第61話 燃えた森
オレたち転生者の話は一旦終わる。
次はヴァイスベルクの森についての聞かれ始める。
どのような蟲が出たかの話から、いくつか種類を経由して蜂の話題となり、そういえば森を燃やした謝罪をまだしていないことに気づいた。
「ループレヒト様、蜂について謝罪しなければならないことが」
「どのようなことでしょうか、ゲオルク殿?」
立場を考えると、アンナがいうよりオレが言った方がいいだろう。
気まずさはあるが、魔法の選択を失敗したのはオレ。
「蜂の巣を壊す際に燃やしてしまったのですが、まだ森は燃えていますでしょうか?」
「まだ煙は出ているようですが……いや、蜂の巣を壊した?」
ループレヒト様は森が燃えていることより、蜂の巣という言葉に大きく反応した。
「はい。木ほどの高さのある蜂の巣だったため、魔法で壊す他なかったのです。しかし、壊すために火の魔法を選んでしまい……」
「木ほどの高さのある蜂の巣……しかも報告にあった距離的に考えると……」
オレの話を聞いて、ループレヒト様は後ろに控えている者たちと会話を始めた。今回はこちらにも聞こえる声で話しており、煙が出ている場所の位置などを詳しく尋ねている。
控えている者たちが慌ただしく動き始めた。
「話の途中で失礼した。森が燃えておることは気にする必要はありません。大きく燃えてしまった場合、消火の手伝いをお願いするやもしれませんが、現状そこまでの火は上がっておりません」
「魔眼の力が必要であればお呼びください」
所々に川のある広大なヴァイスベルクの森全体が燃えることはないと思うが、ゼーヴェルス側に燃え広がった場合をオレは恐れている。
アンナも人手が必要であれば手伝うと言ってくれた。
「承知いたしました。しかし、そこまで心配することはありません、近くに大きな湖があるため、魔道具で水を運び消火すればすぐ火は消し止められる」
「湖ですか?」
「森側から来ると気づきませんな。ゼーヴェルスを挟んで反対側に湖があるのですよ」
大きな湖で、そこに住む淡水魚がゼーヴェルスの特産物だとループレヒト様が柔らかな表情で教えてくれる。
水を生み出す魔道具で消火するのは難しいが、水が大量にあるのなら運ぶだけ。大きな湖があるのなら延焼自体はそこまで怖くないかもしれない。まだ煙が出ているという話から完全に安心はできないが、最悪どうにかなりそうだと一息つけた。
「ゲオルク殿、森が燃えておることよりも、巨大な蜂の巣のことをお聞きしたい」
「蜂の巣ですか? 話せることはそう多くはないのですが……」
どう説明したものかと考えていると、ループレヒト様が尋ねてきた。
「燃やしたとおっしゃいましたが、最後に見た時はどのような状態だったのですか?」
「最後は崩れた状態で火が燻った状態です。最初は燃やして壊そうとしたのですが、内部まで燃え広がらないため魔術や魔法で穴を開け、巣を倒しました」
「ということは完全に壊れていると?」
「はい」
ループレヒト様は嬉しそうに頷く。そしてそれはループレヒト様だけではなく、後ろに控えているものたちまで嬉しそうな表情に変わっている。
なぜそんなに喜んでいるのだろうか?
「調べる必要がありますが、ゲオルク殿、感謝いたします」
急に感謝されても理由がよくわからず混乱する。
「ゼーヴェルスの事情を説明しなければ理解できませんな。そうですな……森の中を通ってきたということは、森に続くまでの道を通ってきましたかな?」
「花畑まで繋がる道ですか?」
「そうです。あの道は本来もっと先まで伸ばす予定だった道ですが、巨大な蜂の巣があるために森の開拓が進まず、何十年もあのままとなっています。ああ、森を燃やしたといえば、一度森ごと蜂の巣が燃えないかと試したと記録もありましたな。結果は失敗したようですが」
そういえば、森を出た後にイルゼが地元の人は蜂がいるため、森の中に入ろうとしなかったと言っていたな。数日前の会話だというのにすっかり忘れていた。
森を抜けた感動と疲れによって、聞いたはずの会話が記憶から抜けてしまったか……?
「蜂の巣がなくなったとすれば、今後は開拓ができるようになる。それだけではなく、ゼーヴェルスは蟲に対する砦でもあり、今後の防衛方針が随分と楽になる」
「しかし、蜂の巣が一つとは限らないのでは?」
「実際に蜂の巣が壊れているかどうかについては我々の仕事。こちらで調査隊を出し、調べますのでご心配なく。今は森が燃えていることについて気にする必要がないことを理解していただければ問題ありません」
「分かりました。丁寧な説明感謝いたします」
オレへの詳しい説明は本来必要なかったはず。
それにもかかわらず、こちらに分かりやすいように説明してくれたループレヒト様に感謝する。
蜂の巣についての話はこれで終わりにしましょうとループレヒト様に言わる。オレが頷いたところでヴァイスベルクの森で起きたことを再び話し始めた。
蟲の話をするにも出現した位置を伝えるのは何もないと難しい。持ってきた資料の中から地図を取り出すとループレヒト様を含め、後ろに控えていた役人たちが色めき立った。
「アンナ伯爵閣下、これはまさかヴァイスベルクの森の地図!?」
「ヴァイスベルクに登った際に作ったものと、追加で書き記したものがあります」
ループレヒト様や周囲の役人たちが固まる。
恐る恐るというような感じでループレヒト様が確認してきた。
「……ヴァイスベルクに登った?」
「地図を作るために少し登った程度で、登頂まではしておりません」
「それでも一度北上する必要があったのでは?」
「ええ。ですが登って正解でした。ヴァイスベルクの森は、ヴァイスベルゲン王国側とグリュンヒューゲル帝国側では一ヶ月ほど季節が違うようです」
「そうなのですか?」
やはり暖かくなる時期が違うのを知らなかったようだ。距離があるため、どちら側から見ても積雪の有無は確認できないからな。
アンナが地図に書き込まれた山脈の位置を指差しながら、雪がある場所とない場所の位置を伝え、山脈が西からの風を受け止めているため季節が違うのだろうと予想を話した。
ループレヒト様はアンナから聞いた話を書き留めるように周囲の役人に伝え、さらにアンナに地図を模写させて欲しいとお願いしている。無論アンナはすぐに承諾する。
ヴァイスベルクの森について書き留めるために、会議室に人が増えていく。
地図が模写されている間、ループレヒト様はヴァイスベルクに登った時の話が気になったようで、ヴァイスベルクで出会った魔物について話すことになった。
オレが名付けたキメラという名称を使い魔物について、アンナ以外にオレ、ヴァリ、モニカもどのような魔物だったか話した。
「蟲のようで蟲ではない……そのような魔物は聞いたことがありません」
やはりループレヒト様も知らなかったようで、周囲の役人たちに知っているかと尋ねているが、やはり同様に聞いたことも見たこともないと首を横に振っている。
「ゼーヴェルスからヴァイスベルクまでは遠いため出会う可能性は低いとは思いますが、何かのきっかけで遭遇しないとも限らない。対処の仕方を残しておく必要がありそうです」
詳しい特徴が書かれた紙があるはずだとアンナがいうが、積み上がっている資料の中から探し出す必要がある。
日付が振ってあるため一応簡単に分けられているが、資料の中からすぐに取り出せるわけではない。皆で資料を探していくが、ループレヒト様を含めゼーヴェルスの役人は資料を読むと手が止まる。
「確認するつもりが読んでしまいます。これはしばらく資料を書き写すため、資料をお貸しいただけないだろうか」
「もとよりそのつもりです。その分と言ってはなんですが、資料をまとめるのを手伝っていただけると幸いです」
「そのようなお話でしたな。いや、これは確かにまとめるのが大変、お手伝いいたします」
「感謝いたします」
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