第32話 モニカの攻撃手段

 種子は芽を出した後、農地に植えられた。

 村の農地全てを甜菜の畑にしたわけではなく、村の中心を甜菜畑に、外側は小麦などの作物が植えられている。


 一個、一個手作業で種子の数値を変える作業も終わり、今は成長させる水を作ってはヴェリにまいてもらう、作業を毎日繰り返している。

 水をまいた後はひたすら草むしりだ。


「成長植物は発芽した時より少ないが、雑草がすごいな」

「仕方がない」

「魔眼でどうにかならないのか?」

「育てている作物も枯れてしまう」

「それはダメだな」


 草むしりを始めてから気づいたが、甜菜の葉はほとんど虫に食われていない。ヴァイスベルゲン王国では、蟲の忌避剤を薄めてかけることで普通の虫も寄ってこなくなるのだが、それでも結構虫に葉を食われる。というかそもそも、忌避剤薄めたものをかけた記憶がない。

 忌避剤といえば、この時期には普通咲かない防虫菊が森の近くで花を咲かせているが、虫がいなくなるほど近くで咲いているわけではない。


「モニカ、虫が少なくないか? 気づかないうちに忌避剤を混ぜてたのか?」

「混ぜてない。生命眼で作った水が関係してる」

「水?」

「そう。生命眼は植物以外にも効果がある。でも扱いがとても難しい、多すぎると成長に耐えられない」


 植物以外にも効果がある!? いや、生命眼という名前だとすると植物以外に効果があっても不思議ではないのか。


「成長に耐えられないというのは?」

「人間だと激痛に襲われる。やったけど痛かった」

「やったのか……成長痛みたいなものか?」

「多分そう。魔眼の知識に痛いなんてなかったから試した。ちなみに大人になると成長しないからか痛みはなくなる」

「成長に限界があるのか」


 しかし、人間だと痛いのか。

 植物が痛みを感じるかはわからないが、急激に成長しても枯れない程度には丈夫なのだろう。オレはもう成長する余地はないので問題ないが、子供に水がかかったら大変なことになりそうだな。

 今更だが水やりの時に子供を見ないのはそういうことか。


「虫にかけると大半は耐えられないみたいで死ぬ」

「大人なら平気だというなら成虫であれば問題なさそうだが、また話が違うのか」

「よくわからないけど、そういうものだと思っている」

「知識にはないことなのか」


 探せば耐えられる虫もいそうだな。

 例えば体の大きい虫とか。


「虫といえば、魔物の蟲はどうなんだ?」

「蟲は動きが少し鈍くなる程度」

「体の大きさか」

「多分」


 蟲に効果があるのならヴェリに水をかけて貰えば良いかと思ったが、そう都合が良くはないか。


「蟲なら脅かすくらいはできる」

「脅かす?」

「種を爆ぜさせる」


 そういうとモニカが服の中から種子を取り出した。

 果実の種子だろうか、大きめのビー玉ほどあり、結構な大きさがある。


「数値を大きく設定して投げる」


 そう言いながらモニカは畑の外へと種子を投げた。地面に落ちた瞬間、大きな破裂音がする。想像以上に大きな音がして驚く。

 種子が落ちた場所には小さい穴が空いている。音だけではなく地面に穴を開けるほどの威力があるようだ。


「音もすごかったけれど、威力も思ったよりあるな」

「大きな種でなければ、手元で爆ぜても多少怪我する程度。どちらにせよ蟲を倒せるほどではない」

「なので脅かす程度か」


 それでも音に驚いて逃げていく可能性は高そうだ。

 というか限界ギリギリの数値を設定しない理由がわかった。限界を超えたら種子が爆発するからか。

 大きな種子があれば爆薬のように使えそうだが、そんな大きな種子って見たことがない。前世であればヤシの実が大きな種子になるのだろうが、ヴァイスベルゲン王国では見たことがない植物だ。こちらの世界でも南国に生えているのだろうか。

 というかそんな種子が目の前で爆発でもしたら大変なことになる。


「爆ぜさせるには数値を大きく変えて、衝撃を与えればいいのか?」

「そう。大きく変えた方が小さい衝撃で爆ぜる」


 爆ぜ方的に、使い道がありそうなんだよな。

 全方位に爆発しているから威力が落ちていると考えれば、一方に衝撃を収束させればかなりの威力が出そうだ。簡単に思いつくものだと、銃の火薬のように使えないだろうか?

 前から詰めるのでも、後ろから詰めるのでもいいが、種子と金属を一緒に詰めれば金属がすごい勢いで飛んでいきそうだ。種子の数値を後から変えられれば、安全性も上がりそうだ。


 銃の構造について説明してみたが、よくわかっていないようだ。銃が存在しない世界で銃の説明するのが難しい。

 試作が出来上がってからもう一度説明することにしよう。


「試作を作ってみるか」

「?」


 モニカが首を傾げて不思議そうにしている。




 水をまいて草むしりをすれば、後やることといえば森の探索程度。それも兵士たちが中心になって探索しているため、オレは残った魔力が少ないこともあって探索に加わることは珍しい。

 それでも道になりそうな場所を覚えるためにたまに行くのだが。


 基本はやることがなくて暇なのだ。

 全ての種子が植え終わるまではアンナ様も村に滞在していたが、今はハーゼプラトーへと戻っておりいない。定期的に様子を見に戻ってくるとは言っていた。

 結果、オレはヴェリか村人たちと話すくらいしかやることがない。

 アルミンは村にいてもやることがないので、アンナ様とともにハーゼプラトーへと戻っていった。今頃アルミンは城の本を読んでいるか、魔道具を調べているのではないだろうか。


 試作の銃を作るため、村の鉄製品を修理する鍛冶屋というには少々設備が足りない家へと入り浸る。鍛冶屋の主人にモニカの武器を試作すると言ったら、気前よく力を貸してくれた。

 鍛冶屋で試作を続けると、雑な仕上がりではあるが打てそうな形には出来上がる。


「モニカ、試作品ができた」

「これが?」


 試作品であるため、衝撃を与えればいいのだろうと、外側から叩くような火縄銃に似た構造を採用した。前から詰める必要があり、更には一発しか装填できないため、攻撃するための装備としては今一の出来。実験が成功したらまた構造を考え直す必要があるだろう。


 今回は初めて撃つため、弾を装填したら魔法で衝撃を与えて撃つ予定。作りが甘すぎて銃身が爆発したら大変なことになる。

 枝を地面に突き刺し枝同士を交差させ、銃を交差させた枝に置いて、紐で固定する。種子と弾をこめて外側から種子の数値を変更、オレたちは大きく距離を取る。

 的はどこに飛んでもいいようにと土を盛ってた。


「撃つぞ。銃と盛った土をよく見ているんだ」

「うん」


 魔法で銃を軽く叩くと、種子が爆ぜて大きな音がする。

 弾が着弾したのか土が小さく爆ぜた。


「打てはしたな」


 銃に近づいて銃身に問題がないか確認してく。


「問題ないか」


 一発では不安であるため、何発か試して問題がないか確認していく。それでも、ヒビが入る様子はなく、問題なく使えるようだ。

 試験項目は複数用意しており、置いたまま引き金を引く、手に持って撃つ、木の的に当たるか。複数の項目を順番に試していく。


「問題はないが、やはり的には当たらないな」

「でも当たればすごい」

「蟲によっては倒せそうだな」


 弾は木にめり込んで止まっており、適当に作ったにしては想像以上に威力があるようだ。弾丸と銃身の精度が上がって密閉がもっとされるようになれば、威力はさらに上がるだろう。

 遠距離用のライフル銃と近距離用の散弾銃を用意すれば安定しそうだ。


「ゲオルク、これくれるの?」

「モニカも森を越える必要があるからな。戦う手段があった方がいいだろう」


 モニカはカムアイスに残ったら大変なことになると予想されるため、一緒に亡命することが決まっている。村人もモニカと一緒に亡命する予定だ。

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