第68話 異世界からの転生者

 続けて皇帝陛下はオレにとって驚くことを話し始めた。


「それと、転生は同じ魔物へと転生しない。人間が転生する場合はその他の魔物に生まれ変わる。人間から人間に生まれ変わる転生者はいない」

「え?」


 アンナが疑問の声を上げる。

 オレは声を上げられないほど驚いた。人間から人間に生まれ変わる転生者はいない? では、オレは何なのだ?


「アンナ卿どうされた?」

「ゲオルクは人間の転生者だと聞いています」

「ループレヒトからの報告でもそう書かれていた。違う魔物へ転生するというのは、前世の知識であるため一般的な知識ではない。ループレヒトが知らないのも理解できるが……。余はゲオルクが人間の転生者であることについて疑問であった」


 皇帝陛下は、オレが本当に転生者であるか疑っているか。

 偶然瞳が魔石化して魔眼が発露した可能性を疑っているのだろう。ヴァイスベルゲン王国では転生者であると語る理由もないが、帝国では転生者だと嘘をついても価値がある。


 オレに前世の記憶がある以上、人間の転生者であることは本当である。しかし、前世はこの世界でいうところの魔物ではない。皇帝陛下が説明してくれた前提から既に外れており、どうやって転生したのかが説明できなくなってしまう。

 何にせよ、疑いは晴らすべきだ。


「皇帝陛下の魔眼でわたくしが転生者かどうか調べられるのですか?」

「うむ」

「では疑いを晴らすため、わたくしを魔眼で調べていただきたい」

「ゲオルク、余が知っていることが全てはない。知的好奇心としての疑問は持ち合わせておるが、ゲオルクを疑ってはおらぬ。それだけは覚えておいてほしい」

「承知いたしました。わたくしも人間が転生しないというのであれば、自分自身の存在がどのようなものか興味がございます」


 皇帝陛下同様に、自分が特殊な例外なのか、何か理由があるのかが気になる。

 オレは眼帯を改めてつける。


「皇帝陛下、着用いたしました」

「始めよう」


 皇帝陛下の魔眼が揺れうっすらと輝く。

 魔眼が発動した。

 皇帝陛下はオレを一度見た後、迷った様子を見せた。


「…………異世界人」


 そこまで見えるのか……。人間と出るだけだと思っていた。

 いや、先程の話を考えれば異質なのは異世界の人間であるということ。異世界からであれば魔物でなくとも転生できるということか。

 異世界の人間であることはアルミンの家族にしか伝えていないが、別に隠してい他わけではない。アルミンの家族に伝えても理解が得られず、伝えたところで理解されないだろうと話していなかっただけだ。


「前世で存在は聞いていたが初めて見た」


 そう言って、皇帝陛下は興味深そうにオレのことを見ている。

 オレが珍しいのだろう。

 同時にオレにとって皇帝陛下は興味深いことを口にした。皇帝陛下は異世界を知っている?


「皇帝陛下は異世界人について、ご存じなのですか?」

「前世の余が生まれる前ではあるが、異世界人がいたとは聞いておる。以前に存在した異世界人は有名ゆえ、ゲオルクも知っておると思うぞ」

「わたくしが?」

「うむ、アイケだ。魔術を生み出した最初の魔術師アイケは異世界人。他にいたやもしれんが、余は知らぬ。アイケ行こうとなれば実に約八百年ぶりの異世界人であるな」


 思い出した、人間の転生者といえばアイケだ。魔術を生み出しアイケ暦という名前まで残っている歴史の偉人アイケが、人間の転生者だというのは有名だが忘れていた。

 それが、異世界人の転生者だと知って驚く。

 といってもアイケは八百年以上前の偉人であり、身近でなさすぎる。そのため衝撃は薄いというか、実感がいまいちない。


 今はアイケ暦八百六十八年。

 アイケが生まれた年を元年としているため、確かに約八百年ぶりになる。

 しかし、八百年ぶりの異世界人とは想像以上に間隔が空いている。

 いや、そもそも転生者は少ない上に、転生者といえば現地の魔物が転生した人間。オレのように少ない確率で、異世界からの転生者はとても珍しいのは当然か。


「ゲオルクの魔眼は転写眼か。アイケも特殊な魔眼を所有していたと聞くが、ゲオルクもまた特殊であるな」

「皇帝陛下はアイケの魔眼はどのようなものだったのかお知りになっているのですか?」

「詳しくはしらぬ。だが、余の鑑定眼に近いものだったようだ」

「その魔眼で魔術を生み出したと?」

「おそらくは」


 前世がドラゴンであった皇帝陛下でも詳しくは知らない。八百年という年月はそのような時間か。


 八百年か。

 生きるのに必死であったため、自分が転生した理由を考えても仕方がないと思っていた。しかし、皇帝陛下の話を聞いて、オレがこの世界に転生したのは偶然なのか、理由があるのかが気になり始めた。

 皇帝陛下なら、もしかしたら理由がわかるかもしれない。


「皇帝陛下、異世界の人間は何故転生するかご存知でしょうか?」

「異世界の人間が転生する原因にせよ魔物が転生する原因、どちらも原因は分かっておらぬ」

「そうですか……何か理由あるわけではないのですね」

「そのようなものはないだろう。余も何故転生したかなどわかっておらぬ」


 理由はないか……予想通りではある。

 そうでなければ、記憶を取り戻した瞬間親から捨てられるようなことはないだろう。今生きているのは偶然であり、アルミンの祖父であるバスティアンに偶然出会わなければ死んでいただろう。


「アウグスト陛下」

「何かなアンナ卿」

「ゲオルクは人間の転生者ではないのですか?」

「人間の転生者であるが、異なる世界からの転生者である。先ほど話した通り、人間が転生する場合はその他の魔物に転生する。だが、何事にも例外はあり、異界の人間は人間へと転生することが確認されている」


 アンナはやはり異世界について理解ができなかったようで皇帝陛下に尋ね、皇帝陛下がアンナに異世界について説明している。

 先ほどは人間が人間に転生しないということに驚いていたが、人間は他の魔物へ転生するという話に疑問を持つ。

 皇帝陛下の話が途切れたところで話しかける。


「皇帝陛下、人も転生するのですか?」

「比較的、有名なことだと……ああ、ヴァイスベルゲン王国には蟲しかいないからか。一定以上の知性を持った魔物に転生した場合、転生者は覚醒する。蟲の場合、覚醒する可能性はほぼないだろう」

「そのようなことが……」

「皇族の一族や、ユッタなどの髪の色が特殊なものたちは、他の魔物と混じっている。帝国の民は地方によって差はあるが、混じっていない方が珍しいほどだ」


 帝国に来てから、地球では染めない限りは現れないような髪の色である人が多かった。異世界であるためにそういうものだと思っていたが、それが人間以外の由来からくるものだったとは……。

 転生者を忌み子としない下地は元々あったということか。地方に転生者を忌み子とする習慣が残っていた理由も察せられる。ヴァイスベルゲン王国と同じで血が混じっていないのだろう。


 血が混じっているといえば、皇帝陛下もまた髪の色が緑色。

 緑色といえば、アンナも髪の色が緑色で、それは皇族の血が流れているからと流れていると言っていた。今更だがアンナも髪が普通ならありえない色だ。帝国に来る前から一緒にいたため、気づかなかった。


「アンナ卿、ゲオルク。異世界人と転生者について、納得していただけたか?」

「アウグスト陛下、ご説明いただき感謝いたします」

「感謝いたします」


 皇帝陛下に直接尋ねることではなかったと、慌てて頭を下げる。


「よい。異世界人の疑問に答えられるのは余以外にはいないであろうからな」


 オレが聞いた転生者についてはともかく、異世界人については皇帝陛下しか知らないことか。皇帝陛下がドラゴンであった時の知識は計り知れない。

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