第12話 関所と盗賊
フィーレハーフェンを出て三日目。
順調に進んでいることもあって、今日中に王都へとたどり着けそうだ。
「アンナ、昨日伝え忘れたのですが、やはり王都周辺は盗賊が出るようです」
昨日は街道が安全ではないと、警戒を続けたせいかアンナ様とオレは食事を食べ終えると眠くなってしまった。お互いに船を漕ぐように体が安定しないのを見て笑い合い、翌日に備えて早めに寝ることにした。
「治安が悪化していますね」
「はい。食い詰めているものも多くいるようです」
アンナ様は憂いを帯びた表情でため息をついた。
そのような表情を浮かべるのもわかる。オレも国の将来が不安でしかない。国が貧しくなればなるほど、転生者であるオレへの当たりもキツくなりそうだ。
アンナ様を送り届けた後のことを考えないとな。
「アンナ、いきましょうか」
「はい」
アンナ様と宿屋を出る。
シュネーに乗って王都へ向けて街道を走り出す。
警戒しながら移動していると、向かう先から人が来てすれ違うようになってきた。
昨日の宿屋も泊まっている人は多かったようだし、危険には近寄らない慎重な商人までいた、街道は安全と考えて良さそうだ。街道脇の警戒を緩めても問題ないだろう。
「アンナ、警戒を少し緩めましょう」
「ええ」
「盗賊のために、交代で警戒しませんか?」
「そうですね」
警戒している時間が減ったことで、気を張っている時間が減り多少楽になった。
昼前に、再び関所を見つけた。
「アンナ、関所です」
「こちらには兵士がいるようですね」
遠目でも関所前に兵士が立っているのが見える。また関所の前では馬車が止められて荷物を確認されているようだ。
「ゲオルク、忘れていないと思いますが確認しておきます。通行書に書かれている内容は、ゲオルクは商人。私はゲオルクが奉公している商人の娘です」
「はい。今回は治安の悪化を理由に、店の移転のため王都に来たという設定でしたね」
「そうです」
通行書を作れるのは貴族か、貴族から管理を任されている役人だ。
当然伯爵であるアンナ様は書類を作れる。本来は褒められた行為ではないが捏造も簡単というわけだ。
王からどのような命令が出ているか分からないため、邪魔される可能性を考慮して書類は捏造されている。オレの書類は報酬のうちに入っており、今後好きに使って良いと通行書を渡された。
通行書は国内でしか使えないが、行ける場所が増えたのはありがたい。
関所まで距離があるうちに眼帯をつけて魔眼を隠しておく。関所の確認はそう厳重なものではなく、眼帯を取るようにと言われるものではないとアンナ様から教わっている。
魔眼で心証が悪くなって詳しく調べられるとまずい。先に隠しておく。
関所前までくると、シュネーから降りて順番待ちをする。
兵士が何人もいるのですぐにオレたちの順番が回ってきた。
「書類に問題なし。目的地は王都か?」
「はい。安全の確保をしたいのと、店の移転のため下見に向かいます」
「ふむ、カムアイスも治安が悪化しているか」
「はい。王都周辺の治安はどうなのでしょうか?」
「良くはないな。盗賊が出る」
「盗賊が出ると道中に聞いていましたが、本当でしたか」
「残念ながら本当だ。だが、盗賊は馬を持っておらん、馬で走り抜ければ問題ないだろう」
「分かりました。止まらず走り抜けることにします」
「うむ。そうするといい。よし、検査は終わりだ」
兵士の確認が終わったところで、通行税を払う。一人銅貨一枚と、馬一頭で銅貨一枚、合わせて銅貨三枚を支払った。
オレは銅貨一枚百円と計算しており、関所を通る費用が思った以上に安い。お金を取るためではなく、行き来する人と荷物を確認するための場所のようだ。
「行ってよし」
「王都周辺のお話、ありがとうございました」
「ああ、気をつけるのだぞ」
オレは頭を下げてシュネーに乗る。アンナ様を前に乗せて、シュネーを走らせる。
関所から離れたところで息を吐く。
「兵士がカムアイスと言ったときは焦った」
「今は川を渡れないことに気がついていませんでしたね」
「ええ。こちらの話に乗ってくれて助かりました」
こちらを心配してくれる真面目で優しい兵士だった。
優しいからこそオレたちを見逃してしまった気はするが、伯爵が作った正式な書類に一般兵が疑問を持てないだろう。
しかし、兵士にアンナ様を探しているような雰囲気はなかったな。
川を渡らない場合は西側の街道を通って王都へ向かうことになる。北側の街道には何の命令も来ていないのかもしれない。
関所を超えて安堵したが、今度は盗賊の問題がある。あまり気を抜いてもいられない。つけていた眼帯を外す。
盗賊がどのあたりから出てくるかわからないため、再び周囲を警戒しながらシュネーを走らせる。
「ゲオルク、海が見えてきました」
「海」
山を登り切ったところで、遠くに海が見えてきた。
王都は海に面した都市で、ヴァイスベルゲン王国でも一番南側にある。つまり王都が目の前に迫っているということだ。
「北側の街道からですと海が見えれば、王都はすぐそこです」
「では盗賊もそろそろ出るということですね」
「ええ、おそらくは」
山をもう一つ登って下った先は平地になっており、普段は小麦でも育てるためであろう畑が広がっていた。その先には海に面した王都が見える。
真っ白な石で建物が作られた王都は全体的に白い。
王都は城壁で守られながら海岸線沿いに発展しており、長細い形をしている。王都の中には小さな川が一本通っており、川の上には石の橋がかけられている。
王都は港としても機能しているようで、遠目にも分かるほど船が係留している。
「王都ヴァイス」
「ここまで来られましたか」
もう本当に目と鼻の先だ。
最後の最後まで何があるかわからないと警戒しながら進む。
街道と王都に流れ込む川が平行に走っている場所までくる。川は護岸工事されているのだろう、そう高くはない堤防が作られている。そしてその堤防の上に人が見えた。
春に仕事をしている農民ならいいが、そんな雰囲気ではない。
盗賊か?
一部の人間が堤防から降りてくる。
「止まれ!」
大声で止まるように命令してきた。やはり盗賊だったようだ。
事前に聞いていた通り、ろくな武器を持っていない。しかも痩せ細っており、食い詰めているのが見て取れる。堤防から降りてくるのも随分と遅く、道を塞ぐことすらできなさそうだ。
商人や兵士の忠告通りにオレは無視してシュネーを走らせる。
「追いかけてすらいませんね」
他に堤防から降りてこないか注意していると、後ろを確認していたアンナ様の言葉でオレも後ろを一瞬だけ確認する。
確かに盗賊は座り込んでおり、こちらを追いかける気もないようだ。むしろ追いかける体力もないと言った方が正解かもしれない。
「追ってこないとしても、王都まで急いだ方が良さそうだな」
堤防の横を街道が走っている場所は上から盗賊が降りてくるのが怖い。堤防とは距離を取って走っているが、隣り合っているので目の前に出られたら面倒なことになる。
魔法を使うことも考えながら堤防の上を警戒していると、堤防の上に人が見えた。
『轟け』
降りてこようとした動作を見て、雷のような音を発生させる。
堤防の上の人が咄嗟に屈んだのが見える。
シュネーが驚かないかが心配だったが、軍馬として調教されているからか平気だったようだ。
魔法で攻撃することも考えたが、盗賊とはいえ食い詰めたものを攻撃するのが無理だった。思いついたのは偶然だが、雷の音が鳴り響けば怖がって顔を出さなくなるだろう。
今のうちに兵士が巡回している王都の近くまで急いで向かう。
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