があった。だが虎和との対談後、彼の強さと覚悟を目の当たりにして考えを改めたのだった。それ以降、結構色んな規制が緩和されていっている。
「そうですか、剛山様が! それは良かったですね! にしてもやっぱり、剛山様って虎和君の事気に入ってるのかな? 虎和君が来てから桜様に対する対応がだいぶ甘くなってる気がするから……」
「それは分からないけど……まぁそれが結果的に桜様の幸福に繋がってるなら、家臣としてこれ以上嬉しいことは無いですね」
「あ、それと父上が二人に話があるって言ってましたよ」
「本当ですか? まぁ大方『桜様を厳重にお守りするのだァー』とかそういう事でしょうけど、あの人の事だし」
長年桜と剛山に使えているお藤には、彼が何を言ってくるのか大体分かってしまうのだった。
「それじゃあまぁ、剛山様の所行きますか」
~~~
部屋に入った虎和と桜は、奥に鎮座する剛山の前に跪く。
「二人とも、よく来てくれた。早速だが本題に入ろう。桜から聞いたとは思うが、もうすぐ保馬祭の時期だな。二人に頼みたい事は二つ。一つは勿論、祭りに参加する桜の護衛だ。祭りには浮かれてよからぬ事をやらかす連中も少なくない。そんなふざけた連中から桜を守るのだ。良いな!?」
「「承知しました」」
ここまでは、想定内である。そしてもう一つの頼み事とは……。
「もう一つの頼み事なんだが、二人に保馬祭の準備の手伝いをしてほしいんだ。今年は中々準備が上手くいっていないみたいでな。ちょうど今日の昼過ぎから運営役の集会があるみたいだから、そこに顔を出してくれ。保馬祭は藩の威信をかけて何が何でも成功させなくてはならない。頼んだぞ」
剛山から課されたのは、中々に責任重大な任務だった。もしも失敗したら打ち首どころではすまないかもしれない。
「……承知しました。必ずや保馬祭を成功させてみせます!」
だが、絶対に断れないのが家臣の性という奴である。
~~~
「まさか保馬祭運営の手伝いをやらされるなんてね~」
「まぁでも、俺達が手伝うのは準備だけで、当日は自由に動いて良いって言われてたし。そこまで悪い話でもないんじゃない?」
「……ん? 君は虎和君じゃないか! 久しぶりだね、僕だよ御茶之介だよ。あれから君と僕の活躍を描いた小説が爆売れしててねぇ。改めてお礼を言いたい。君のお陰だよありがとう!」
「……ごめん前言撤回。そこまで良い話でも無かったかも」
ウッキウキで虎和に話しかけてきたのは狂人小説家・雨宮御茶之介だ。虎和とはかつてとある怪異を共に解決したのだが、その一件で御茶之介は虎和を気に入り、逆に虎和は御茶之介のあまりの変人さに引いたのだった。
「御茶之介先生じゃないですか! でも何で先生がここに?」
「君達も保馬祭の運営を任されたんだろう? 町人の中からも何人か運営の手伝いに任命されてね。それで僕が選ばれたという訳だ。それにしても、祭りの裏側を見れるだけじゃなく虎和君と再会できるとは……! これは傑作の予感がするぞ!」
「勝手に興奮しないで貰えますかね……」
「先生と一緒に仕事できるなんて……光栄です!」
興奮で息が上がっている御茶之介。憧れの小説家と共に仕事できる事に感極まっているお藤。そして御茶之介という狂人と再び出会ってしまった事を嘆く虎和。奇妙な三人組は集会へと向かった。
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