第39話 早朝

 昨日は部屋の数が足りていないのもあって、オレ、アルミン、ヴェリは一部屋で寝た。

 朝起きて簡単な朝食をとると、お互いの調子を確認する。


「アルミン、調子はどうだ?」

「問題なし」


 アルミンは体を動かしながら確認した後そういった。

 アルミンは金髪の髪に、碧眼の瞳を持つ。身長は日本では平均的と言えるが、ヴァイスベルゲン王国では少し低め。

 すでに外套とローブを羽織り、腰には小型の収納袋と魔術書を携えている。

 準備は万端のようだ。


「ヴェリは?」

「問題ないよ」


 ヴェリもアルミン同様に体を動かしながら答えた。

 銀髪にも見える灰色の髪。右目は黒目だが、左目は魔眼で銀色の虹彩に赤い星がちりばめられたように煌めき、炎のようにゆらめいている。ヴェリの魔眼は魔法眼。身長はアルミンより少し高い。

 アルミン同様に外套とローブを羽織り、腰には小型の収納袋を携えている。


「ゲオルク兄さんは?」

「問題ない」


 最近は眼帯していることが珍しくなり、魔眼を表に出している。二人も同様だが、長髪を縛って視界を確保している。さらには外套とローブを羽織り、腰には小型の収納袋。オレはさらに腰に剣を差して終わりだ。

 準備はできたようだ。


「行こうか」

「うん」


 兵士たちも同じように活動し始めているようで、馬の準備がされ始めている。

 オレたちも自分の愛馬に準備をする。

 まずはヘルプストの体調に問題がないか確認していく。尾花栗毛のヘルプストは褐色の体に、たてがみや尾毛が白い。

 体全体をしっかりと見て、特に問題なく元気そうだ。


「ヘルプスト、これから頼む」

「ブル」


 オレはヘルプストに鞍をつけ、さらに鞍の後ろに荷物を乗せていく。

 魔道具の収納袋を三つほど下げる。中には馬の餌、砂糖、食料、着替えなど様々な旅に必要なものが詰め込まれている。一番多い荷物は人間の食料と馬の餌で、二ヶ月近く持つように計算されている。


 結果、三つの袋合わせて一トン以上の荷物が詰め込まれている。収納袋には重量を軽減する効果があり、五十キロ程度にまで軽くなっている。

 ここまで高性能な収納袋は珍しい。アルミンが城の魔術書から刻印を調べ、組み合わせて作ったとのことだ。作ったアルミンは城の蔵書は凄いと興奮していたが、城の皆はそんな蔵書が眠っていたのかと驚いていたようだ。


「二ヶ月も森の中にいたくはないが、餓死することはないか」

「距離だけで考えると、多めに見ても二週間あればたどり着けるって予想らしいよ」

「二週間でたどり着けるとは思えないし、空を飛べるわけでもない。距離もあくまで参考にしかならないと考えると、一ヶ月でたどり着ければ早い方だろうな」


 この世界、長時間空を飛んだと聞いたことがない。

 魔法を使って個人単位で飛べた人はいたかもしれないが、魔法眼を持っているヴェリすら長時間飛べないのだ、少なくともヴァイスベルゲン王国には飛べる人はいないだろう。

 測量技術も割と適当で、国内の地図ならまだしも、国外の都市の位置までは正確に把握していない。


「現実的に考えると最低一ヶ月はかかるって予想だね。水は雪を溶かすか、魔道具で生み出せるから、二ヶ月分の荷物が入れられてよかったよ」

「オレたち三人だけで森を越えるのは、やはり無謀だったかもな」

「収納袋がないと場合は、確かに厳しかったかも。夏に森を越えれば草や食べ物はあっただろうけどね」


 今はまだ雪が積もっている時期で、当然草などほとんど生えていない。

 夏になると王が攻めてくる可能性も考慮したが、それ以上に蟲の冬眠期間に移動したいと考えた。夏になると森には食料が多くなる。同時に、蟲も活発に活動を始めるため、非常に危険な旅になる。

 冬でも関係なしに活動する蟲もいるが、夏に比べれば数が少ない。


 それにアルミンが言った通り、水の問題が大きくなる。

 食べるものより、水の方が圧倒的に消費量が多いのだ。魔道具で生み出したとしても、魔石や魔力が足りなくなると算出され、手持ちで持っていく必要があると考えられた。


「ゲオルク」


 アンナの声がしたため、振り返る。


「アンナ」


 軽く抱き合った後、姿を確認する。

 今日の服は皆と同じように外套を着て、その上にローブを羽織っている。髪の毛が三つ編みに編み込まれているのは、邪魔にならないようにだろう。

 問題なさそうだ。


「体調は?」

「問題ありません」

「よかった」


 アンナの近くには同じような格好をした、イナ、イレーヌ、モニカがいた。

 皆、髪の毛を三つ編みにして、外套を着た上にローブを羽織っている。


「モニカ、体調は問題ない?」

「万全」


 モニカは随分と気合が入っているようだ。

 オレはヘルプストの準備が終わったため、モニカたちの準備を手伝うことにする。アンナの愛馬であるシュネーは兵士が準備をしているため、一番馬の扱いが不慣れなモニカの準備を手伝う。


 モニカは初夏にアンナから青鹿毛の黒い馬を送られており、オブシディアンと名付けている。送られてから馬に乗れるように訓練をして、皆についていけるほどには扱いが上手くなった。

 それでも馬に乗り始めて期間が短いこともあり、兵士に比べると扱いはうまくはない。しかもモニカは身長が高くないため、荷物を乗せたり乗ったりするのが大変だ。


「モニカ、ボクも手伝うよ」

「ヴェリ、ありがとう」


 ヴェリが手伝いに来てくれたため、荷物を乗せるのはすぐに終わった。

 オレはイナとイレーヌを手伝いに行こうとして、イナを手伝っているのがアルミンだったため、イナの邪魔をしないようにイレーヌを手伝いに向かう。


「イレーヌ、手伝います」

「ゲオルク様、ありがとうございます」

「いえ、イナはアルミンが手伝っていましたので」

「ええ。ええ」


 オレの言いたいことを察しているようで、イレーヌは嬉しそうに頷いている。

 イレーヌはイナがアルミンに好意を向けているのを許しているようだ。なんとなくそうなのだろうとは思っていたが、実際にイレーヌが嬉しそうにしているのを見ると、安心する。

 二人が今後どうなるかはわからないが、親に反対されて別れてほしくはない。


 イレーヌは細身の女性であるが、重たい荷物を簡単に持ち上げて馬に乗せていく。イルゼの娘であるイレーヌは腰に剣を差しており、今更ながらに隙のない動きをするのだと感心する。

 剣の技量でいうと、オレより強そうだ。


 手際の良いイレーヌの準備はすぐに終わった。

 手伝う必要はなかったかもしれないほどに、手際が良かった。


「ゲオルク様、助かりました」

「どういたしまして」


 オレはヘルプストを連れ、アンナの元に向かう。


「アンナ、シュネーの調子はどう?」

「調子も機嫌も良いようです」


 アンナの愛馬である白馬のシュネーは、体が大きいが細身でサラブレッドのような見た目をしている。サラブレッドを知っているオレからすると、ヴァイスベルゲン王国の馬は少々太ってすら見える。

 実際は一回りか二回り骨格自体が大きいだけで、太っているわけではないのだが。

 見た目が美しいシュネーは多くの馬に囲まれても輝いて見える。


「アンナ様、準備が完了しました」

「ラルフ、助かりました」


 シュネーの準備をしていたのはラルフだった。

 ラルフは王都で普通の馬として売っていた軍馬を買い付けに行った時から、付き合いがある。今年で五十一歳とのこと。元々は灰色の髪だったようだが、今は白髪まじりの髪になっている。

 馬の扱いがカムアイスでも一番上手だと評判。


 ラルフはオレに戦い方を教えてくれたり、他の兵士を紹介してくれたりしている。本来は、引退予定だったらしいのだが、引退していられなくなったと言っていた。

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