御茶之介の矜持

「へぇ、これが虎和さんと御茶之介先生が村で解決した怪異の真相だったんですね!」


 御茶之介の小説を読んだ桜がやや興奮した様子で言う。

 斑雷を倒した後、御茶之介は自身の家に籠り、わずか十日で今回の一件を書き起こして出版した。虎和も一応読んでみたが、多少脚色はされているものの、御茶之介の確かな技量によって非常に面白い出来栄えになっていた。


「それで、御茶之介先生はどんな人だったの? 虎和君」


「いやぁ……桜様とお藤は聞かない方が良いと思いますけど……」


 ウキウキで聞いてくるお藤に、虎和はそう言う事しかできなかった。御茶之介を敬愛する二人に、あんな小説狂いの変態狂人だったとは言えない。口が裂けても絶対に言えない。


「あ、虎和さん! お客さんが来てるんですけど……」


 御茶之介の小説について三人で語っていると、従者が入って来て来客を告げた。


「俺にお客さん? 一体誰———」


「久しぶりだねぇ虎和君! 僕の最新作読んでくれたかい!? 君のお陰で書きあげられた作品だ、是非とも読んでほしいんだ!」


 来客が誰なのかは一瞬で分かった。そのあまりに強烈なうるささは忘れようとしても忘れられない。雨宮御茶之介その人だ(というか勝手に城に上がってくるな)。


「虎和さん、この人ってまさか……」


「…………はい、御茶之介さんです」


「あなたが御茶之介先生ですか! 初めまして私お藤って言います! 先生の作品いつも愛読してます!」


 その人が御茶之介だと分かるや否や、お藤が光の速さで彼の元へ飛んでいった。彼の様子を見るに虎和に夢中なので、お藤を跳ね飛ばすくらいはするかと思われたが……。


「君、僕の作品を読んでくれているのかい!? それは嬉しいね。こちらこそいつも読んでくれてありがとう!」


「いえいえこちらこそ! いつも面白い作品をありがとうございます!」


「あ、お藤さんだけ握手しててずるい! 私にも御茶之介先生と握手させてください!」


 意外と読者への対応はまともだった。


「……あんた、まともな所もあったんだな」


「当然さ。小説家にとって読者は命。読者をないがしろにする者に作品を読んでもらう資格なんて無いからね」


 小説への偏執的な愛を持つ御茶之介だが、それ故の強い矜持があるようだ。この一言で虎和は彼の事をほんのちょっとだけ見直した。


「そうだ虎和君、また面白そうな怪異の情報を聞いたんだが、また調査について来てくれるかい?」


「いや、それは御免です」


「断るの早くない?」


 虎和はまた一人、変な知り合いができてしまったのだった……。

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