世間は意外と狭い。

第1話 

 スマホから鳴る通知で目が覚める。現在は午前4時。なんて時間にたたき起こしてくれるのだと思ってディスコードの通知に目をやると予想通りの展開だった。何が悲しくてこんな時間から男だらけのLOLカスタムなんぞをやらねばならんのだ。

 そう思ったため、「むり、ねる」とそんな返事だけを返して眠りにつく。

 こんな生活リズムの乱れも、配信者という肩書きだけで許されてしまうのだから何か得した気分になる。

 プロゲーマーを辞めてそのまま同じチームのストリーマーとしての活動を始めて2年が経った。プロ時代も結局配信はしていたのだが、メインはゲームを競技としてプレイすることだったためそれのために生活を捧げる必要があったし、楽しんでゲームをするということは難しかった。しかし、正式に肩書きが配信者となったおかげでなににも追われず、悠々自適の暮らしを送っている。

 やはりなににも追われることのない生活というものはよいものだ。そんなことを考えていると、再びスマホの通知音が鳴る。今度は何だ。奴らもしつこいものだと思って届いたメッセージを見ると、その通知はラインのものだった。

 俺も配信者であるから、あまり軽率にラインの交換はしないのだが、それでもこんな時間にラインを送ってくるということはやはり常識の通じない相手。すなわち同業者か、うちのとち狂った義母やそれにくっついてきた義姉妹どもしかいないであろう。 母は俺が12歳の時に父親が再婚してできた母親なのだが、確かに美人であることは認めるし、何なら公認会計士の資格も持っているというから有能であることは間違いないのだが、何せ頭がおかしい。また、それについてきてできた義姉や義妹もやはり狂人であった。しかも全員タイプが違うという厄介さ。しかし、配信者としてはあいつらのほうが先輩で、登録者も多いため、しぶしぶいうことには従ったりしているのだが。

 そうしてメッセージをよく読んでみるとやはりメッセージの送り主は我が愚姉であった。「明日うちの箱の後輩たちがうちの家くるから部屋の片付け手伝って。」だそうだ。手伝ってとは白々しい。今まで俺がやつの家に行ったとき、あいつは一度たりとも片付ける素振りを見せたことはない。あるときには挙げ句の果てに「コンビニ行ってご飯買ってくる。」などと抜かして帰ってきたのは2時間後。何をしていたか問い詰めたところ俺の夜ご飯もついでに買ってこようと思い立って二つ弁当を購入するも、帰り道でたまたま見かけたホームレスになぜかは全くわからないが一つ渡してしまったらしい。そんなことをしている自分が高尚な人間だと思えたらしく、そんなことを何回も繰り返してホームレス界の女神になっていたところ、気づいたら2時間たっていたそうだ。しかも結局自分の分の弁当しか買ってこないという。まぁ、そんな姉なのだが。それでも金払いがいいので、結局いつも姉にいいように使われているのだ。母や妹もまぁ同じくらいの狂人なのだが、それを説明する機会はいずれ訪れるだろう。

 そんなこんなでもう時間は午前6時になっていた。結局姉のメッセージには承諾の返事を出しながら好きでも何でもないコーヒーを淹れる。ちなみに普段はそんなことはしない。ただ推しがそうすると言っていたからそうしただけだ。一口すすってみる。うん、苦くておいしくない。二度とやらないようにしよう。朝から最悪の気分になることになってしまうから。好きな人が好きなものが必ずしも自分の好きなものとは限らないのは世の常である。そういえば俺の最推しであるゆきくんも我が愚姉妹と同じ箱の所属である。世界は意外と狭い。

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