第23話 お土産
アルミンは魔術の研究をしていることが多く、出かけてはいないだろうと思っていたが、探し出すのも大変なため家にいて良かった。
想定より早く着いたとはいえ、すでに夕方近い。今日はどちらにせよ開拓した場所まで行けそうにない。急ぎフィーレハーフェンを出るのではなく、アルミンに軍馬とエマヌエルを紹介する。
「アルミン、お土産をもらってきたぞ」
「そんなのいいのに。あれ? もらってきた?」
「自分で買ったわけではないので、もらってきただ」
「どういうこと?」
「外にあるので見てほしい。それと紹介したい人がいる」
「えっと、わかった」
不思議そうな顔をしたアルミンを連れて外に出る。
外では馬の面倒をエマヌエルが見たいた。
「エマヌエル、話していたアルミンだ」
「カムアイス伯爵閣下の執事を致しております。エマヌエルと申します」
「ア、アルミンと言います」
アルミンがエマヌエルと挨拶をした後、オレの方を向いた。どういうことかと視線で訴えかけてくるのがわかる。
「アルミンもオレがアンナ様を連れて王都まで行ったのは覚えているだろ?」
「それはもちろん」
「色々あってアンナ様と一緒に帰ってきた」
「色々って?」
「説明はしたいが……」
オレは周囲を見回す。
フィーレハーフェンは田舎ではあるが、他領との経由地なだけあって住んでいる人は意外に多い。大都市とはいえないが、小さな街という規模はある。
外で込み入った話をすれば、近隣に聞こえてしまう。
「エマヌエル、どこで話をすべきでしょうか?」
「フィーレハーフェンには兵士が留まる関所がありますが、そう大きくはありません。それに兵士にも話はまだされていません」
「となるとアルミンの家か」
「アルミン様がよろしければお願いいたしたい」
アルミンに視線を向けると、よくわかっていなさそうだが頷いた。
「うちで良ければどうぞ」
「では馬車を預けて参ります」
「馬車は庭に置いておくことになりますが、馬は牛と一緒でいいなら小屋もありますよ」
「使わせていただきます」
アルミンの家はフィーレハーフェンでも大きいだけあって、船を川から引っ張り上げるための牛や馬を飼っている。フィーレハーフェンの船頭長は基本持ち回りだが、牛や馬を飼育している家が選ばれることが多い。
家畜の飼育は財力があるとみなされ、地区の顔役になるようだ。
乗ってきた馬車を小屋の前に移動させる。
馬や牛を飼っている小屋は思い入れがある場所だ。オレが親から捨てられた後、アルミンの祖父であるバスティアンに拾われた。最初にバスティアンから任せられたのが、小屋の清掃と飼っている牛と馬の世話だった。
とても世話になったバスティアンは若くして亡くなってしまったのが残念だ。
馬車にしっかり車輪止めをしてから、繋いでいた馬を外す。馬を連れて、小屋の中に入る。
小屋の中にはヘルプストがのんびりと草を食んでいた。
「ヘルプスト、元気だったか?」
ヘルプストを撫でると、覚えていたようで警戒している様子がない。
そして腰元にある鞄へと頭を近づける。
どうやら砂糖を強請っているようだ。久しぶりということもあって、一粒あげると喜んだ。
「新入りをよろしくな」
「ブル」
ご機嫌な様子で返事を返してきた。
伝わっているかは怪しいが、機嫌がいいなら問題ないだろう。
「家に行きましょう」
「はい」
アルミンの家へと向かう。
家の中にはアルミンの父であるアーノルドと母であるドロテアがいて、オレとエマヌエルに挨拶してきた。
アーノルドが済まなそうにオレに謝ってくる。
「またゲオルクに世話になってしまった」
またとは、アルミンの代わりに徴兵されたことを言っているのだろう。
今回に限っては徴兵に比べたら勝算はあったので、そこまで気にする必要はないのだがな。それに、今生きているのはバスティアンやアーノルドのおかげだ。
「アーノルドやバスティアンにそれ以上に世話になった。それに、弟だと思っているアルミンを見捨てられない」
「気にしなくてもいいのだが……。父も同じように考えるだろうしな」
アーノルドから前回の徴兵の時も同じようなことを言われた。アーノルドの性格ならそういうのもわかるが、オレは受けた恩は返したいのだ。前世からの性分と言えるだろう。
そこが変わってしまったら、違う何かになってしまう気がしている。
「アルミン、アーノルド。それより例の話がしたい」
「例のとは、例のか?」
アーノルドもオレの亡命について知っている。
アルミンを連れていく場合、両親に話を通しておくのは当然だろう。当然反対されたが、他に方法がないことと、成功する可能性があることがわかってからは明確に反対されなくなった。
アーノルドとアルミンが、エマヌエルとオレを交互に見ているのが分かる。
「他言無用だと約束して欲しい」
アルミン、アーノルド、ドロテアが頷いたところで、川を渡った後から順番に話していった。
話終わったところでアルミンがオレに尋ねてきた。
「つまり計画を大規模に変更するってこと?」
「そうなる」
「規模が大きくなるほど安全になる。僕は賛成だね」
反対はされないと思っていたが、アルミンが賛成してくれて良かった。反対された場合どうしようかと少し考えていた。
「だけど話を聞く限り、父さんと母さんも移住を考えた方がよくない?」
「そうだな……」
今後カムアイスを収めるのが誰になるかが分からない上に、今のように安全な街ではなくなりそうだ。アーノルドから、移住は帝国での生活が安定したら考えると言われていたが、移住する気がないのは察していた。
悩むアーノルドにエマヌエルが話しかけた。
「まだ本格的に決まったわけではありませんが、一部の者たちは正規の街道を使って帝国へ移動することも視野に入れております」
「そうなのですか?」
「はい。戦闘ができない人が森に入るのは危険ですので、兵士の家族などは別で移動する予定となっております」
オレは兵士の家族についてまで考えていなかった。
百人の兵士を連れていくなら、その倍以上の家族がいることになる。かなりの数が移動することになる。アンナ様は兵士たちの家族も帝国へ移住できるようにしたいと考えた。
一番の問題は、帝国へ出国する許可証が作れるかどうかだ。
「通行許可証はどうするのです?」
「現在、カムアイス伯爵家で準備する許可証では国境を越えられません。他の貴族が発行する許可証が必要になります。付き合いのある貴族に用意してもらう予定となっております」
用意するのは大変だが、アンナ様は用意したいと考えている。
リラヴィーゼ王国派閥の貴族にお金を払って用意する予定らしい。元々は派閥争いなどなかった国なので根本的に仲が悪いわけではなく、頼めば請け負ってくれる貴族は何家かあるとのことだ。
「私と妻の分も用意してくれると?」
「はい。移住を検討されるようでしたら、ご用意いたします」
「確実に移住を決定したわけではないのですが……」
「移住を検討されるようでしたら用意いたします。カムアイス伯爵家で用意できるものではないため、急には用意ができませんので」
「分かりました。よろしくお願いいたします」
「承知いたしました」
アーノルドがエマヌエルに頭を下げた。
エマヌエルがアーノルドとドロテアの書類に必要なことを質問して書き記していく。
エマヌエルが仕事をしている間に、オレはアルミンに明日の予定を話す。
「アルミン、明日はヴェリの元に行く」
「わかった。種を取りにいくんだね?」
「そうだ」
オレとエマヌエルは、アルミンの家に余っている部屋で泊まることになった。
「そういえば、お土産ってなんだったの?」
「あぁ、軍馬を一頭もらってきた」
「軍馬!?」
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