第2話

 というわけでやってきたのは我が愚姉の家。東京の一等地にそびえ立つ高層マンションはいやが応にもあいつの稼ぎの良さを感じさせる。

 インターホンを押すとガサガサと音が鳴ってやつが姿を現した。

「早く入れ。この部屋を外界にさらすな。」そう俺に吐き捨て、とてつもない勢いでドアを閉めたのは我が愚姉であり、今最も勢いのあるVtuber事務所と言われるリライトで3番目に多い登録者75万人を抱える配信の同接は連日6000人超えの、認めるのは癪だが大人気Vtuberである月城ルナこと藤田心海である。

 プライベートではあんなに口が悪いと知ったらリスナーはどう思うのだろうか。いや、特に何も思わないな、多分。配信でも手ひどく負けたときなんかはFPSプレイヤーらしさの片鱗が見えるし、姉の所属する事務所はFPSの配信を中心としているから台パンや暴言は日常茶飯事。正直リスナーやコラボ相手も察している部分があるだろう。

「明日はオフコラボだっけ?誰が来るの?」

「えっと、ミアとレイと、あとゆき。4人で麻雀する。」

「ゆきくん来るの!?」なんとこの汚部屋に明日俺の最推しであるゆきくんもくるらしい。それはまずい。一刻も早く掃除に取りかからないと。

「あ、ゆきとミアは今日から来てうちに泊まるから。」

「それを早く言え!」そうなるとこの家全てを片付けることは不可能だ。

「どの部屋使う気でいる?」

「うーんとね、リビングと配信部屋は確定で、鍋パするからキッチンとかもかなぁ。寝るときは布団敷いてリビングで3人で寝ると思うからそれだけ。」

 キッチンはあまり掃除の必要はないだろう。あいつは生活力が皆無すぎるからキッチンで料理なんぞするわけがない。それにあいつは配信モンスターだからあまりリビングには居着かないはず。したがって、喫緊の課題は配信部屋だろうか。ともかく現状を知らないことには何をすべきかなどわかるはずもない。そう思い、俺は魔境に足を踏み入れた。

「うわぁ......。きったな。」

散らかったポリ袋。汁が残ったまま放置され、異臭を放つカップラーメン。仕事の書類なんかもその全てが床にぶちまけられて足の踏み場もないという始末。どうしたらこんな状態まで放置できるのか。

「あんた、すごい顔してるよ?大丈夫?」

「.......大丈夫なわけあるか、なんだよこの部屋は!どうやったらこんなに部屋を汚くできるんだよ!!ゆきくんが来るって言わなかったら俺は帰ってたからな!!!」

「まぁまぁ、落ち着いて。」

「黙れ。」



 その後の俺は鬼気迫る顔で掃除をしていたらしい。

「あんな急いでる人初めて見た。」とはずっとリビングでスマホをいじっていた姉の言葉である。死んでほしい。

「報酬ちょうだい。」

結局掃除には4時間半位かかった。

「いくらだっけ?まぁいいや、5000円くらいd「舐めてんの?殺すよ?桁から違うからね?」

「......わかった。2万でどう?」

「許してやろう。」

 金銭のやりとりも終え、さぁ帰ろうかと言うとき。インターホンが鳴った。

「嘘。もう来たの?」

「誰?」

「ゆきたちだと思う。あんた隠れてて。」

「は?どこに?」

「配信部屋、はまずいか。私の寝室に居て。」

「わかった。」

 俺たちが姉弟であることは秘密にしている。それは姉の箱のメンバーに対しても例外ではない。妹の虹心にこが姉と姉妹であることは公表しているのだが、その姉妹と俺には血のつながりがなくて何も似ている部分がなく、兄弟と言ってもリスナーからは彼氏だと疑われるのがオチだということで、公表しないということを姉弟会議で決定したというわけである。しかし、今までこんな危機が訪れたことはなかった。なんとか隠し通せるといいのだが、そんなことを見るに堪えないほどに汚い寝室の中でで祈っていると、唐突に寝室のドアが開けられた。

すると初めて見る女の人が居て。

「あ、居た。」

月城ルナの弟がゲーム配信者であるふーかであることが2人のライバーに明らかになった。


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