第45話 未知の魔物

 徐々に近づくと、穴が大きな洞窟だと言うのがわかり始めた。

 雪が積もった状態で、尚且つ見上げた状態からでも見つけられた理由がわかる。


「しかし、馬も入れそうなのは嬉しいが、大きすぎる」

「ゲオルク、迷っている暇はありません。近くまで降り始めています」

「入るしかないか」


 アンナの言う通り、吹雪がすでに降っているのか、少し上の位置はすでに薄暗い白い幕があるような光景となっている。同時に痛いほどの冷たい風が体を叩きつける。


 さらに近づくと、洞窟の入り口は馬が十頭並んでも十分な横幅があるのがわかった。天井は鍾乳石らしきものがまばらに垂れ下がっており、見上げると言うほどは高くないが、それでも馬に乗った状態で余裕があるほどには高い。

 洞窟の地面は若干下っているようだが、暗いため見通せない。

 地面は下っているようだが、天井は下っているように見えないため、奥に広くなっているように思える。


——ッ


 誰かが息を呑む音が聞こえる。

 洞窟はまるで我々を飲み込む大きな口のように見え、中に入れば戻って来られないかのように思える。こんな状況でもなければ入りたいとは思えない。


 武器を手に取った兵士たちが、ゆっくりと洞窟の中に入っていく。

 オレたちも続いて入る。

 洞窟の中は土臭い匂いが漂い、少し生臭さも感じる。洞窟の見た目の不気味さによって感じているのか、実際に匂いを感じているのかがわからなくなってくる。


 少し洞窟に入ったところで、外がさらに暗くなり、洞窟の中は闇が広がる。

 吹雪が降り始めたのだろう。降り始めるまでになんとか間に合ったが、洞窟に入ったのは本当に正解だったのか……。


「光を飛ばす」

「ゲオルク、お願いします」

『光』


 オレの魔法に続いて、ヴェリも魔法を使う。さらには兵士たちも魔道具を使い始め、オレたちがいる範囲は洞窟が明るくなる。


「洞窟に皆入れているようだが、洞窟内を全く調べないでいるわけにもいかないか……」

「ええ」


 馬から降りると、馬を入り口付近に集め、オレたちは馬を守るように洞窟側に壁を作る。

 兵士でも隊長に任命されているものたちが集まり今後の相談をする。


「馬を守るために何人か残し、調べに出るべきだろう」


 アンナが頷こうとした瞬間。


「何かいるぞ!」


 叫びが聞こえた方向に光を飛ばす。


「なんですかあれはっ」


 今まで見たことがない魔物。

 蜘蛛のような胴体に足が複数あり、蠍のような尻尾。蜘蛛のような胴体からさらに、カマキリのような上半身が生えている。腕には刃物のような鋭そうな鎌に、頭部には巨大な顎を持つカマキリの頭部。

 蜘蛛、蠍、カマキリを混ぜ合わせたようで、まるで蟲で作られたキメラに見える。


 腰に下げていた小型の袋から砂糖を取り出し、魔法で目の前まで投げつける。目の前に落ちたのを確認して、魔法で熱すると、洞窟内に甘い匂いが漂う。

 キメラは頭を砂糖の方へとむ方が、すぐに興味を失ったようで、砂糖を無視してこちらに一歩足を踏み出した。


 蟲の大半は肉食であるが、砂糖に興味を示す。例外として口のない雪虫のような蟲入るが、口のない蟲はそこまで凶暴ではない。しかし、キメラには明らかに口はついているが、砂糖に興味がない様子。

 しかも見た目は明らかに凶暴な体をしている。


「近づかせるな!」


 あまりに異質な相手に固まったままの兵士たちに、ラルフの指示が飛ぶ。

 兵士たちが魔術を打ち始めるが、キメラは魔術を打たれてもあまり効いていないように見える。雪虫であれば一発でも当たれば一撃で倒せていたのに、キメラは十発以上当てられたと言うのに、多少傷を負った程度。

 キメラに当たった魔術は少しの傷をつけると、消えるようになくなる。


「硬すぎだろう」

「紋様の効果だと思う。あれだけ硬いとなると、魔力を使っての攻撃を防御するのに特化しているのかも」


 そんな紋様があるとは聞いたことがないが、オレ以上に詳しいアルミンが言っているのだ、魔物の中にはそのような紋様を持つものがいるのだろう。


「魔術以外となると、モニカ!」

「うん」


 モニカは専用に作られた銃を構えた。

 銃は色々と考えた結果、多少威力が減衰したとしても、装填を楽にする方向へと開発された。

 回転式シリンダーのリボルバーを元に、ライフルを足したような見た目で、リボルビングライフルに近い形。


 銃に装填されている弾丸は九発だが、リロードしやすいようにスピードローダーも作った。銃弾は蟲の骨格の一部を使った強化プラスチックのような硬さの筒に、弾頭の鉛に火薬の代わりに種子が詰め込まれている。

 コストは高いが、モニカとオレの二人でしか使えないのは勿体無いほどの出来。


——ダンッ


 モニカが銃を打った音が響くと、弾丸がキメラの頭部に当たったのか、頭部が爆ぜてなくなる。

 銃はライフリングを施しているとはいえ、扱いがかなり難しいのだが、一発目から頭部に当てた。

 頭が無くなったキメラは手足を振り回し痙攣しているように動く。


「頭部は弱点のようだが、まだ完全には死んでいなさそうだな。これは不用意に近づけそうにない」


 物理的な攻撃が効くのは良かったが、威力を考えると魔術とモニカの銃の差はさほどない。キメラを魔術で攻撃をしても意味がないということが証明された。

 モニカの予備として使えるだろうと作った、オレの銃を取り出すべきか。


——カツンッ


 モニカがいる方向から少し硬い何かが落ちたような音がして、違和感を感じ、何があったかと確認するとキメラがモニカの真横にいる。近くに入るが、間に人がいるため、すぐにモニカの元に駆けつけられない!


「モニカ!」


 モニカの顔が引き攣っているのがわかる。あそこまで接近されてしまうとライフルだと撃つのが難しい。もう一丁、回転シリンダー式のショットガンを準備しているが、使う前にキメラから攻撃されてしまう。

 そもそもモニカは接近戦が得意ではない。


「おおお!」


 兵士の一人が声を張り上げながら、剣を手にキメラへと突撃していく。

 剣はキメラの足に振り抜かれ、簡単に切り飛ばされる。魔術には強いようだが、想像以上に物理攻撃に弱い。

 それでも、キメラは足を一本失った程度ではなんの問題もないようで、足を切り飛ばした兵士に鎌のような腕が振り抜かれる。


『防げ』

『防御』

「障壁」


 オレとヴェリの魔法、アルミンの魔術が同時に発動する。

 一瞬だけアルミンの障壁でキメラの鎌が止まったが、すぐに振り抜かれた。そのまま兵士が吹き飛ばされる。


「くそっ」

——ダンッ


 オレの叫びと共に、銃声が響く。

 カマキリのような頭部と一部の上半身が弾け飛ぶ。

 モニカはあの状態でも配慮ができたようで、味方に攻撃が当たらないよう、上向に発砲したようだ。

 吹き飛ばされた兵士の確認をしないと……。


——カツンッ

——カツンッ

——カツンッ


 嫌な音が再び聞こえる。

 しかも今度は至る所から聞こえてきている。


「いったいどこから来た!」

「ゲオルク、上です!」


 上!?

 見上げると、いつの間にかキメラが天井に張り付いていた。

 物理的な攻撃が通りやすいのであれば、天井から落とせば大きなダメージを負うはず。だが、落とした先に兵士がいたら巻き添えを喰らう。

 迷っていると、オレとアンナの前にキメラが落ちてきた。

 大きさは二メートルを超えている。


「アンナ、下がれ」

——カツンッ


 またあの音が響く。

 今度は真後ろから聞こえてきた。最悪だ。

 前方のキメラをなるべく早く倒し、後方に降りてきたであろうキメラと戦うしかない。


『筋力強化』


 魔法を肉体に作用させるのは肉体に反動がくるため、お勧めしないとヴェリに言われているが、生きるか死ぬかではやるしかない。

 正しい剣の振り方を覚えたことで、多少は肉体への反動が減っていることを祈るしかない。


 一歩踏み込み、一太刀で右の鎌を切り飛ばし、さらにもう一歩踏み込んで、返しの一太刀で頭部を切り飛ばす。魔法で本来ならできない動きを行っているため、身体中が軋む。

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