幸夢堂

「……という感じで、今まで人を眠らせては食べ物やお金を盗んでいました。本当にすいませんでした!」


 事が片付いた後、望晴は虎和達に己の罪———自分こそが夢小道の怪異の元凶である事を自白した。


「成程……獏に憑りつかれたのは二日前だったのか。でもまぁ、物を盗んでたのは生きるために仕方なくだろ? 見ればわかる。君、浮浪者だろう?」


「はい。四年前に親が亡くなって……それからは家もお金も無く一人で生きていくしかなくなって仕方なく……」


「流石に俺もそんな可哀想な少年を責める程鬼畜じゃないよ。そもそも、生きる為だったら誰だってそうする。それに君、相手の全部は盗んでいかなかったんだろ? 盗もうと思えば盗めたのに。大丈夫、君は悪くない」


 望晴のこれまでの行いを虎和は擁護するが、それでも望晴は罪悪感から逃れられないようだった。


「でも、僕がこれまで犯してきた罪は消えないし、これからも生きるためには盗みを続けないといけないだろうし……」


「あ! 良い事思いついた!」


 望晴が自責の念に呑まれそうになったその時、桜が新たな道を切り開いた。


「桜様、何か思いついたんですか?」


「私、望晴君の夢見てる時さ、すっごく幸せな気分になれたんだよね。望晴君の異能は『その人が心の奥で最も望んでいる夢を見せる』力でしょ? だったら、幸せな夢を見せるお店って感じで商売が成り立つんじゃない?」


「……確かに。儂も可愛い狐達と戯れるのは実に楽しかったわい。またあの夢が見れるのなら、お金を出しても良いかもしれんのぅ」


「桜さん、凄い閃きです! ……でも、今の僕は一文無しです。店を開くにはある程度のお金が要りますよね……」


「それなら任せて。私の特権でお店を開くための初期資金は藩が負担してあげる!」


 桜のとんでもない提案に、望晴と虎和は驚愕した。特に虎和は保馬藩が現在貧困状態にある事を知っているので、一層ギョッとした。だが同時に、望晴の夢にはそれ位の価値があるとも感じた。


「だから望晴君、もう迷うことは無いんだよ。もう罪に手を染めなくても良い。これまで犯してしまった罪は、その分皆を幸せにして償えば良い。だからさ、新しい道を歩んでみない?」


「桜さん……ありがとうございます。それしか言葉が見つかりません。僕、これからはこの異能で人を幸せにしてみせます!」


 望晴はこれまでのどこか後ろめたい表情ではなく、心からの笑みを浮かべていた。彼の心の呪縛は桜によって解かれた。


 その後、望晴の開いた『幸夢堂さちゆめどう』は瞬く間に民衆に大人気となり、保馬藩の新たな名物となった事は言うまでも無い。

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