第27話 ヴァッサーシュネッケ村
ハーゼプラトーにアルミンとヴェリを連れてきて二日。
転生者のモニカという人物がいる農村までは早速向かうこととなった。
王都からの移動を含め、休みなく連日の移動しており、疲れていないと言ったら嘘になる。それでも今は少しでも時間を無駄にするわけにはいかない。
昨日は移動がなかったが、持ってきたものの仕分けをしていた。移動がなかったため、多少休めただけよかったといえる。
「ゲオルク、連日の頼み申し訳ありません」
「必要なことだと理解しております。お気になさらず」
アンナ様は髪を三つ編みにして、乗馬服姿。今回もまたアンナ様は馬車ではなく、シュネーに乗って移動する。やはり時間の都合上、急ぐために馬車は使用しないようだ。
今の所、アンナ様が馬車に乗っている姿を見たことがない気がする。
もう少し状態が落ち着けばそれも変わるのだろうか。
「イナ、準備はできましたか?」
「完了いたしました」
驚いたことに侍女のイナも乗馬服であり、馬に乗れることがわかった。しかも腰には剣を差している。
川を渡る時に護衛として連れていくようにとアンナ様に言っていたが、イナは本当に護衛として役に立つほどの人物だったようだ。
「参りましょう」
「はっ!」
兵士のラルフが再び先頭を走り出す。
今回もまた多くの兵士を連れての移動。そして、オレは何故かまたアンナ様に近い位置にいる。今回はアルミンやヴェリもいるが。
「アンナ様、兵士の人数が多いのは護衛ですか?」
「護衛もいますが、森の調査をするための人員でもあります」
先を見越して動いているようだ。
「どの程度、森の調査に残すのです?」
「最低半分はヴァッサーシュネッケ村に残す予定です。私たちとは別で、馬車を使って人員を移動させる計画もあります」
王都から帰ってきて五日目。短期間でそこまでのことができるとは思っていなかった。兵士の配置を変えるのは簡単ではなさそうに思えるが、アンナ様たちはやり遂げている。
「ところで、エマヌエルとイレーヌは一緒ではないのですか」
「二人はイルゼの手伝いをさせるため、城に残しました」
「イルゼの? アンナ様の手伝いではなく?」
「私は伯爵を継ぐ予定ではありませんでしたから、本来やらなければならない仕事も満足にはできません。イルゼの方が詳しいほどです。そのため、イルゼが采配しやすいように人員を配置した方がいいのです」
第四王子の婚約者であったのだし、当然爵位を継ぐような教育はされていないか。むしろされていた教育は、王族の婚約者としての立ち振る舞いなどだろう。
王都から帰ってきた時、アンナ様がイルゼに真っ先に事情を説明していた。その時も思ったが、実質カムアイス伯爵家を動かしているのはイルゼなのか。
「アンナ様はよくやっています」
「ありがとう、イナ。それでも一年程度ではお父様やお兄様のようにはできないわ」
「どちらかといえば、そつなくこなしているイルゼお祖母様の方が普通ではありません」
「確かにイルゼはすごいわ」
アンナ様の近くで馬に乗りながらも控えていたイナが会話に加わってきた。アンナ様を励ましたかったようだ。本来ならオレがすべきだったかもしれないが、実際どのように働いているか想像もできなかった。
確かに王都と比べてカムアイス領の治安の良さを考えれば、十分以上に領地をうまく治められているのではないだろうか。それがイルゼのおかげだとすれば、イナの言う通りに普通ではない気がする。
イルゼを紹介された時に、元侍女長だと言っていた。侍女であれば多少は仕事の内容を知っていたとしても不思議ではないが、伯爵の代わりに領地の運営ができるのは普通ではない。
アンナ様と話していたイナがこちらを向いた。
「ゲオルク様、会話に割り込んでしまい失礼いたしました」
「気になさらないでください。お二人の話からカムアイス領の治安が維持されている理由がわかりました」
「はい。アンナ様とお祖母様は努力しております」
努力の結果が国を出ることになるとは、なんと悲しいことか。
だが、アンナ様が国に残れば王は何をしてくるかわからない。残るわけにもいかないのが現状。生きるためには亡命するしかない。
アンナ様やイナと時折会話をしながら、モニカが住むというヴァッサーシュネッケ村へと急ぐ。
本来なら一泊するような距離らしいのだが、全員が軍馬での移動ということで、夕方前には村まで着けるようだ。開拓地の終点に向かう道ということもあって、人通りが少ないのも移動速度が上がる理由とのことだ。
街道を進み、大きな農地が広がる農村へと入っていく。
通り過ぎるだけかと思っていたら、先頭が止まり始めた。
「アンナ様、ここが目的地なのですか?」
「ええ、もっと狭いと思いましたか?」
「正直にいうと、その通りです」
「ヴァッサーシュネッケ村は少々傾斜はありますが、カムアイス領でもそう見ることのない土地の広さですよ」
ヴァイスベルゲン王国は山脈が続く地形であるため、平地が非常に珍しい。多少傾斜がある程度であれば、農地として使用する分には気にならない程度なのだろう。
しかも開拓地ということは、森を切り開けばまだ農地は増やせるのだろう。
アンナ様は村の中でも大きな建物に近づくと、馬を降りる。
オレたちも続いて馬を降りる。
目の前にある家を確認していく。この家だけは石造りで、他の家より随分と堅牢な作りになっているようだ。蟲が出た際に、避難所として使われる建物だと予想できた。
中から男が出てきた。
「何事……ア、アンナ様!?」
「リウドルフ、息災でしたか?」
「は、はい」
リウドルフと呼ばれた男は、大柄な体格だが挙動不審に手を動かしたり視線を彷徨わせている。アンナ様の知り合いのようだし、怪しい人ではないのだろう。むしろ、アンナ様が急に訪れて驚いているのではないだろうか。
「リウドルフ、モニカはいますか?」
「ええと、申し訳ありません。今、外に出ておりまして……」
挙動不審な動きから、ペコペコと頭を下げながら謝り始めた。
「イナ、モニカを探すように手配を」
「承知いたしました」
返事をしたイナは、アンナ様のそばを離れ、どこかに行った。
「アンナ様、モニカにどのような用事でしょうか?」
「育てたい作物ができました」
「なるほど?」
本当にわかっているのか怪しい返事をリウドルフがした。
「それと、モニカに同じ転生者の紹介をしたかったのです」
「転生者?」
「ゲオルクとヴェリです」
オレは頭を軽く下げる。
リウドルフがオレの魔眼に視線を固定しているのがわかる。次いで動かした視線の先にはヴェリがいる。オレたちを見る目に嫌悪するようなものは含まれていない。どちらかというと、困惑した表情をしている
「二人とも転生者?」
転生者が珍しい存在であることは知っているようだ。
頭を下げただけではなく、オレから名乗っておく。
「ゲオルクと申します」
「ヴェリです」
「ご丁寧にどうも。オラはリウドルフと言います。モニカの父で、一応村長をやっております」
モニカの父親というのも驚きだが、村長だったのか。
「リウドルフ、一応ではありませんよ。きちんと村長に命じています」
「は、はぁ。オラはモニカのオマケですし」
「モニカを守るのでしょう?」
「はい。それはもちろん」
二人の話から、なんとなくリウドルフが村長になった経緯が予想できた。モニカを守るために村長になったのか。
「リウドルフ、とりあえず家の中でモニカを待たせてもらっても?」
「ああ! 失礼しました!」
慌てたリウドルフが家の中に入るよう勧めてくれた。
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