第31話 水やり
種子の数値を一日中、変更し続ける。
単純作業なため、根気のいる作業。
全ての数値を変えることはできなかったが、結構な量できたのではないだろうか。というか当たり前のように作業を始めたが、甜菜はこの村で育つのだろうか? モニカに尋ねてみた。
「育つ。暑い場所でなければ問題ない」
「それは良かった」
作業は無駄にはならなかったようだ。
細かい数値を見ていくと育つかどうかはわかるらしいが、生命眼の知識がないと全て覚える必要があるようだ。細かいことは追々教わっていくこととなった。
「明日も今日と同じ作業を?」
「同じこともする。だけど、明日はまず種を発芽させる」
「発芽?」
「そう。魔眼を使う」
魔眼で育てられると言っていたな。
「発芽したら皆に植えてもらう」
「植えるのは魔眼が必要ないのか」
「うん」
全部の作業をオレとモニカでやらなくてもいいのは助かる。開拓した場所や前世で多少農作業はしていたが、二人で広大な農地を管理するのは不可能だ。この世界には機械がないので、ほぼ全て手作業でやるしかない。
アルミンの魔術では植物を植えるというは無理と考えた方がいい。ヴェリなら魔法で植えられるかもしれないが、オレはそこまで器用なことができると思えない。
なんにせよ任せられるのなら助かる。
「最後に、種を漬けておく」
モニカが水の入った底の浅い容器を持ってきた。その容器の中に種を入れて本日の作業は終了とのことだ。
「ゲオルク、また明日」
「ああ」
翌日、再びモニカと作業を開始する。
昨日漬けておいた種を持って家の外へと出ていく。家の外には村人が集まっており、その前には小型の植木鉢が用意されている。植木鉢の中にモニカの指示で種を分け始めた。
「ゲオルク、これ」
「これはじょうろ?」
モニカから渡されたのは、鉄製のなんの変哲もないじょうろだ。鉄製のため少し重さがあるが、まだ水は入っていないのか、軽い。
「水に生命眼の能力を使う」
「水? 種子にではなく?」
「間接的にでも作用する。植物を成長させるには手で触れるのが効果は高い。でも面倒」
「大きくなれば違うけど、種子では難しいな」
それに、広大な農地を管理するなら直接触れて魔眼を使うのは効率が悪そうだ。数が少なく貴重な植物の場合は触って管理するのも手だろうが、今回は数が多いので効果より効率を優先した方がいいだろう。
「モニカ、生命眼を水に使う方法は?」
「大きくなれと念じながら魔力を流す」
「それだけ?」
「うん」
想像以上に大雑把で戸惑う。魔法眼も大雑把といえば大雑把な能力なのだが、生命眼はそれ以上だな。
じょうろに水を入れて、魔眼を使いながら大きくなれと念じる。種子の時と同様に見た目の変化はない。ならば魔力が含まれているのではないかと観察を続けると、やはりそこまで多くはないが魔力を感じられる。
普通の水ではなくなったようだ。
「水から魔力が感じられるようになったが、成功しているのか?」
「種にかけて試してみる」
モニカは種子が入れられた植木鉢を指差しながら言った。
確かに試してみるのが早いか。
植木鉢が小さいので、一個だけにかけるというのは難しそうだが、どうせ全てにかけることになる複数にかかっても問題ないだろう。じょうろで水をかけると、三つほど一気に水がかかった。
成功したかと見守っていると、種子が早送りするかのように大きくなり始めた。発芽と言っていたので小さな芽が出るだけかと思っていたが、ぐんぐん伸びて十センチほどまで一気に成長していく。
想像以上に大きくなったところで成長は止まった。
「大きくなりすぎでは?」
「最初だけ。次からはそこまで育たない」
「そうなのか」
「うん」
本当に魔眼は凄いな。
成長速度には驚いたが、魔眼を使えていたことはわかった。これで問題なく手伝える。
「ゲオルクはモニカと一緒に魔眼で水を作る」
「今作った水は?」
「皆に任せればいい」
「自分でかけなくていいのか」
植物が育つ水を作る係とかして、再び単純作業を開始する。モニカの生命眼は繰り返し行う作業が多いな……。
じょうろが大量に用意されており、流れ作業で水をひたすら変えていく。これ一気に変えたらいけない理由があるのか?
「モニカ、なぜ水を一気に変えない?」
「水がこぼれると大量に雑草が生えてくる」
モニカがそう言いながら指差した場所は、先ほどまで何もなかったはずだが、今は草が生い茂っている。植木鉢にかけた水は全て鉢の中に吸収されるわけではなく、どうしても溢れてしまう。その水がかかった場所から雑草が生えてくきているようだ。
種子を指定しているわけでもないため、水がかかった範囲は全ての植物が育ってしまうのか。
「雑草の処理が大変そうだな」
「頑張るしかない」
「やはり放置できないのか?」
「収穫量に差が出る」
わかってはいたが、魔眼も万能ではないようだ。
しかし、できれば生命眼を使う作業をもっと簡単に終わらせたい。種子の変更は目的があるから必要性を感じるのだが、雑草が生えるからと作業を増やすのは納得がいかない。
実際のところ作業時間はそこまでではないのだろうが、水を撒く作業も含めれば結構な短縮になるのではないだろうか。
水を撒く程度であれば、短縮方法が思い付いているのも大きい。
「ヴェリ、魔法で水をまけないか?」
「普段やってたことだし、簡単にできるよ」
「魔眼同士が干渉するかもしれないし、まずは試してくれないか」
「わかった」
オレが用意した水をヴェリが操って植木鉢の中にある種子にかけた。すると種子はじょうろの時と同じように急激に成長を始める。問題なく種子は育つようだ。
「魔眼同士が干渉しないで育つな。役割を分担できるなら魔力の消費も気にならない。水やりが楽になるな」
「流石に雑草は手で抜く必要がありそうだけどね」
「それはどうしようもないな」
広大な農地をじょうろで水やりするより良いだろう。
「すごい」
モニカが目を輝かしながらそう言った。さらには村人たちまで目を輝かしてヴェリを見ている。
モニカたちは今まで手作業で水をやっていたのだろう、魔法を使って水やりができれば労力が全然違う。しかも、モニカとヴェリで作業を分担できるので、魔力が空になる心配もない。
「モニカ、ボクなら手伝うよ」
「お願い」
人間不信のヴェリが、モニカには普通に接している。
同じ転生者のため警戒していないのか?
なんにせよ警戒していないのなら、今後の農作業は問題なく進みそうだな。甜菜の育て方はオレとヴェリが知っているが、この村に詳しいのはモニカたちだ。お互いに交流しながら育てる必要があるからな。
「モニカ、水を大量に入れられる桶はないか?」
「用意する」
村人たちによって大きな桶が用意され、桶の中に近くの小川から水を入れていく。今回使う分が十分に溜まったところで魔眼を使うのだが、モニカから注文が入った。水やりが終わったら種子の数値を再び変更するので、魔力を残すようにとのことだった。
「魔力を残すというのは魔眼の使用を途中で止めれば良いのか?」
「そう。加減を覚えると調整できて便利」
「なるほど」
モニカと二人で魔眼を使って、普通の水を植物が育つ水へと変化させる。
魔力を止めるというのも魔術を使っていれば使うことになる技法であり、そこまで難しい技術ではない。魔法眼に比べたらモニカの生命眼は使いやすいな。
ヴェリによって水をまかれ、用意した全ての種子が発芽していく。後は植えるだけらしく、一株植えるところを見たところで、モニカから種子の数値を変えると家に連れ戻された。
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