第30話 生命眼
アルミンの忠告を聞いて、思いを寄せすぎないようにと改めて認識したところで、家の中に戻ることにする。
魔法で体を乾かして、服を着る。
先ほどの部屋に戻ると、アンナ様だけではなく、イナ、モニカ、ヴェリが増えたいた。
先に謝っておいた方がよさそうだ。
「モニカ、勝手に魔眼を転写してしまって申し訳ない」
「気にしていない。急に使ってごめんなさい」
「いや、オレが説明しなかったのが悪かった。気にしないでほしい」
「ん」
魔眼の能力が転写されるのは気分がいい者ではない。アンナ様が取り持っておいてくれたのだろうか、機嫌を損ねていないようで良かった。
モニカが頷いたことでこの話は終わりとする。
「モニカ、ゲオルクに魔眼の使い方を教えてもらえませんか?」
「いいよ」
アンナ様が交渉すると、モニカは簡単に許可を出してくれた。嬉しいのだが、いいのだろうか?
「いいのか?」
「うん。作物一人で育てるの大変だから、人数増えると楽」
「一人?」
広大とも言える農地を一人で面倒を見るのはどう考えても無理。そもそも、村には村人が何人もいるだろう、一人で作物の面倒を見ているとは思えない。一体どういうことだろうか?
「モニカの生命眼は種を改良できるのと、育つのが早くなる」
種子の改良と育成の速度が上がるって、ヴェリの魔法眼もすごかったが、モニカの生命眼もすごいな。
「どの程度育つのが早くなるんだ?」
「持ってきた種だと、二人でやれば二回収穫できるかも?」
倍の速度で育つとは思いもしなかった。とんでもない魔眼だな。
モニカがいればヴァイスベルゲン王国の食料事情を改善できるのではないだろうか?
「農地を広げればもっと収穫できるのか?」
「無理。魔眼を使うには魔力が必要」
「ああ、それで一人で育てるのが大変と言ったのか」
「そう」
魔法眼が魔力を使うように、生命眼も魔力を必要とするのか。一応オレの転写眼も魔力を使って転写するが、一度転写してしまうと特に魔力は必要としない。転写時に使用する魔力は、半日寝込むと魔力は回復してしまっておりよくわからない。
「種子を改良するのにも魔力を使うのか?」
「そう。改良する時にどの程度で育つかもなんとなくわかる」
「なるほど」
甜菜ぽい作物は大体六ヶ月ほどで収穫ができる。ヴァイスベルゲン王国は夏が短く冬が長い。そのため、春に植えても雪が軽く積もり始める頃まで育てる必要があり、収穫できるのはどう頑張っても年に一度。
雪が積もり始める頃は、蟲が冬眠に失敗している場合があり、餌を求めて凶暴になっている。普通は作物を滅多に狙わないのだが、冬眠に失敗した蟲は作物すら食べ始める。しかも、好物の砂糖が含まれる甜菜ということで、一度食べると味を覚えて食い荒らされる。
モニカの生命眼で収穫時期をずらせるのなら、一度目の収穫に限れば蟲に狙われる可能性は低くなりそうだ。
「二人分の魔力があれば二回分の収穫ができるのは大きいな」
「うん。まずは種を改良する」
持ち込んだ種子をモニカから渡される。
「魔眼を使って種を見る」
モニカの指示通りに魔眼を通して種子を見る。成長速度5・大きさ5・数5・耐性5・栄養素5、と不思議な表示が現れた。
「五つの項目と数値が現れたが、これは?」
「魔眼を使って数を変えると種が変わる。項目はさらに細かくみることができて、種ができるまでの期間が見える。だけど、改良時は細かく設定すると大変だからそのまま使う」
普通なら何世代もかけて変異させるところを、魔眼で品種改良してしまうのか。遺伝子組み換えに近い性能を持っている。魔眼は強力な物が多いらしいが、モニカの魔眼は想像以上にすごい。
「この数値を変えれば種子が変化するのか?」
「そう。だけど数を上げすぎると、大きな変化に植物が耐えられない」
魔眼を使ってるとはいえ、植物の方が耐えられないのか。耐性というのを上げればいいのではと思ったが、中を見ると病気や温度への耐性だと分かった。
「変化に耐えられるのはどの程度?」
「各項目を一は確実に上下できる。二以上は植物による」
「今回は全体を一上げるだけがいいか」
「それがいい。試してみて」
試しに数値を一ずつ上げようとするが、どうやってやればいいのかと不思議に思う。魔眼を通して見えている数値は実際に表示されているわけではなく、指で数値を変えられない。モニカが詳しく説明しないということは、呪文など特殊な行為が必要ではないのだろう。
念じれば上がるのではないだろうかと、数値を見ながら一上がれと考えると上がった。
正解だったようだ。
魔眼の使用をやめて種子を観察する。
数値を上げたところで種子自体には変化がなく、魔眼を使わなければ何が変わったのかわからない。
これ混ざったらわからなくならないか?
「モニカ、できたので確認して欲しい」
「ん」
モニカは種子を見てすぐに問題ないと返してくれた。そして種子を袋に戻さず別の場所に置いた。
「やはり混ぜるとわからなくなるのか?」
「魔力を吸っているから頑張ればわかる」
変化がないと思ったが魔力を持っているのか? 船頭するのに魔術を使うことが多かったため、魔力があるかどうかは割とわかる方なのだがな。
種子を観察すると、確かに魔力が感じられる。しかし、保有している魔力が少量すぎて観察しないとわからないほどだ。なので頑張ればか……。
「最初から分けておいた方がいいな」
「同じ袋に入れると探すのもっと大変」
同じ種子の中から少量の魔力が宿った種子を見分けるくらいなら、先に分けておいた方がよさそうだ。絶対いつかは間違える自信がある。
「種子を改良して、農地に蒔くのか」
「種を蒔くのはお父さんたちがやってくれる」
「そこは分担できるのか」
「モニカたちがやるのは、魔眼で種を発芽させる。それは種を蒔いた時に教える」
「今は種子の改良か」
年二回収穫するなら可能な限り早く種子を蒔いた方がいいだろう。時間もないことだし、早速作業を開始する。
オレは袋から種子を取り出しては数値を変えていく。
モニカと二人、無言で種子の数値を変え続ける。
十個ほど数値を変えたところでもっと効率のいい方法はないのかと思ってしまう。
「モニカ、これは一気に変えられないのか?」
「ある」
「ならなぜ一個ずつ?」
「問題がある種子が混ざっている。続ければわかる」
よくわからないが、モニカに言われて魔眼で数値を変更していると、何も表示されない種子が現れた。魔眼が上手く使えていないのかと思い、角度を変えてみてみる。
「その種子は発芽しない」
「発芽しない?」
「食べられて中身がないか、種の形成に失敗している」
そういえば水に種子を沈め、浮く種子は発芽がしにくいのではなかっただろうか。水に浮かべれば調べるのも楽そうだが、他にも事情がありそうだ。数値の変更を続ける。
魔眼を使い続けていくと、種子によっては初期の数値が極端に悪いものを見つける。耐性1とか既に病気か何かになっているのではないだろうか。変更できても耐性2にしかならず、病気になってすぐに枯れてしまいそうだ。
モニカから極端に数値が悪いものは捨てると言われ、その通りに数値を変更しないで別の場所に分けておく。
ひたすら作業を続けていると、最初から数6という数値になっている種子に出会った。魔眼を使った時に流れ作業的に変えてしまったのかと思ったが、変更する数値は流れとして決まっており、数は最初に変更していなかった。
「モニカ、数6というのを見つけたんだが」
「6ならそのまま上げていい。8以上は取っておく」
「変えたらいけないのか?」
「同じ数値の種子と掛け合わせると同じ数値が生まれやすい」
「品種改良するのか」
モニカの魔眼である生命眼は使い道が多いな。
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